第8話
オーガの力押しに負け、グレイブが押しさ返される。
やはり技量のみでステータスの差を埋めるのは厳しいようだ。
ここは手を貸した方がいいだろう。せっかく手に入れた魔剣を壊されては堪らない。
「ヘルプ、オーガの首から下を凍らせてくれ」
【畏まりました】
グレイブは紙一重でオーガの拳を交わし、バックステップで距離をとる。
と、オーガの周りに真っ白な霧が発生し、寄り集まる様にして凍り付かせた。
「ぬっ、ヘルプ殿でしたか。お手間を取らせて申し訳ない」
グレイブはチラリと後ろを見やると、一刀の元にオーガの首を切り落とした。
ぞわっとする。魔物とはいえ、人型の生き物が生きたまま首を切り落とされるのを見るのは精神的に来るものがある。
凍ってる所為で出血が少ないからまだいいが。
と言うか魔物の血も赤いんだよな。紫とかだったら良かったのに……。
「主殿、申し訳御座いません。今の私ではあまりお役に立てないようです」
「いや、それは気にしなくていい。それよりレベルは上がったか?」
「はい、お陰様で順調に上がっております」
グレイブが人化した際、ステータスを見せてもらったのだが、どう言うわけかレベルが1だったのだ。
神殺しがレベル1とか想像もしていなかった。正直がっかり。
しかし考えようによってはそう悪い事でもないのでは? と、考え直した。
折角のレベル制だと言うのに、俺にはもうレベルの上がる余地がない。
RPGで言うところのレベルを上げる楽しみって奴が味わえないのだ。
ならばグレイブのレベルを上げて、育成ゲーム的な楽しみ方をしてやろうと思い付いた。
まぁ実際はゲームではなく現実なんだが、物は考えようって事で。
それにグレイブには早いとこ強くなってもらわないと、俺自身が困った事になる。
街へ着いた時に、誰かに絡まれたら大事になりそうなのだ。
俺はいまだ自分の力を制御出来ているとは言えない。
その為、相手を殺してしまう可能性がある。
肩がぶつかったなどと絡んで来た相手を、それだけの理由で挽き肉にする訳にはいかないのだ。
そんな事をしてお尋ね者にでもなったら、ストレスが即MAXになりそうで怖い。
そこで、グレイブには俺の用心棒代わりになってもらうことにした。
となれば、今すぐにでもレベルを上げた方がいい。
しかもここは、お誂え向きにダンジョンだ。少々強引だがパワーレベリングでどうにかしてしまおう。
「大分狩りまくったからなあ。一度ステータスを確認させてくれ」
「はい、どうぞ――」
◇――――――――◇
name:ディア・グレイブ Lv:38
age:2503 sex:―― job:magic fencer
HP:1200 MP:850
STR:890 DEX:750 INT:550
Skill:魔剣術 格闘術 人化 付与魔法
念話 礼儀作法 隠蔽
称号:神殺し 黙示録の使徒
◇――――――――◇
年齢と称号がおかしな事になっているが、突っ込んではいけない。
隠蔽スキルで隠すしね。たぶん大丈夫。
そんな事よりも、一番引っかかったのは性別が無しになっている事だ。
聞いた話では、どうやら人化の際に自身で選択できるらしい。
だったらなぜ爺にしたのかと問いただした所、神殺しの魔剣として威厳のある姿を選んだという。
まったく余計なことをしやがって……。空気の読めない奴だ。
かと言って今更美少女になられても困る。一度爺の裸を見てしまったので、ニューハーフにしか見えないと思う。
どうせ連れて歩くならニューハーフより老騎士の方がましだ。
「大分上がったな。実際レベル38ってどれぐらいの強さなんだ?」
この世界の平均的な強さが分からないと育成計画が建てられない。
ここはヘルプさんに相談してみよう。
【冒険者でいうところのランクCと言うところです】
冒険者が居るのか! てことはギルドとかもあるのかな?
これは入るしかないだろ。俺なら間違いなく無双できるし大金持ちも夢じゃないぞ!
