第3話渡る世間は謎ばかり

< 8 >


「どっ、どうしよう‥‥。ホントの死人が出るなんて‥‥」


佐原は半ベソをかきながらしゃがみ込んでしまった。


「‥‥‥‥」

「小田さん、何で何も言ってくれないんですか!あの時もそうだ‥‥。会社に誤魔化して、内々に処理した時だってあんたは何もしないで黙ったままだった!」


佐原の後ろに立っていた銀のマスクの手には、鉄パイプが握られていた。それを佐原の頭に振り落とした。


「ぐわ、あっ、あんた小田さんじゃないのか‥‥?おっ、お前は誰だ!うわー!」


佐原の言葉を余所に銀のマスクは、何度も鉄パイプを振り落とした。


「まさか‥‥」

一言だけ呟き佐原は絶命した。



その頃‥‥、列車は静かに止まった。



「列車が止まったわ!警察に連絡しないと!」

三浦が叫ぶと同時に

「さっきの銀のマスクと佐原さん、それに死体を探すんだ!まだみんな集まって無いはずだから、声を掛けて集まろう」


川下が叫ぶ。一同がその言葉に反応し動こうとしたがコロ助とルミコは


「何か今回は脇役が張り切ってるナリね」

「脇役は所詮脇役‥‥」

「深い言葉ナリね~」


コロ助はハクション大魔王が止められないハンバーグを口に放り込み、ルミコはジッと窓の外を眺めていた。



その時再び列車が動き出した。無人駅のホームが流れて行くと人が立っている。


「あれ!見て!」

「佐原さん!」

「死んでるのか?」


ホームの端に頭を殴られ死んでいる佐原を残し、一同はそれを見ながら列車は動き出した。


< 9 >


佐原の死体の上半身は何故か裸であった。そしてその体にはどす黒い血でこう書かれていた。


【ごきげんよう】



「なんだあれふざけてるのか?本当に死んでるの?」

首をかしげる花上に川下が声をかける。


「一見ふざけて見えますが。【ごきげんよう】は悪魔将軍の口癖なんです。」

「悪魔将軍って、さっきテーブルクロスに書かれていた奴?」


「悪魔将軍は、あの悲劇の舞台【マッスルドッキング】に出て来る悪魔です。そしてそれはとっても悲しい物語なんです。」




【マッスルドッキング】

その物語は悲劇の物語である。

ごく平凡な暮らしをしていた男が列車の事故で一夜にして愛する家族を失ってしまう。事故は列車を運転していた車掌が、徹夜マージャン明けで居眠り運転をして起こしたというしょうもない理由であった。

しかし、その裁判で車掌は無罪になる。男としては到底納得できない。そして拭い切れない悲しみと憎悪が、男を復讐の道へと動き出させてしまうのである。




「悪魔将軍とは愛する者を失った悲しみが生んだ悪の化身なんです。ちなみにこの悪魔将軍は、毎晩暗闇が訪れる度に姿を現し殺人を起こすんですが‥‥」



「暗闇が訪れる度かぁ?でも、まだ昼すぎだよな‥‥」

「馬鹿ナリね花上。暗闇はすでに来てるナリよ。」


「そうよ。ほら、また来たわ!」


「えっ!?」


列車の前方には長いトンネルが待ち構えていた。花上はその闇がまるで、悪魔が手招きをしているかのように見えたのであった。


< 9 >


その頃‥‥



♪お昼休みはウキウキ時計見る♪

♪あっちこっちノッチノッチいいとも~♪


清野とメイは謎の焼死体の現場を離れ車を走らせていた。車内にはラジオが流れている。


「もうお昼なんですねぇ。」


「そうだね。事件面倒臭いから二人でどっか食べにでもいこうか?」


「そんなのだめですよ―。」

「ハハハ、冗談だよ冗談。」


♪つかもうぜ!ドラゴンボール~♪

♪つかれたぜ!ドラエモンウォーズ~♪


良さげな二人の雰囲気を邪魔するように清野の携帯電話が鳴った。


「あっ今、いい所なのに…。」

とボソッとつぶやきながらいやいや電話に出た。その電話の主はハモリという男であった。


「あのハモリですけど、清野耕助君かい?明日空いてるかい?」


「はい?一応空いてますけど‥‥、もしかして‥‥。あの【怒っていいとも!】のハモさんですか?」


「その通りです!怪盗ヒゲゴリラさんからのお友達紹介という事で、明日来てくれるかなぁ?」


「あっ‥‥。その人他人ですから‥‥」


ピッ!


