第2話事件という名のもとに
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「さすがに‥‥、これは酷いですね‥‥」
自称探偵清野耕助は河川敷の橋の下に来ていた。
身元不明の変わった死体があると新米女性刑事早月メイから電話をもらったからだ。
「清野さん、どう思います?」
「ん~、今の所何とも言えないが黒焦げですね」
「そうなんです、まだ性別もわからないので鑑識を呼びました。」
清野は腕を組んで橋の壁に書かれている文字を見つめていた。
【地獄で豪華に焼かれよ】
「豪華ですか‥‥、業火じゃないのかな?」
「そこなんですよ、犯人が書いたものは確かだと思います」
メイはやや興奮ぎみで話した。
「この下に書いてあるのは‥‥、悪魔将軍?何だろう?」
「それも調べてみました。悪魔指揮魔術団という、演劇集団の題目
【マッスルドッキング】
に出て来る悪の親玉の名前ですね」
話を聞きながら清野はメイの顔をジッと見ていた。
「なっ、何ですか?清野さん人の顔ジッと見て!」
「いや~、メイちゃん相変わらず真面目だなと思ってね」
「からかわないで下さい!」
メイは顔を真っ赤にして笑顔を見せた。
「清野さんやっぱり2人がいないと調子出ませんか?」
「ん~、そう言う訳じゃないんだけどね。今頃は北海道か~」
「花上先輩で大丈夫なんです?」
「さあ、上手くやってるんじゃないかな?」
その頃‥‥
「花上!早くするナリ!豆澤先生と一緒にお食事が出来るナリよ!」
「早くしろ、サッカー馬鹿‥‥」
ルミコとコロ助は玉澤にピタリと付いて三両目に向って歩いて行った。
そこにおかっぱ頭の上にサングラスをチョコンと乗せた女が近寄って来た。
「あら、豆澤先生お久し振りですね」
「何じゃお前か!」
「面白い事始めたら教えて下さいね」
「まだ、コソコソ嗅ぎ回っているのか!」
「そんなことありませんわ。私はジャーナリストですから。フフッ‥‥」
「お前の様な低俗新聞記者は嫌いじゃ」
そう言うと豆澤は一人で行ってしまった。
「あらあら‥‥」
「お前何ナリか!」
「ごめんなさいね、私フリーライターの安帆眞子(あんぱまこ)と申します」
女はニコリと笑った。
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「あら?あなた達もしかしてEXILE探偵事務所の方?」
安帆はルミコ達に問い掛けた。
「いかにも。でも何でも知ってるナリ。もしかして犯人ナリか!」
ルミコとコロ助は身構えている。
「犯人‥‥?君達、この業界じゃ結構有名よ。なんたってあの
【毒入りコーラ本当は毒なんて入ってなかった事件】
を解決した探偵さん達でしょ?」
「有名?私たち有名人なの?」
ルミコとコロ助は互いに顔を合わせニヤ付いている。
「ええ、とても!」
「んじゃ、ヘキサゴンとか出れるナリか?」
「‥‥。えっ、ええ多分」
おそらく一部の人間からだけ有名なのだろうが、二人は大喜びだった。そして頼んでもいないのに羞恥心を歌いながら安帆と花上にサインを書いて渡していた。
そしてその後ルミコ達は3両目に移り食事の席に着いた。他の乗客達もおり、早い物はすでに食事をしていた。
コロ助達が席に着くとメニューの書いた紙がテーブルの上に一枚置いてある。メニューの上部には
【悪魔のメニュー】
と書いてあり、その下には料理のラインナップと注意書きが記されていた。その注意書きには
【お好きなお料理を一品ずつお選び下さい。ただし‥‥、この料理の中には毒入りのお料理が混じっています。慎重にお選びいただき、どうか命を落とさないように‥‥。ヘキサゴン】
と書き記されていた。
「毒入りって‥‥、怖いなぁ。頼むのやめようかな?」
「花上は馬鹿ナリね。これは演出ナリよ。えーと‥‥、この
【ハクション大魔王が止められないハンバーグ】
ひとつナリ!」
「そうよ、心配ないよ。毒入りは劇団員に当たるのよきっと。私は
【ジェフのまぐれスパゲッティー】で!」
「そうだよね!んじゃ、僕は‥‥
【道場七三郎の和食セット】下さい。」
「そいつは毒入りだな‥‥」
とボソッとルミコがつぶやき、コロ助が花上に手を合わせていた。
あたふたする花上をよそに、事件はここから始まるのであった。
食堂車の奥にあるテーブルには、長い花火が刺さったケーキが置いてある。その席には明らかに不自然な黒尽くめの男が微動だにせず座っていた。
「誕生日ナリね。」
「花上、犯人ですかって聞いてこい。」
「勘弁してよ。」
その時、テーブルの花火が大きな音をたてて破裂した。
「なっ、なんだ!」
一同の目は奥のテーブルに向く。
それともに、黒尽くめの男の体がゆっくり床に倒れこんだ。
「だっ、大丈夫か!こっ、こんなの予定にないぞ!」
佐原が焦った様子で駆け寄ったが、男の前で立ち止まってしまった。
「どうしたナリ、闇の組織の人間だったナリか?」
「くっ、首が…」
床に倒れた男の首は折れ曲がっていた。その異様さに一同言葉もなく黙ったままで、列車の音だけが食堂車に響き渡っている。
それをかき消すかの様に奥の扉が開き、銀のマスクが食堂車に入ってきたのだった。
< 7 >
「ハハハハ‥‥!では‥‥、皆さんにこの謎が解けるかな?」
銀のマスクはそう言うと、佐原とその死体らしきものをなかば強引に奥の車両へと引っ張って行ったのであった。
「これって演出なの?」
花上を始めほとんどの乗客は唖然としその様子をうかがっていた。
「兄ちゃん、ありゃ本物だぜ!」
奥の席から声が聞こえた。
それは驚きのあまり席を立っていた乗客達とは対象的に、その男だけは妙に落ち着き払ったまま席に座っていたのであった。
「おまえ誰ナリか?犯人ナリか?」
「ほう。生意気そうなネギ坊主だな?そうだな俺は‥‥、ミスターXとでも名乗っておこうかな?」
男は、いけすかない口調でそう答えた。
ウイーン‥‥
ガシャン!
ズキューン!!
コロ助の口からレーザーが飛びだしその男の鼻先をかすめた。男の側のガラスが跡形もなく崩れ落ちた。
「あっ‥‥、田中っす、田中英っす。調子こいてすいません。」
「ところでミスッタX、なんでわかるなり?」
《あっ、本名で呼んでくれないんだ。》と思いながら田中は答える。
「俺、実は劇団員なんっす。シナリオ通りなら、始めに俺っちが道場七三郎の和食セットを食べて死ぬ事になってたんです。」
その頃‥‥
「小田さん!本当に死んでますよ!」
「とりあえず隠して置くのがいい。演出という事で通しましょう。もう少しで列車も無人駅に止まります、それから考えましょう‥‥。」
「小田さんもこんな時まで変声機使わないで下さい‥‥。それにしても何故こんな事に‥‥。」
「もう少し小さい声でしゃべれないです佐原さん?」
謎の死体を囲むように佐原と銀のマスクが話し合っていた。
異様な雰囲気のまま、列車は進んで行く‥‥。
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