第13話

『と言う訳でして、どうなさいますか?』


「良いんじゃないか? 商人と繋がりを持てるのはありがたいしいな。閉門までに間に合えばの話しだが」


『時間的には問題ないと思われます』


「そうか、なら護衛の依頼を受けて良いぞ。俺は門の近くで待つことにするから」


 念話を使ったグレイブからの報告を受け、指示を出す。

 かなりの距離が離れている筈なのだが、ノイズもなくハッキリと聞こえた。

 この世界のスキルはとんでもないな。これが普通なら科学が発展しないのも頷ける。

 大抵の事は、魔法とスキルと魔道具でどうにか出来てしまう。

 便利と言えば便利だが、発展が遅れるという弊害もあるようだ。


 待っている間にヘルプから色々聞いていたのだが、この世界は基本的に君主制の国が多いらしい。

 つまり絵に描いたような絶対権力者って奴がいる世界だ。


 やだねー、出来ることなら関わりたくないな。

 権力にものをいわせてやりたい放題してるのだろうか?

 そんな奴に目を付けられたら一発でストレスが上がりそうだ。


「取り敢えず移動するか」


【魔法による移動になさいますか?】


「いや、歩いていくよ。制限を掛けたSTR値にも慣れておきたいしな」


 と、ヘルプとの会話を経て、ふと疑問が浮かんだ。

 今思えば、グレイブとヘルプの間で会話が成立しているのは何故だろうかと。


「ヘルプ、もしかして俺とヘルプの会話も念話でどうにかならないか?」


【グレイブのスキルを使用すれば可能です】


「やっぱり……。まぁいいか、街に着く前に気付いただけ良しとしよう」


 契約型のアイテムは、魔剣としてだけではなく所持している一部のスキルも使用可能になる。

 グレイブの場合、念話がそれに当たる。

 俺はヘルプと念話での意志疎通を練習しながら街を目指すことにした。




………………。

…………。

……。



 

 暫くすると、街の周囲を囲う防壁が見えてくる。大きな石を積んで出来た高さ20mもの大きな壁。

 魔物の侵入を防ぐために作られたらしいが、実際はこの辺りにはあまり魔物はいないらしい。

 比較的平和な土地柄なのかな? まぁ危険は少ないに越したことはないが。


 入場門が見えてくると、長蛇の列が続いていた。

 街の入場門は三つ有り、一般用、商人用、貴族用と分けられている。

 長蛇の列を作っているのは一般用で、貴族用はガラガラ、商人用は三列同時に入場許可を行っている。

 まぁ商人の場合運び入れる品物などの確認もあるらしいので、そうでもしないと捌ききれないのだろう。


 俺はグレイブに聞いたとおり商人用の入場門に並ぶことにした。

 後から合流した際に、一緒に通してくれるらしい。

 どう見ても今から一般用に並んでいては時間切れになりそうだったので助かった。


 その後何やかんやで時間が経ち、グレイブ達と無事に合流。

 メイビンと名乗る商人と挨拶を交わし、入場門を抜けて街へ入った。

 その間、ミーナと名乗った少女から何故か睨み付けられていたが理由は不明。オレ何かしたかな?

 まるで心当たりがない。あとでグレイブに聞いてみるか。


「ゴトーさんはこの後のご予定はお決まりですか?」


「何をするにしても、取り急ぎ宿を決めてからですかね。その後はまだ決めてませんが」


 後藤と言う名前は、この世界の人には呼びづらいらしく、誰も彼もが気付くとゴトーと呼んでいた。

 まぁ、コレばっかりはしょうがないので、とくに訂正もせずにそのままにしている。


「そうですか、でしたら一緒に食事など如何ですか? 良い店をご紹介しますよ?」


「えぇ、そうですね。では後ほどお会いしましょう」


 メイビンはどうやら俺とお近付きになりたいらしい。目聡い奴だな。

 でもその商売勘は大したものだと思う。誰とも知れない流れ者と顔を繋ごうとするのは勇気のいるものだ。

 グレイブの立ち振る舞いから何かを察したのかも知れないが、優秀な商人とお近付きになれるのはありがたい。

 何しろここは商人の街だからな。


 メイビンと別れ、街をぶらつこうと歩き出すと、グレイブがミーナに捕まっていた。

 見れば、媚びた笑顔に猫撫で声。これはもしかしてってやつか?