清野は電話を切った‥‥。

その表情は怒りに満ち溢れていた。


そして車内のラジオからは、あたふたするゲストの様子とそれに対してのハモさんの怒声が鳴り響いていた‥‥。


そして清野が携帯の電源を落とそうとしたその刹那、ルミコからメールが届いたのである。


【姉さん事件です!】


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「なるほどね。悪いんだけどメイちゃん、もう少しドライブ付き合ってよ」

清野は携帯のメールを読んでメイに言った。

「こっ、困ります!私なんかが清野さんとドッ、ドライブなんて!それに捜査本部に帰らないと!」

メイは顔を真っ赤にし慌てて答えた。


「メイちゃん違うよ。ルミコ君達はどういう訳か悪魔指揮魔術団の列車に乗ってるらしい、しかも殺人事件が起きている」


「えっ!今回の事件に関係ありますね。ちょっとメール見せて頂いてよろしいですか?」

「良いけどわからないと思うよ」

清野はメイに携帯電話を渡した。



【姉さん事件です!】

朝から駅のミステリー列車乗った時から

北海道は夢の中

北を下る人の群れは誰も無口で

銀のマスクが叫んでる

コロ助と2人豆澤に感動し

凍えそうな花上見つめ笑っていました

あ~あ~

悪魔指揮魔術団列車冬景色



「‥‥‥?、何ですかこれ?冬って?」

メイは首をかしげている。その上には幾つものクエスチョンマークが出ている様であった。

「深く考えない方がいいよ」


そう言うと清野は車を走らせた。


その頃‥‥


「おい、列車を止めてさっきの死体を確認するんだ!」

珍しく花上が仕事らしい事をしようとしていたが


「それが、駄目なんです」

一両目から事件を聞いてやって来た、副団長のジャクソン井上が答えた。


「この列車はミステリー列車用に自動運転になってるんです。この路線は終点まで上りと下りが分かれているので止まれないんですよ」


「じゃあ、非常用の電話はないのか?」

「確認したら壊されていました‥‥」

「なんだって!」


列車はスピードを上げて暗闇の続く長い長いトンネルを進んで行った。?


< 11 >


列車は両側に見える景色を一気にシャットダウンさせ暗闇の世界へと変貌を遂げた。同時に乗客達もパニックに陥っていった。


「キャー!あんたなんとかしてよ!」


「あわわわわ‥‥」


「なんまいだぶ~、なんまいだぶ~」


「ああっ、殺される!次は私よ!」


「ダッフンダ!」


「みなさん!落ち着いて下さい!」


パニックに陥る乗客達をなんとか落ち着かせようとした花上だったが、闇の魔力には到底太刀打ち出来そうもなく、乗客の様子を変えることはできそうに無い。


「どっ、どうしよう!ルミコちゃん、コロ助君!」


「あちゃー花上あんた情けないわね。しょうがないわ私達にまかせなさい!」


ルミコとコロ助は乗客達を見渡せるようにテーブルの上に上がった。その表情はいつに無くりりしい感じである。


「それコロ助!日頃の練習の成果を見せる時よ!」


「まかせるなり!」


コロ助は太鼓らしき道具を取りだしなにやら始めだした。



パパンパン!



「でぇーいじょーぶだぁー。」


パパンパン!


「ウエ!ウオ!ウエ!」


パパンパン!



するとどうだろう。乗客達が今度は、そのコロ助とルミコにジュースの缶やらゴミやらを投げ付け始めた。場は余計に混乱してきた。


「ちっ!レーザーはさっき撃っちまったからな!」


「あいたたた‥‥」


花上が頭を抱えていたその時だ!

混乱に生じてナイフがどこからか飛び、先程劇団員と名乗った田中英の胸に突き刺さったのである。


「キャー!!」


「えっ!?オレッスか…」


そのまま田中は倒れ息を引き取ったのであった。

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