第2話

◇――――――――◇


 name:後藤ゴトウ 修治シュウジ Lv:1

 age:36 sex:man job:unemployed


 HP:100 MP:50

 STR:10 DEX:10 INT:10

 Skill:勇者爆弾 言語理解

 称号:転移者 社畜


◇――――――――◇



 目の前に現れた半透明の板を見て溜め息を吐く。

 

 最悪だ……。百歩譲ってステータス制はよしとしよう。

 たがレベルがあるのは拙い。あと読み辛い!

 何で英語と日本語がごちゃまぜなんだ?


「どっから突っ込めばいいのか分からんな。と言うか仕事の欄がおかしくねぇか? unemployedって無職の事じゃねぇか! なのに称号が社畜ってふざけすぎだろ!」


 突っ込み始めるときりがなさそうなので、仕方なく先を確認していく。

 ゲーム的に考えると、恐らく――

 HPは生命力だろう。となると、これが0になると死ぬんだろうか? おっそろしいな、おい。

 MPはマジックポイント、もしくはパワーかな? 所謂魔力ってやつだと思う。

 つまり魔法が存在する世界とゆうことか。レベルとかもあるしモンスターとか出て来そうだな……。

 あとは……、STRが腕力やら持久力で、DEXが器用さや俊敏。

 INTは、知能? いやいや、レベルが上がると頭がよくなる? それは無いな、うん。多分精神力の事だろう。


「しかし見事に10が並んでるな。あとはスキルか……。言語理解は想像が付くが勇者爆弾ってなんだ? 爆破系能力かな?」


 勇者の爆弾って意味だろうか? だとすると触れた物を爆発物に変える力とか?


 取り敢えず小石を拾って試してみる。この考えが正しければとんでもなく便利で強力な力だ。

 武器なんて物が無くても、そこらに落ちている小石や木片でこと足りるし、もしも生物にすら当てはまるとしたら、触れただけで勝ち確だ。

 問題は、どう使えばいいかだが……。取り敢えずスキル名を叫んでみるか。


「勇者爆弾!」


 叫んだ瞬間小石を投げる。と、放物線を描くように飛んでいった小石が、何の変化もなく地面に落ちてコロコロと転がっていく。

 不発か? それとも時限式か? 暫く様子を見てみるか。


――数十秒経過したが何の変化もない。


「しょうがない、思いつく限り試してみるしかないか。と、その前に場所を移動するか。どう考えてもここはヤバそうだ」


 巨大な卵を見て顔を顰める。


 もしもこれほど巨大な卵を産む生き物に出会ったらと思うと、それこそ生きた心地がしない。

 ドラゴンの卵だと言われても納得してしまうほどだ。

 移動しよう、と言うか逃げよう。


 慌てたように卵から離れたその瞬間――辺りが暗闇に包まれた。

 嫌な予感に空を見上げる。絶句。思わず口をあんぐりとおっぴろげ、恐怖で腰が抜ける。


「ありえねぇ……」


 尻餅を付きながら、ただただ見上げた空には――


 巨大なドラゴンが浮かんでいた。


 ラスボスですか? そうですか……。なぜ初っぱなに出てくるの?

 普通はスライムとか雑魚モンスターからじゃないの?


「勘弁してくれよ、ちきしょう!」

 頭の先からつま先まで、推定50mもの空飛ぶ爬虫類。

 口元は鰐のように裂け。全身を緑色の鱗が覆い、大きな翼を広げている。

 東洋の龍とは違う蜥蜴を思わせる風体。所謂西洋風ドラゴンだ。


 そんなものが気配も音もなく突如として現れたのだ。

 そりやぁ腰ぐらい抜かすだろう。むしろ漏らさなかっただけホメて欲しいぐらいだ。


「なんで……、何もしてこないんだ?」

 

 空に浮かんだドラゴンを見た瞬間、死を覚悟した。

 にもかかわらず、当のドラゴンは何もしてこようとはしなかった。

 いや、正確には威嚇らしき行動はしている。

 血走った目で此方を睨み付け、唸るように牙を剥き出しにしていた。


 何故だ? 警戒しているのか? 理由があるはずだ。

 必死で頭を巡らせて考える。


「あっ、卵か!」 

 

 慌てて振り返る。


 もしかしたらこの卵はドラゴンの卵なのか? 

