第15話

 部屋に案内されたので、約束の時間まで少し休むことにした。

 あれだけ色々あれば流石に疲れる。一度死んで、世界を滅ぼして、その後ダンジョンを走破して、街に入るために金を稼ぐ。

 まぁ最後はグレイブが頑張ってくれた訳だが、それにしたって濃密な一日だった。

 


「さてと……、ヘルプコイツの説明を頼む」


【かしこまりました】


 グレイブが新たに手に入れてきた魔剣の鑑定を始めた。本当は明日にしようかとも思ったのだが、人化のスキルを持っていると聞き、今日中にやってしまおうと思い直した。

 もしかしたら次こそは美少女が出てくるかもしれないだろ?


 魔剣の名は、メロデア・デ・ラ・マルテ。舌を噛みそうな名前だが、死の旋律という意味らしい。

 見た目は宝剣を思わせるほど美しいが、やはり魔剣は魔剣と言うことか。

 ヘルプ曰く、この世界には特別とされる武具が、大きく分けて三種類存在する。

 それは、魔剣、聖剣、妖刀。の三種である。魔剣は攻撃に特化しており、聖剣は防御に特化している。そして妖刀はそのどちらにも属さず、様々な力が宿っている。が、分かっている限り妖刀は呪い、いわゆる呪術系に特化しているものが多いようだ。


「なるほどね、この手の剣を集めるのも良いかも知れないな」


 人間を相手にするよりは剣を人化させた方が色々と都合がいい気がする。

 騙されることも利用される事も無いだろうし、何よりストレスが貯まらなくて済みそうだ。


【魔剣や妖刀の類は、稀にダンジョンや古代遺跡などで発掘される場合がありますが、聖剣に限っては各国、及び教会などで保存されているケースが殆どになります】


「なら魔剣を集めればいいさ、妖刀は癖が強そうだからパスだな。よし、ヘルプ契約を頼む」

 

【かしこまりました。魔剣への魔力譲渡を開始します――】


 手にしている魔剣が俺の魔力を吸い始める。これまたすごい勢いだが、グレイブの時に比べれば可愛いものだ。


――トクンッ。魔剣が脈を打ち、その力が目覚めたことを告げた。


 グレイブもそうだが魔剣というのは、契約後も常時契約者の魔力を吸い続けることでその力を維持している。

 むろん吸われる量は契約時に比べれば微々たる量ではあるが、一般的な人間からすれば維持し続ける事は困難だと思う。


【契約が終了いたしました】


「んじゃ早速人化させるか。メロデア・デ・ラ・マルテ、人化して姿を現せ」


 誰かに見られると恥ずかしいので、厨二台詞は控えておく。

 まぁ誰もいない場所なら思う存分吐き出すんだけどね。


 魔剣は、室内を染め上げる程の閃光を発し、次の瞬間には手元から掻き消えた。

 無事人化が完了したようだ。


「始めまして主様。僕のことはマルテとお呼びください」


「おぉ……ちと若すぎる気もするが、美少女だから良しとする!」


 現れたのは金髪碧眼の美少女。ショートヘアーで胸は……残念ながらペッタンコだが、まぁいい。俺は胸の大きさで女性を差別したりはしないのだ。

ただ少しだけ見た目が幼いのが気にかかる。


 ボクっ子かぁ。始めてみたけど良いね、悪くない。


「あっ主様……」


 白い短パンに銀のハーフプレート。さらにその上から白を基調としたサーコートを纏った美少女が身をくねらせる。

 見れば頬は桜色に染まっている。


 なんだこの感じ、キュンキュンする! 可愛いぞ、これは当たりを引いたようだ。


「どうした? 言いたいことがあるなら言ってみろ」


「実は、そのぅ……」


「ん?」


「ボクはおとこの娘なんです!」


 時が止まった。思考停止。息をするのすら忘れる。


 コイツいま男って言ったのか? いや待てマテ。どこからどう見てもコイツは美少女にしか見えない。

 これはあれだな……、疲れてるんだ。今日は色々あり過ぎて、疲れが貯まっているだけだ。

 きっとそだ、そうに違いない。


「……今なんて言った?」


 聞き返す。誤解は早めに解いておかないとな。女の子を男と間違えて、傷付けるような事があってはジェントルマンの名が廃る。


「そ、そのぅ……。あ、主様の記憶の中にあった、おとこの娘があんまりにも可愛かったもので……つい……」


「……つい?」


「おとこの娘になっちゃいました。てへっ」


「ノォォォォ!」


 俺は雄叫びを上げて崩れ落ちた。あんまりだ、いくら何でもこれはあんまりじゃないか!


