第3話
「へっきしっ、さぶっ!」
気が付いたら知らない場所にいた。どこですかここは?
森の中に居たはずなのに、いつの間にか草原にポツンと突っ立っている。
「何がどうなったんだ? あと何で俺は全裸なの?」
ほんの数瞬前まで、俺は森の中にいたはずだ。
最後に目にした光景が脳裏を過ぎる。ドラゴン……。
死んだよな? 俺……。
「まさか……コティニューとか? はははっ……何でもありだな」
渇いた笑いが零れる。完全にゲームの世界だな。
その時、草原を一迅の風が駆け抜け、全身を撫でる。
と、肌寒さが身を包み、両手で抱きしめるように身を縮ませた。
――不思議だ。
寒さこそ感じるが、やけに体が軽い。まるで若返った気分だ。
改めて自身を見下ろすと、先程までとは体型すら変わっていることに気付く。
メタボ気味だった三段腹が、綺麗なシックスパックに変貌を遂げており、肌艶も20代前半を思わせるほどにスベスベだ。
おまけに大きな
所謂ボクサースタイルと言うやつだろうか。
ただ、一カ所だけ、どうにも解せない部位があった。
「お前、本当に俺の相棒か?」
見下ろした自身の一部。36年来の相棒に向かって問いかけた。
――おかしい……、どうみてもおかし過ぎるだろ。
俺の相棒は絶対にこんな姿ではなかった。
なんと言うか、常にレザージャケットを身にまとっていた筈なのだ。
そう、言うなれば防御力+1状態。それが何故だ?
今ではすっかり薄着になってしまっている。いつの間にか戦士から武道家にジョブチェンジでもしたのか?
「げせぬ……。お前さっきまでタートルネックを着ていたはずたろ? いつの間に衣替えなんてしやがったんだ?」
【はじめまして、マスター】
「しゃべった?!」
驚愕! 遂に俺の相棒が意志を持ちやがった。
どうしよう、忙しさにかまけて相手をしてやれなかったから業を煮やしたのかもしれん。
このまま好き勝手に行動されたら拙いぞ。知らない間に性犯罪者にでもされたら人生終了だ。
「なんてこったぁぁ!」
頭を抱えて絶叫する。素っ裸で。あっ、すでに猥褻物陳列罪状態だった!
【落ち着いてくださいマスター。私はチ○コではありません】
「ハッキリ言うな言葉を選べ! って、違うの? あれ?」
言われて辺りを見渡す。が、誰も居ない。
俺は遂に気でも触れてしまったのだろうか?
【ストレス値の上昇を確認。落ち着いてくださいマスター。私はヘルプ。マスターが新たに取得したスキルです】
「へ? スキル?」
【はい、マスターにストレスの無い生活を送っていただく為、世界の意志より与えられたスキルです。詳しい説明の前に、まずはご自身のステータスをご確認ください】
「えっ、あっはい……。ステータス」
◇――――――――◇
name:
age:36 sex:man job:apocalypse
HP:unknown MP:unknown
STR:unknown DEX:unknown INT:unknown
Skill:勇者爆弾 言語理解 ヘルプ
称号:転移者 社畜 破壊者
◇――――――――◇
「なんだこのステータスは……」
レベルを含め、ステータス値が軒並みunknown《不明》に変わっており、job《職業》にいたってはapocalypse《黙示録》になっていた。
黙示録……、恐怖の大王かよ!