 だとしたら


 見上げると、やはりドラゴンは威嚇の素振りこそ見せるが、それ以上こちらに近づいてこようとはしない。


 間違いない。これはドラゴンの卵なんだ。

 なにせあれだけの大きさだ。下手に攻撃しようものなら、自身の卵まで傷付けかねない。


「そうか、そう言う事か。なら――」


 這うようにして後退り、卵の陰に身を隠す。

 子供を人質にしているようで心苦しいが、背に腹は代えられない。

 生きたまま踊り喰いなんてまっぴらごめんだ。


「お前の子供は預かった! ぜぇぇぇったい、近付くんじゃねぇぞ? 分かったな!」


 どうみても悪役の台詞だが知った事か。こっちは命が掛かってるんだ。


「考えろ……、何かないか? えぇっと、ステータス!」


 卵を盾にしながらもう一度ステータス画面を確認する。

 しかし、残念ながら変化はなかった。が、まだ謎のスキルが残っている。

 起死回生のチャンスがあるとすればコレ。勇者爆弾しかない。


「取り扱い説明書とかないのかよ、くそっ!」


 画面を睨みつけながら、何の気なしに文字を指でなぞってみる。

 すると、文字の横に新たにテキストが表示された。


 スキル:勇者爆弾

 発動方法:スキル所持者の抱えるストレス値が、臨界点を突破した際、自動で機動する。


「はっ?」


 間の抜けた声が漏れた。


 なんちゅうふざけた説明文だ。

 つまりは俺に脳溢血になれと? プッツンしろと?

 バカにしてんのか! いや待て落ち着け俺、まだ続きがあるみたいだ。






 効果:周囲を巻き込み自爆する


「メガ○テかっ!」


 思わず卵に向かってパシッと突っ込む。


 瞬間――ズドンと地響きが鳴り響き、世界が揺れた。


 すっころびそうになった俺は、慌てて卵に抱きつく。

 見るとドラゴンが巣の近くに降りていた。視線が交差する。


 あっ、やべぇ。めっちゃ怒っとる……。


「ガァァァァ!」


 ドラゴンが吼える。その声は大気を震わせ木々を揺らし、俺の鼓膜をつんざいた。


「がっ……」


 あまりの轟音に、両手で耳を塞ぎ歯を食いしばる。


 ヤバい、化け物過ぎる。こんなもんどうしろって言うんだ?


 ドラゴンは、その大きな羽を広げると、バタバタと羽ばたかせて嵐のような強風を巻き起こす。


「くそ、他に使えそうなものは……」


 風に飛ばされまいと卵にしがみつき、何かないかとステータス画面をのぞき込む、と。

 称号。最後の最後に書かれた二つの文字が目に入る。


 一つは転移者。もう一つは社畜。最後の希望はこの二つだけとなった。


 どっちを見ると言われれば転移者だろ。考えるまでもない。

 両手でガシッと卵に抱きつき、顎先で文字をなぞる。


 頼む。起死回生の何かであってくれ。


 祈りを込めるように表示されたテキストを読み上げた。


 転移者:スキル、言語理解を理解を取得する。


「使えねぇ! 次だ次!」


 続いて社畜を顎先でなぞる。






 社畜:キミ我慢強いね!


「ぶっ!」


 突然の不意打ちに思わず吹き出し力が抜ける。

 と、ドラゴンの巻き起こした強風に煽られ吹き飛ばされた。

 ゴロゴロと無様に転がり、やがて巣の淵へと追いやられる。


――あっ……、コレは死んだ。


 身を起こそうと顔を上げると、ドラゴンは鎌首を擡げていた。

 ニタリとするように開いた口からは、巨大な牙がその姿を現し、今まさに喰殺さんと此方を向いている。


 どうにかなる筈がなかったのだ。ドラゴンが現れた瞬間から決まっていた事。

 

 この世界がゲームのような世界だったとして。

 モンスターを倒しに倒してレベルを99まで上げたとしても、だ。

 コイツには絶対に敵わない。それだけは分かる。


 勇者ですら、魔王ですら避けて通る存在。コレはそう言うものだ。


 ドラゴンの首が振り下ろされ、俺に向かって牙が迫ってくる。

 世界が引き伸ばされ、スローモーションの様にゆっくりと死が近付いてくる。


「やってられるかっ!」


 吐き捨てるように呟く――



 

 

 

 

 




――そして俺は、世界を滅ぼした――


 

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