10#カモシカ、風船に助けられる

 野犬に噛み殺されそうになったカモシカのマウシイの命を救ったのは、マウシイがこの吹雪の中、必死で探してた赤いゴム風船だった。


 しかしその風船はヘリウムの浮力が薄れ、風雪でなびくのが精一杯の様子だった。 




 「ふ・う・せ・ん」



 痛んだ後ろ脚を引きずってマウシイはつぶやいた。


 それを見ていたミミカは突然現れた風船に、我を忘れていた。


 風船は野犬のそばでたなびいた。野犬はうっとうしくて、じゃれついた。その瞬間・・・




 ぱぁぁぁん!!




 野犬は風船に噛みついたのだった!


 伸びきっていたゴム風船の破片は、野犬の目を塞いだ。野犬はその風船を取ろうと必死にもがいた。



 きゃいんきゃい~ん!




 哀れな野犬は崖を踏み外し、崖下に転げ落ちていった・・・




 野犬は死んだのか?




 いや、カモシカはもうこりごりと、崖の下であざだらけでヨタヨタと今度は口にくっついた風船の破片をため息でぷくっとしながら逃げていった。




 「あの風船が自分を助けるためにまた戻ってきて、己を犠牲にして自分を守ったんだ・・・」


 目を涙で潤ませながらカモシカのマウシイはつぶやいた。

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