 くそっ、爺の癖に色気づきやがって。俺が自分で助けに行けば良かったな……。


 宿はどこに泊まるのか、今後の予定はどうするつもりなのか、従者の仕事の休みは何時なのか。

 まさに根掘り葉掘り聞かれている。気があるのがバレバレだ。

 多分隠す気が鼻からないのだろう。それはいい、恋愛は自由だし? グレイブは俺のだけど、そこまで縛るつもりはないし?

 だが何故だ? 何故あの少女は目が合う度に、俺にガンを飛ばしてくるんだ?


『おいグレイブ。お前その少女に俺のことを何て話したんだ?』


『はい、私は身も心も主に捧げていると』


『お前のせいか!』


 溜め息しか出ない。これはアレだ。要するにミーナにとって俺は恋い敵なのだ。

 少なくとも彼女の中ではそうなっているようだ。


 これは非常にまずい流れだ。今まで目にしてきたのはオッサンと爺の裸ばっかりだ。

 そしてここに来て爺との間を疑われるとか洒落にならん。

 変な噂が立つ前に対処しなくては……。


「ミーナさんでしたか?」


「はい、なんでしょうか?」


 ミーナは此方をキッと睨みつけてくる。えらく気の強い少女だ。感情的というか短絡的と言うか、まぁよく言えば一途なんだろうが。


「お連れの方の治療はよろしいのですか? まだ随分と苦しそうですが」


「あっ!」


 っと、ミーナは慌てて後ろを振り返る。

 忘れてたのかよ! この子はきっと馬鹿なんだな。と言うかパーティーメンバーが不憫でならん。


「お一人では大変でしょう? よろしければグレイブをお貸ししましょうか?」


「グレイブさんは貴方の所有物ではありません! 人をなんだと思ってるんですか?」


 いや、お前こそ何だと思ってるんだよ! 勝手な妄想を膨らませんな!

 だめだ、この手の天然にはハッキリ言わないと伝わらないのかもしれん……。


 俺はミーナの元へ行くと、嫌がる彼女に強引に耳打ちした。


「私とグレイブはの間柄ですので、誤解しないでくださいね」


「え? えぇぇぇぇ?! そ、そうなんですか?」


「もちろんです。ですので、ミーナさんは何も気にせず頑張ってください」


 真っ赤な顔であたふたしだしたミーナを余所に、グレイブの背を押し告げた。


「いくら馬車があるとは言え、彼女一人で全員を運ぶのは大変だろう。グレイブ、手伝ってやれ」


「はい、ご命令とあらば。しかし、それでは主殿はどちらへ?」


「俺は少し街をぶらつきながら宿を探してくるよ。夕飯時になったら連絡するから後で合流しよう」


「かしこまりました」


 ペコペコと真っ赤な顔で頭を下げるミーナ達に手を振り、漸く街ぶらを開始する。

 幾宛もないので、とりあえず一番大きな通りを歩き、散策する。

 まず感じたのは、思っていたよりも街が整備されていたこと。

 地面などは、見渡す限り石畳が敷かれていて、道の両脇には水捌けの為の溝まで掘られている。

 建ち並ぶ店や家々も二階建てや三階建てが多く、なかなかにお洒落な佇まいの建物が多い。


「なんかお伽の国って感じだなぁ」


【科学は発達しておりませんが、魔法がありますので規模の大きい建築なども比較的容易くなっています】


 なるほど、と頷く。

 行き交う人々も正にファンタジーで、エルフにドワーフや頭から動物のような耳を生やした人まで様々だ。


 いやー壮観だわ。ゲームに例えるならRPGの始まりの街ってところか。


 ヘルプによる解説を聞きながら、観光気分でぶらついていると――


「きゃぁぁぁ!」


 女性の悲鳴が響いてきた。なにやらただ事では無い感じだ。


【どうなさるおつもりですか?】


 思わず足を止めた俺にヘルプが言った。

 どうなさるって言われてもな……。うーん。と、しばし考える。


「とりあえず様子だけ見てみるか。もしかしたら罠かも知れないしな」


【罠ですか?】


「あぁ、助けに入ったら女声のオッサンの可能性もある」


 今の俺ならマジでありえる。もしそうならダッシュで逃げよう。そうしよう。

 

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