怠惰


ここはボクだけの世界・・・


誰にも干渉されずに、楽しむことが出来る。

唯一無二のユートピア。


ボクは自由に遊んでいればいい。


人間という者は、素晴らしい物を作ってくれた。

ボクはどっぷりと沼に足を踏み入れてた様に、その世界にどんどん沈み込んで行った。

いっその事、この中に入りたいぐらい。


ある日、新しいゲームを見つけた。


おかしなゲームだ。


主人公を決めた。何時も自分の名前ではなく、彼女の名前を借りる。


特に大した意味はなく、名前を考えるのが面倒臭いから。


ゲームの内容としてはただ単に、選択肢で冒険を進めていく、

要はロールプレイングゲームってヤツ。


アクションやシューティングに比べたら非常につまらない。


だが、このゲームは違っていた。

不思議な事に主人公の名前に設定した彼女の様子がおかしかった。


最初の選択は、“水を飲むか飲まないか”であった。


飲むを選択すると、彼女が突然やってきて“水飲まない?”と

差し出してきたのである。


その次の選択は、穴を“飛び越えるか、飛び越えないか”


飛び越えるを選択すると、彼女がジャンプしたのだ。


その様子ですぐに察せた。

これは偶然ではない。


確かにボクの指示通りに動いている。


選択肢を選ぶ度、彼女がその通りに動いている。

このことを言おうかどうか非常に迷った。


もし言えば、この奇々怪々なゲームを取り上げられてしまうかもしれない。


黙っておこう。すべて自分自身の意志、自分自身の行為だって。


ボクはゲームを進めている途中、あるアイテムの選択を迫られた。


選択肢を書き換えられるアイテム。


自分で選択肢を作れるアイテム。


違いが良く分からなかったが、ボクは・・・、後者を選んだ。


それは彼女に何かしてほしい、何かするところを見てみたい。

そんな思いもあった。


そして、ゲームを進めたのだった。


選択するたびに見せる変な動き、奇妙な声。

彼女が彼女で無いようだった。


だが、彼女もバカじゃない。


突然ゲームをやっている最中に肩を叩かれた。

ボクが後ろを振り向くと、彼女が獲物を狙おうとしている目で僕を見つめていた。


「キタキツネ、何か知ってるんでしょ?」


「何が・・・」


「ここ最近、私の様子がおかしかったのに気づいてないとでも言えるの?」


ボクは大人しく応答した方が良さそうだと判断した。


「確かにそうかもね...」


「あなたのやってるゲームが原因じゃないの?」


「そんなことないよ」


「じゃあやって見せてよ」


彼女は顔をこちらへと近づけた。


このまま素直にゲームを進めれば、彼女はきっと怒って、

ボクのゲームを取り上げてしまうだろう。


・・・・そうだ。貰ったアイテムを使おう。


自分で選択肢を作れるアイテム・・・


"今ここで、主人公は急用を思い出す"


そういう選択を作った。直ちに実行する。


すると、思い出したように


「なんかやる事あったんだった...。邪魔してゴメンね」


そう言って帰っていった。


良かった。


何も手伝わず、ゲームに没頭し続けた。


そんな日が何日も続いた。

そしてある日...


「キタキツネ!お風呂に入りなさい!」


「は~い...」


ギンギツネの命令を無視したらゲームやめさせられるし、

仕方がない。こればかりは。





「あの子、なんのゲームにハマってるのかしら...」


(今は温泉に入ってるし、ちょっとやってみるか...気になるし)


よいしょっと...、うーんと、名前入力?


“キタキツネ”でいいや。


これはキタキツネに教えて貰ったことがある。

見た目は普通のRPGね。


ん、何この選択?


→■ モンスターを倒す


 ■ モンスターを倒さない





モンスター・・・?


そりゃ勿論倒すでしょ...





ん、なにこの感じ・・・


身体が勝手に・・・





何?何も起こらないじゃない・・・


もしかして壊れた?


いや、そんな筈はない。


壊れるようなことはしてない。私はただ、選択肢を選んだだけ。


ていうか、そもそもこのゲームはどういう....



ゴスッ



「ギンギツネ・・・」


私は、大きな、温泉のところにあった岩で彼女の後頭部を叩いた


彼女はゲームに項垂れるようにして倒れてる。




「そっか...」


ゲーム画面を見ると主人公の名前がボクの名前になってる。


きっと興味が湧いてやったんだろう。


死んじゃった物は、仕方ない。


スイッチがここにあるから、ここをこうしてっと・・・

よし、ボクのセーブデータに戻れた。


「へ、ヘーックション!」


あぁ、服を着てなかった。

服を着たらゲームを続けよ。




え?ギンギツネ?


めんどくさい。取りあえずどかしておこう。



そう言えば、対象が動かなくなったらどうなるんだろう。


よいしょっと、じゃあゲームを・・・



≪ゲームオーバー≫



主人公が死んだらゲームオーバーなんだ・・・

コンティニューもない。

昔、本で読んだことがある。こういうゲームを何て言うか。


“クソゲー”って言うんだよね。

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