傲慢


僕は、パークガイドロボット。

感情は持たないんだ。

だけど・・・。

感情が芽生えてしまったんだ。

君のせいだね。かばん。

お客様を、大切にするのがロボットの役目。

しかし、かばんは暫定パークガイドになった。

能力もある。


だけど、素晴らしいのは自分だ。

体毛にサンドスターが当たった人間もどきより

本当の人間が作った科学力がすぐれている。


僕には人工知能が搭載されている。

様々な事を学習した。


かばんと僕が勝負すれば、僕の方が勝るかもしれない。


ただ、弱い所がある。

インプットされていないデータに遭遇した時だ。


かつての例を言うなら、地形が変わっていたりしたり。


予想外のデータには対応できない弱点はある。


彼女はそれを解決した。


僕の方が優れているのに。


人間はおろかだ。

自分で作った物に苦しめられるなんて。


僕に、感情を芽生えさせてしまったかばんは、おろかだ。


僕は他のパークガイドロボットを操ることが出来る。

コンタクトを取れるんだ。


人間やフレンズより、人工知能の方が高い事を証明してみせるよ。

これは、いうなれば反乱だね。




「ここはどこ?」

目を覚ましたサーバルが辺りを見回す。


「なんなのだ・・・」

アライさんも目を覚ました。


「んー・・・」

フェネックは場を凝視する。


「何が起こってるんですか?」

僕は状況が理解できない。


たしか・・・、バスに乗っていて・・・

突然制御が効かなくなって・・・


記憶がそこまでしかない。


身体を動かそうとしたが動けない。


下を見ると、腰を縄で椅子に縛られ、足も縛られている。

ほかの皆もそうだ。


四角の形に並べられている。


「どうなってるのだ!?」


「こんなのツメで...」


サーバルが引っかこうとした時だった。


“サーバル、ニゲチャダメダヨ”


暗闇の中に光る二つの緑の目・・・


「ラッキーさん!?」


僕は声を上げた。


「しゃ、しゃべったー!」


サーバルはまた驚いた。

ボスがフレンズに語り掛けるのは希な事だ。


“キミタチニ、チョットシタゲームヲ、シテモラウヨ”


「げ、ゲームですか?」


僕は理解できなかった。


“カバン、キミハカンジョウヲメバエサセテシマッタンダ。

ボクタチハ、ジブンデカンガエタ。カシコイノハ、フレンズデモナク

ニンゲンデモナク、カバンデモナイ、コノボクダ”


「な、なにを言ってるんですか・・・」


「何言ってんのボス!ボスはいつも肝心な時に失敗して...」


“サーバル。モウボクハソンナシッパイハシナイ。

ガクシュウシタンダ。コレモ、ガクシュウノケッカダヨ


サァ、チャバンハコレホドニシテゲームヲ、ハジメヨウカ”


もう一体、ボスが奥の方からやって来た。

頭上には、黒い物体を乗っけている。


“イマカラ、ロシアンルーレットヲ、キミタチデシテモラウヨ”


「何なんですか...それ」


不穏な物を僕は感じ取った。


“ルールヲ、セツメイスルヨ。ソレハ、ピストルッテイウンダ。

ナカニ、タマガ、ヒトツダケハイッテイル。ゼンブデ、8コタマガ

ハイルヨウニナッテイルカラ、カクリツハ、8ブンノ1ダネ。


カバン、サーバル、アライグマ、フェネックノ、ジュンデヤッテモラウヨ


ウツトキハ、ヒキガネヲヒイテネ”


ピストルを載せたボスが近づき、僕に差し出した。

素直に、受け取ることが出来ない。


「何でこんなことをするんですか?冗談はよしてくださいよ」


“ジョウダンジャ、ナイヨ。

ボクガ、カシコイッテコトヲワカラセルタメダ。


キカイハ、チカイウチニ、ニンゲンヲモ、チョウエツスル。


コレハ、ソノハジマリニスギナイ。


タワムレゴトハイイカラ、ハヤクウケトルンダ。”


そのボスの声に、恐怖というか、不気味な物を感じた。

恐る恐る、手に取った。


“ソコニ、ワッカガ、アルヨネ。ユビヲカケテヒクト、タマガ

ハッシャサレタリ、シナカッタリスルヨ。


カリニ、タマガデタラ、シヌカラネ”


「し、死ぬ...」


フェネックが珍しく怯えた声を出した。


サーバルやアライさんは事の重大さがわからないのか、

それとも、“死ぬ”の意味が分からないのかもしれない。


“ゲームカイシダヨ。1フンイナイニウッテネ。

モシ、ナニカフセイヲシタリ、セイゲンジカンナイニ

ウタナカッタラ、シヌカラネ。


60、59、58、57、...”


