第5話列車の国から~夏~

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「なっ、なんで‥‥。何で死体がないのよ!だから来たくなかったのよ!もう嫌!」

三浦が頭を抱え泣き出した。


「美香、落ち着くんだ。」

川下がすぐに近寄って抱き抱えた。


「もう‥‥、あの列車事故の様にはなりたくない‥‥。怖い‥‥」


「すいません、少し彼女を休ませて来ます」


そう言うと2人は三両目から出て行った。一同はそれを黙って見守るしかなかった。


「列車って言ってたナリね?みんな知ってるナリか?」

コロ助が一同を見渡すが誰も目を合わせようとしなかった。その場の空気を読まないで花上が呟いた。


「あの~、奥にあるドアって何だろう?」

「お前ホント使えないナリね」

「見て来い!」

ルミコに言われ花上はドアを開け中に入って行った。しばらくすると



「うわー!出たー!」



その声に一同が中へ駆け込んだ。部屋の奥には、黄金のマスクを被りマントを羽織った大柄の人物が立っている。



「お前何者ナリ!」

黄金のマスクは何も喋らずジッとしている。その時、列車がスピードを落した。黄金のマスクがグラリと倒れたが、人だと思いきやマスクとマントは立て掛けてあり床に落ちた。


「なんてことじゃ‥‥」

その後ろには、先程食事中に悲鳴を上げた女性が首を吊り変わり果てた姿になっていた。


「豆澤さん、これは演技じゃないわよね」

安帆が驚きの表情と共に呟いた。一同は驚きで声も出せないまま、しばらく見ているしかなかった。


「これは‥‥」

豆澤は足元に置いてあったは遺書らしき手紙を拾いあげ読み始めた。


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【皆様私を見つけて、さぞ驚いていらっしゃると思います。

私の名前は神田雅子(かんだまさこ)と言います。

この事件の犯行はすべて私です。

私は悪魔に魂を売った女、悪魔将軍。

乗車していた方々には、申し訳なかったのですが、列車を使わせて貰いました。

復讐の‥‥】


「それじゃ、もう終わりなの?」

豆澤の言葉を遮るかの様に林が呟いた。


「神田雅子!?最近、内の劇団にイタズラとか脅迫めいた電話や手紙を出してきた奴だ!」

井上が思い出した様に叫ぶ。


「井上さん見てください、無くなっていた銀のマスクがこんな所に!」

林は神田の遺体の後ろにあった銀のマスクとマントを見つけ一同に見せた。

一同は先程から見ていた物だろうと確認しては各自うなずいていた。


「まだ、手紙の続きがあるぞ」

豆澤がそう話すと、あらかじめ録音されていたと思われる車内アナウンスが流れ出した。


「皆様お疲れ様でした。間も無く終点、山神山荘となります。」


「犯人もわかったことだし、この続きは山荘でゆっくりお茶でも飲みながら話す事にしましょう。メロンがあれば尚更いいですね」

腰を抜かしていた花上は、ゆっくり立ち上がり一同を見渡しながら話した。


「花上、やっぱりお前使えないナリ!」

コロ助は半ば呆れながら、花上の脛をおもいっきり蹴り上げた。


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「マッスルドッキングは実話なんよ。500円になります」


「えっ?それじゃこの悪魔将軍というのは実在したんですか?」


「ん~。悪魔将軍というネーミングは劇団の者がつけたんだろうな。事件というか列車の事故はたしかに起きて、その車掌が無罪になった‥‥。までが実話で、その後の復讐の部分は付け加えだな。話しを面白くしようとしたんじゃないか?300円です」


「あの‥‥、さっきからなんで最後にお金を言うんですか?」


「メイちゃんいいんだよ。この人は情報屋なんだ。ひとつの情報につき情報料がかかるんだよ。ほらっ」


チャリーン


情報屋と名乗る男の側にブタの貯金箱が置いてある。清野はそう言うとそれに小銭を入れた。


「へへへ、いつもすいやせんね~」


清野とメイが立ち寄ったのは、一見普通のビリヤードハウスであった。しかしその奥の階段を下りると、この【砂かけじじい】と名乗る情報屋の店がある。店内の薄暗さのせいか、まるで妖怪でも出てきそうな雰囲気である。


「まあ、事故の当事者達にとってはたまったもんじゃないだろうな。700円です」


「そうか‥‥。ありがとうございました。さっ、メイちゃん行こうか!おやっさんまた来ますね。目玉のパパにもよろしくお伝え下さい」


チャリーン


清野は最後にまたブタの貯金箱に小銭を投げ入れメイとその場を後にした。


「おう!兄ちゃん。また顔出せよ」


清野とメイが立ち去り、砂かけは嬉しそうにハンマーを取り出し

「この瞬間がたまらんなあ」

と言いながらブタの貯金箱を一気に割った。


チャリーン~


「ぬぉぉぉ!また騙された!」


砂かけの想い虚しく、そこにばらまかれたのは、大量のゲーセンのメダルだけであった‥‥。砂かけは今度来たら、砂をかけてやると強く思うのであった。

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