【それを言うならノストラダムスですね。ですが概ね正解です】
「正解なの?! 無職から出世し過ぎだろ!」
【流石マスターご理解が早い。では早速説明させていただきます】
「流された!」
俺はヘルプの説明を聞き、ひとり頭を抱えた。
あの時――ドラゴンに喰殺される瞬間。俺は世界を滅ぼしたらしい。
ドラゴンの牙が食い込もうとした刹那、俺のストレス値は限界値を越え、スキル、勇者爆弾が発動した。
爆発はまずドラゴンの卵を破壊し、その結果として俺のレベルが急激に上昇。
その上がったレベル分だけ爆発力があがり、今度は親ドラゴンを消滅させた。
レベルの上昇と爆発力の上昇。その相乗効果で連鎖的に周囲を巻き込み、遂には大陸を完全に破壊。
更には海を越え、やがて星すらも飲み込みハイパーノヴァ《新星爆発》となったそうだ。
なんかもう色々とぶっ飛んでるが、この話には続きがあった。
まぁこの時点ですでに世界を滅ぼしている訳だが、勇者爆弾はその後も成長を続けたと言う。
流石にこのままでは拙いと言うことで、ヘルプ曰く世界の意志とやらが介入し、理をねじ曲げて時間を巻き戻したとのこと。
すげーな、時間て巻き戻るんだ……。もしかして神様か何かだろうか?
【否定。世界の意志はマスターの想像する神とは違います。例えるならば、自動修復プログラムと言ったところでしょうか】
「へぇ、俺には違いがまったく分からんが……。まいいか、で? 俺はこの後どうなるんだ?」
ヘルプの話を聞く限り、俺は世界にとってバグのような存在で、この世にいてはならない異物になってしまったのかもしれない。
だとすると、俺は世界の意志とやらに消されるのだろうか?
【ご案内ください。もはやマスターは世界の意志すら手を出せない規格外の存在です。ですが、何の対処もしないままでは遅かれ早かれ世界はマスターに滅ぼされる事になるでしょう。そこで世界の意志は、私をマスターの新たなスキルとして付与したのです】
「お目付役みたいなものか? そう言えばストレスの無い生活がどうたら言ってたな」
【はい、マスターの勇者爆弾が暴発しないよう、私がサポートさせていただきます】
「なるほど、で、ヘルプさんは具体的に何が出来るんですかね?」
【当面は情報提供や助言と言ったところでしょうか。ですが外部デバイスに相当するものが手に入り次第、マスターの身の回りのお世話もさせていただきます】
外部デバイスねぇ。ゴーレムとかの類だろうな。まぁいいか。
そんな事よりも今は早急に対処しなければならない重大案件がある。
そう、服が欲しい! 切実に。
「ヘルプさんや、どこかで服が手に入らないものかね」
【東に三十キロほど離れた場所に街があります。そちらで手に入れては如何でしょうか?】
却下だ! 街に行くと言うことは、全裸で歩いている姿を大勢の人間に目撃されると言うことだぞ?
どう考えてもストレスが上がるだろ。爆発してしまうわ。
「出来れば誰にも会わずに服を手に入れる方法を頼む……」
【かしこまりました。只今検索中――。南10km地点にダンジョンを確認。こちらがよろしいかと】
ダンジョンか……。モンスターとか出るんじゃねぇの?
俺一人で対処しきれるのかな……。あっ俺恐怖の大王だった。
モンスターとか余裕なんじゃね? チートだな!
「よし行こう!」
【かしこまりました。それではナビゲートさせていただきます】
「おう、よろしくたのむ」
ところで南ってどっちだろう、とか思ってたらヘルプさんが教えてくれた。
ヘルプさん超便利。ダンジョン内もナビしてくれるらしい、これで地図要らずだね。
一時はどうなることかと思ったが、意外とどうにかなるもんだな。
と、そうこうしている内に森の入り口に到着。森! ドラゴンいるんじゃねぇの?
まぁいいか、出て来ても多分勝てるんだろうし。
「ここかぁ……。なんか小人でも出て来そうな入り口だな」
巨大な大木の根元に開いた大きな穴をのぞき込む。
真っ暗なんだけど灯りとかどうするんだろう……。
【ご案内ください、今からマスターに魔法を教えさせていただきます。マスターならば、簡単な生活魔法程度ものの10分もあれば覚えられるでしょう】
「魔法! マジか、是非教えてくれ!」
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