第4話


 ふよふよとソフトボール程の大きさの光の玉が目の前に浮かんでいる。

 ライトボールと呼ばれる生活魔法らしい。

 出したのは残念ながら俺ではなくヘルプさんだ。


 ヘルプさんは俺の無駄に有り余った魔力を、許可さえ与えれてやれば自由に使えるらしい。

 流石はヘルプさん超優秀。


 一応、俺も習うには習ったのだが、未だ使いこなせていない。

 ただ、きちんと練習さえすれば使えるようになるらしいので、今後の努力次第と言ったところか。


『マスターなら直ぐに使えるようになります』


 とか言われたのに……。もしかしたらゴマでも擂っていのかも?

 スキルの癖に妙に気を使う奴だ。


 でもまぁ、本当に魔法が使えるようになるなら、多少の努力なんてへでもない。

 しかも、ヘルプさん曰く、俺ほどの魔力があれば世界最強の魔法使いになるのも夢ではないらしい。

 いいね、世界最強。ワクワクするわ。胡麻擂りでないといいが。


 ただ、当面はヘルプさんにおんぶにだっこになりそうだ。


【道中に出てくる魔物も、私が魔法で処理いたしますのでご安心ください】


「ふむ、もしかして俺やることなかったり?」


 せっかくのリアル・ダンジョンだと言うのにやることがないのは寂しい。

 でも魔物とか見た目怖いしな。慣れるまでは任せた方が無難ではある。

 恐怖だの嫌悪感だのの負の感情は、そのままストレスになるからね。

 そしたら俺爆発しちゃうし、世界を滅ぼしちゃうもんね。


【そんな事はありません。基本的には私が魔物を処理いたしますが、中には魔法の利かない個体もおりますので。その場合、マスターに処理していただくかたちになります】


「おぉ……。で、どんな魔物なんだ?」


【これから入るダンジョンに関しましては魔法生命体、所謂ゴーレム系ですね】


「へぇ、それなら血とかも飛び散らなそうだし、グロい事にはならなそうだな」


【そうですね、戦闘によるストレスも少なくてすむかと】


 なるほど確かにその通り。どうやらヘルプさんは色々と先回りして考えていてくれていた様だ。

 この分ならヘルプさんに全部まるっと委ねてもいいかもな。

 うん、そうしよう。


「じゃ行きますかっ!」

 

【了解です】




………………。

…………。

……。





 ダンジョンに足を踏み入れると、ほどなくして魔物が現れた。

 と言っても一層の為、強い個体ではない。

 ブラック・バットと呼ばれる大きな蝙蝠コウモリだった。

 ただ、魔物と呼ばれるだけあって、翼を広げたその大きさは優に1mを超えている。

 それが集団で襲ってくるのだ、絵面的には恐ろしいことこの上ない。


「こわっ! 大丈夫なのか?」


【おまかせ下さい。直ちに処理いたします】


 言うや否や、目の前に氷の矢が次々に出現し、ブラック・バット達を貫いていく。

 まさに全自動迎撃機。ヘルプさんマジ頼もしい。


【終了しました】


「おっ、おう。なんか悪いな……」


【とんでも御座いません。私はマスターのお役に立つ為に生まれたスキルです。どうぞご遠慮なくお使いください】


「そうだな、そうさせて貰おう」


 その後もヘルプさんの護衛の元、順調に足を進める。

 出てくる魔物は全て瞬殺で、俺がすることと言えば魔物が落とした魔石とやらを拾うことだけだった。

 と言っても素っ裸の俺には仕舞っておく鞄もポケットも無いため、両手に抱えられるだけ抱えて後は放置している。


 服はいつ出るんだろうか? ゲーム的に考えるなら魔物のドロップとか?

 それにしてはさっきから魔石しか落とさないが……。


 そうこうしている間に、10階層へと降りてきた俺は、魔石を残しながら、ダンジョンに溶けるように吸収されていく魔物眺めて溜め息をついた。


「はぁ……。さっきから全然服を落とさないな」


【魔物が落とすのは魔石だけです、マスター。衣服や魔道具などは、十回層毎にあるボス部屋で宝箱から取得する事になります】


「なるほど、どおりで魔石しか落とさないわけだ」


 と言うわけでボス部屋前に到着。さっさと先に進もう。

 ヘルプさんが言うには、このダンジョンは出来たばかりの若いダンジョンらしく、大した魔物は出てこないらしい。

 最下層まで行っても三十階層と浅いので、サクッと攻略するつもりだ。


 扉を押し開き、中へと入る。と、そこには大きな青鬼が待ちかまえていた。


【オーガですね。大した魔物ではありません】


 ほう、これがオーガか……。

 身長2.5mのゴリッゴリのマッチョマン。ただし全身真っ青なので、顔だけ見ると具合が悪そうに見える。


「クックックッ……」


「んっ?」


 まじまじとオーガを観察していると、かみ殺したような笑い声が耳に届く。

 見るとオーガが笑っていた。口元を歪め、バカにしたような苦笑い。


――なんだ?

