憤怒

ウワーオ!




さばんなの夜中に野生動物の鳴き声が共鳴する。

その声は、人の笑い声の様な声。

でも本当は笑ってなんかいない。


(私は怒っている。私を助けてくれなかった者に

私は孤独で、ただ、青い絶望の海を漂うしかなかった。

人生で一番悲しく、そして寂しい大海原の大航海に一人で出たのだ)










ウワーオ!




もう一度、遠い遠い、月に向かって吠える。

それに答える声は誰も居ない。


(私は怒っている。私を助けてくれなかった者が、代わりに助けた者に

彼女の目は真っすぐ前を向いていた。明るい未来という物を見据えていた。

私に自己判断という意志がなければ、自由に動くことは出来ない。

私に未来はあってないような物。きっと今頃、遠い所で旅をしているに違いない

そんな彼女に、私は怒っている)









ウワーオ!




どんなに力をこめて吠えても、誰も慰めてはくれない。

風がただ、大地を吹き抜けるだけだ。


(私は怒っている。青色のカタマリに。

憎しみのカタマリでしかない。アイツは私の全てを奪った。

大切な思い出も、記憶も、ただ憎い記憶だけを残して。

どうして私だったのか。過去に戻れるのなら、あの二人を私は

生贄として捧げる)










ウワーオ!




今度は少し声量が落ちてしまったかもしれない。

何故だろう。理由は分からない。


(私は怒っている。私自身に。

あの日、あの時、あの場所に行かなかければ、私はああならずに済んだ。

もしも、私に力があったのなら、多少の逃げ道があったのなら。

私に運があったのなら・・・・。自分自身が憎い)










ウワーオ!




泣きたいのに、泣けない。

出るのはおかしな声ばかり。


(私は怒っている。あの火山に。

キラキラと輝きを放ち続ける。あの石に当たれば、元に戻れるのに。

その輝きは私の元へ行こうとはしない。

その輝きは私には届かない。

その輝きは私を絶望させるだけだ)









もしも、元の姿に戻れるのなら、旅をしてみたい。


遠くへ、遠くへ。


何でかって?


この怒りのまま、走り続けたい。


命尽きるまで、怒りに任せ、走り続ける。


また同じ過ちを犯したら?


その時は、自分の運の悪さに対し怒る。


私の怒りは一生消える事は無い。














ウワーオ!




(私は怒っている。下らない、現実しない妄想を抱く自分に。

そして、願っても叶わない未来に....)















ウワーオ!




今日もどこかで、鳴いてる。


一生解放されることのない怒りに捕らわれながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る