「くそっ。神は死んだのか……」


【肯定です。マスターの力によって、この世界の神は一度死んでいます】


 死んでた。そういや俺が殺したんだった、てへっ。


「ってそうじゃない。お前本当に男なのか? この姿で? この可愛さで? 嘘だろ……、嘘だと言ってくれ!」


「でもぉ、ボク本当におとこの娘なんです」


 目の前で頬を染めるマルテに、どうしても納得がいかない俺はついに最終手段にでた。


 短パンの腰あたりを鷲掴みにし、一気にガバッとズリ下ろす。


「…………」


 付いてた。マジであれが付いてやがる。

 見ればマルテは目にうっすらと涙を浮かべ、なすがままに頬に手を当てている。

 羞恥心はありそうだが、隠す気はゼロらしい。


「あ、主様がお望みなら……」


「やめろ! 俺をそっちの世界に引きずり込むな!」


 マルテに背を向けて胡座をかくと、ふてくされたようにため息を吐く。


「ヘルプ、一応聞いておくが、アレは男なんだよな?」


【はい、チ○コです】


「そこは強調しなくていいから……」





………………。

…………。

……。





 その後、なぜかヒラヒラのメイド服に着替えたマルタを連れて、メイビンとの待ち合わせの場所へと向かった。

「従者らしい格好に着替えてみました」と満面の笑みで微笑むマルタに、なぜ執事服を選ばなかったのか聞いたところ、頬を染めて体をくねらせ始めたので突っ込むのをやめた。


 マルタの好きにさせよう。関わると疲れるし、san値が削られる。

 因みにマルタの為にもう一部屋追加した。一緒に寝るのは論外だし、爺とおとこの娘が一緒に寝てる姿を想像するのもキツい。

 出費はかさむが仕方がない。


「おっ、可愛いねぇお嬢ちゃん。どうだ、俺らと一緒に飲みに行かないか?」


「そんな、困ります……。ご、ご主人様……」


 後ろを歩くマルタが、また絡まれている。もうこれで何回目だろう。

 一ブロック進む度にナンパされている気がするな。


「マルタ、いい加減自分でどうにかしろ」


「そ、そんなぁ、見捨てないでください」


 祈るように両手を胸元で組むと、潤んだ眼差しで見上げてくる。

 くっ……。コイツは男だ! 立ち去れ煩悩。俺はノンケだ!


 現状マルタは弱い。グレイブと同じく契約したばかりの時は、レベル1から始まるらしい。

 魔剣のくせに弱いし、男のくせにナンパされてるし、すげぇハズレを引いた気分だ。


「なぁいいだろ? 優しくしてやっからよ、な?」


「やめてください! だめっ、離してっ」


 なんだか無性にイラッとする。ナンパしてくるオッサンにではなく、意外と満更ではない顔をしたマルタにだ。


 コイツ完全に楽しんでやがる。俺はオッサンに同情した。

 オッサン、あんた男をナンパしてるんだぞ? そいつには付いてるんだぞ? 哀れな……。 


「おいっ、てめぇ何見てんだ? お?」


 続いて俺が絡まれる。マルタが俺に助けを求めるものだから、結果的にオッサンの注意がこっちに向いてしまう。

 マジで面倒くさい……。早いとこマルタのレベルを上げないとどっちが従者か分からなくなるな。


 俺は無言で名も知らない哀れなオッサンのこめかみを鷲掴みにする。


「ガッ……。は、はなせ……」


 少しずつ、ほんの少しずつ力を加えていくと、オッサンは口から泡を吹いて気を失った。

 人間というのは耐えきれない程の痛みを受けると、自ら意識を手放すらしい。


 不思議だね。はははっ……。


「主様、ありがとうございます!」


「いいからとっとと先を急ぐぞ」


「はい!」


 相変わらずのあざとい乙女アピールを繰り出すが、俺はさらりと受け流した。

 腹も減ってるし、これ以上イライラしたくはない。


 さて、そろそろ行こうかと足を踏み出した瞬間。


「お嬢ちゃん、可愛い顔してるじゃねぇか」

 


――マジで勘弁してください――

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