 

 オーガがジッと見つめる視線を辿る。と、その先にあったのは俺の股間だった……。


 この野郎、俺の相棒を馬鹿にしやがった!


「ヘルプさん、やっておしまい!」


【御意!】


 俺の身体から、目に見えるほどの濃密な魔力が立ち上る。

 その様子に恐れおののいたのか、オーガは目を見開いて後ずさった。


 馬鹿めっ。相棒を馬鹿にされて俺が許すと思っているのか?


 これだけの魔力を使うのだ。きっとヘルプさんはとんでもなくド派手な魔法をぶちかますつもりなのだろう。

 そうワクワクしながら見守っていると――突然オーガが破裂した。


 身体の中心、内側から四方八方に飛び散ったのだ。


「きもっ! 何今の?!」


【お気に召しませんでしたか? 出来る限り悲惨な死に方を選択したつもりでしたが】


「いやいやいや、怖いから。マジでビビるからやめて!」


【申し訳ありません。マスターの怒りの感情を関知したものですから……】


「そ、そうか、確かに怒ってはいたけども。グロいのは勘弁してくれ」


【かしこまりました。次回からは出来る限りを心掛けます】


「お願いします……」


 怖い。もう言葉の選択からして怖いから。

 ヘルプはあくまでもスキルだと言うことを肝に銘じておこう。


 ふぅ……。と、ひとつ息を吐き、改めて周囲を見渡す。

 惨い……。血と肉片が辺り一面に散らばっている。

 

 ボスだよね? あっさりだったけど。ヘルプさんを怒らせないようにしよう。

 俺はひとり、心の中でそう誓う。


「おっ、宝箱だ!」


 よく見ると部屋の中央には、いつの間にか宝箱が出現していた。

 漸く目当ての物が手に入りそうだ。


 血と肉片を踏まないように避けながら宝箱の前へと移動する。

 見た感じは特になんの変哲もない宝箱だ。デサインは、ゲームなどでよく見るタイプの典型的な形。

 素材も木で出来ていて鍵こそ付いていないが、蝶番などは金属製で色は茶色。おそらくは銅製だろう。

 

「罠とかないのか?」


【鑑定したところ、罠などはないようです】


「鑑定なんて出来るのか、便利だな。俺にも出来るかな?」


【残念ながら今のところマスターには出来ません。ですが必要な時は私がお教えいたしますので問題はないかと】


「ならいいか、無い物ねだりしてもしょうがないしな。じゃあ開けるぞ」


 へっぴり腰になりながら、おっかなびっくり宝箱に手を伸ばす。

 と、ヘルプの言ったとおり罠などは無く、問題なく箱は開いた。


「ブーツか」


 のぞき込んだ箱の中に入っていたのは茶色い革のワークブーツだった。

 とくに変わったところは見受けられないが、縫製にしても靴底にしても、かなりキチンと作り込まれていて、元居た世界の品物と比べても遜色のない出来にみえた。

 この世界の技術力はかなり高いのだろうか?

 だとしたら、よくある中世ヨーロッパ風ファンタジー世界と言う訳ではないのかもしれない。


「ヘルプさんや、このブーツをどう思う?」


【魔術的な機能のない一般的なブーツですね。ただダンジョン産の衣類は、この世界でも飛び抜けて出来がいいので高級品であることには変わりありませんが】


「へぇ、なるほどね。サイズも丁度だし。まぁ、当たりかな」


 早速ブーツを履いて、ピョンピョンと跳ねてみる。

 履き心地は悪くない。新しいからか少しばかり革が堅く感じるが、そこは履いていればそのうち馴染むだろう。

 そんな事よりも――


「なんかさっきより変態っぽくなってないか……」


 裸にブーツと言う紳士な格好で溜め息を吐く。


――順番的には初めは服がよかったな……。



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