「冒険者か、いいな……。っと、冒険者ランクではそれぞれのレベルってどうなってるんだ?」
【冒険者ランクはE・D・C・B・A・Sとありまして――】
とヘルプさんの説明会が始まった。
大体ではあるが、冒険者ランクEは初心者。
Dは新人。Cは一人前でBは強者。Aは一流と言われている。
因みにランクSは一つのギルドに一人しか登録できないらしく、大抵はギルドマスターの事らしい。
後は一般には知られていないがSSとSSSもあるという。
これは英雄や勇者に与えられるランクとのこと。俺には関係ないな。
そして、各ランクに対する平均的なレベルが――
ランクE レベル10から15
ランクD レベル15から30
ランクC レベル30から60
ランクB レベル60から90
ランクA レベル90以上
と、なっている。
まぁ、分かってはいたが、この世界ではレベル上限というものが存在しない。
更に言えば、人間どうしで殺し合ってもレベルが上がってしまう。
参ったね。只でさえレベル何て言う殺しを推奨するようなシステムがあるって言うのに……。
街に付いたらモヒカンだらけなんて事が無いと良いけど。
「なら取り敢えずレベル60を目指すか。あとは追々だな」
「ふむ、確かに60は欲しいですな」
「それにしても何でレベル1なんだ? 称号をみる限り以前はもっと高かったんじゃないのか?」
「はい、全盛期は800を超えておりました」
「800! そりゃすげぇな。そして弱体化が半端ない」
「ハハハッ、申し訳ありません。色々ありまして……」
グレイブは思う所があるのか、バツが悪そうに笑ってごまかした。
所有者権限を使って聞き出してもいいが、誰にだって言いたくない事の一つや二つはあるだろう。
俺は無粋な事はしない主義だ。ここは黙って聞き流す事にした。
「んじゃパワーレベリングといきますか!」
【はい!】
「承知しました」
ヘルプが魔物を凍りつかせ、グレイブが止めを刺す。
このコンボでどんどんと階層を下っていく。
俺のやることは無い。暇だ……。自動ツールでレベリングしてるみたいだ。
因みにグレイブは今素っ裸である。別に俺が命令した訳じゃ無いよ。
爺の裸に興味はない。マジで! 理由は単純に剣が無いから。
魔剣の鞘は鎧にもなるが剣にもなるのだ。
レベルの足りていないグレイブが、魔物に止めを指すには剣が必要だったってだけの話。
「なぁヘルプさんや」
【なんでしょか、マスター】
「このダンジョンって次のボスで終わりなんだよな?」
【はい、三十階層のボスが、このダンジョンのダンジョンマスターになります】
「そっかぁ……。次が最後のチャンスかぁ……。あっでもさダンジョンマスターが人型の魔族たった場合。服をひん剥くチャンスじゃないか?」
【なるほど、確かに仰る通りですね】
「よし、もしもそのチャンスがあったら、今度は何としても服をげっとするぞ!」
【お任せください。今度こそお役に立って見せます!】
「おう、期待してるぜ」
………………。
…………。
……。
手当たり次第に魔物を狩り尽くし、駆け抜けるように三十階層へと辿り着く。
すでにグレイブのレベルも68まで上がり、当初の目標は達成している。
残すは最後のボス。ダンジョンマスターとその討伐報酬のみ。
「ヘルプ、予定通りで行くぞ」
【畏まりました、マスター】
とっとと目的を果たして街へ行こう。いい加減、腹もへったし野宿はゴメンだ。
鎧姿へとなったグレイブを従え、ラスボスに相応しい巨大な扉の前に立つ。
負けることは無いが、前回の二の舞にならないように気を付けないとな。
「ヘルプ、いいな? 相手に考える隙すら与えるなよ?」
【はい!】
気合いの乗ったヘルプの返事を聞いて、軽く頷くと扉を蹴り開けた。
二つの宝箱のせいで両手が塞がっているのだ。行儀が悪いのは許してほしい。
「ふむ、なかなかに雅ではないか。侵入者よ」
時が止まった。ヘルプは想定外の事態に動くに動けず、グレイブはドン引きしたように後ずさった。
俺はと言えば――
「てめぇ何でフルチンなんだよ!」
切れそうだ……。人形なのに。魔族なのに。なんで服着てねぇんだよ!
「趣味だ!」
「趣味かよっ!」
でも一応、突っ込んだ。
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