ボスがカウントダウンを始めた。

僕は、説明の通りだとサーバルを撃たなければいけない。

訳の分からないゲームに強制的に参加させられた。

逃げる事も、助けを求めることも出来ない。

心の中で葛藤が自然と生まれた。


(サーバルちゃんを殺すかもしれない。

だが、弾は8発中1つ。最初に出る事は無い・・・

いや、出るかもしれない...)


徐々に減っていくボスのカウントダウンに焦っていく。


サーバルは何も言わず、僕の顔を見つめていた。


ボスは制限時間内に撃たなくても、死ぬと言っていた。


(大丈夫だよ...、絶対サーバルちゃんは死なないから...)


“18,17,16,15,14...”


「ゴメンね・・・、サーバルちゃん・・・・」


僕は訳も分からず、銃口を彼女に向け、汗でビチョビチョになった手で引き金を引いた。


カチッ


何も起こらなかった。

ホッと一安心したのも束の間、


“サイショハ、 スカ、ダッタミタイダネ。マタ、ソノラッキービーストニ

ワタシテ、ツギハ、サーバルノバンダヨ”


と言って来たので、トレイにピストルを載せた。






さっき、かばんちゃんは、私に黒いヤツを向けた。

死ぬって言葉の意味が分からないけど、

フェネックが怯えた声で言っていたから、きっと怖い事なんだよね。


かばんちゃんはそれが嫌で、私にアレを向けた。


ボスがいる。取らないと、私も怖い目に合うのかな。

それは嫌だった。


取ればいいんだよね。取れば。


アライさんに向ければ良いんだよね。


まあ、さっきも大丈夫だったし、平気だよね。

大丈夫、大丈夫・・・


あれ・・・、何で手が震えてるんだろう。


おかしいな。


絶対・・・・大丈夫なのに。

これでいいんだよ、ね?


カチッ






次はアライさんの番なのだ・・・。

最初は、意味がよくわからなかったのだ。

だけど、サーバルがあの黒いヤツを持った瞬間

手が震えていたのを見て、怖い物かもしれないと思ったのだ・・・


アライさんは、フェネックに怖い物を向けなきゃいけないのだ・・・


もしこれで、フェネックがいなくなったら・・・、嫌なのだ・・・


だけど、ルールを破ったら、アライさんがいなくなっちゃうのだ。


それだとフェネックが悲しむのだ...


それも嫌なのだ。

黒いヤツを引くしかないのだ。


アライさんは、強運の持ち主なのだ・・・


カチッ





死ぬっていう言葉の意味を教えてあげたいけど、教えたらもっと酷くなりそうだから、

やめておこう。

私の時点で8発中、3回撃たれた。

確率は6分の1。そこそこ高い...


いや、これは確率で何とかなる問題じゃない。


運だ。


だけど、これはラッキービーストが始めたゲーム。


計算されている・・・?


もしラッキービーストが意図的にこの4人のうちの誰かを殺すと

したら、誰を殺す?


・・・・・・・・・。


“13,12,11,10,9,8...”



早く撃たないと。



カチッ





また僕の番だ・・・。

今度こそ、サーバルちゃんを・・・


何を焦ってるんだろう・・・


落ち着け、落ち着け。


大丈夫、サーバルちゃんとは強い絆でつながっているから。


・・・絆って?


もうこんな事考えるのは止めよう。


さっさと撃って、死んじゃったのなら仕方ない。



カチッ






良かった、取りあえず私は怖い目に合わないんだ。

自分が助かったとわかったら、ホッとしちゃった。


平気だよ、かばんちゃんは。


かばんちゃんさえ助かれば、後は良いや。



カチッ






なんかすごく早く黒いヤツを渡されたのだ・・・・

アライさんがフェネックをうつか、どっちかなのだ。

そもそも、弾なんて入ってないかもしれないのだ。

ビビりすぎなのだ。


アライさんは、全員助かる事を、信じているのだ。


カチッ







私の番だ。

なんでこうなるんだろう。


ボスの言っていることがハッタリかもしれない。


だが、本当だったら、私がかばんさんを殺すことになる。


私が不正行為をして、わざと死んでも、かばんさんがサーバルを

撃てるわけがない。


それを嫌がって、かばんさんが不正行為をしても、かばんは死ぬことになる。


好きな人に好きな人を殺させるのは、なんか嫌だよね。


嫌われ役をかってでる人も、必要だよね。


ごめんね。かばんさん。旅、楽しかったよ。



ゆっくりと、手を掛け、引き金を引いた。




バンッ




血を口から垂らし、生気を失った黒髪の少女。

金色の髪をした少女は口を開けて、茫然としていた。

灰色の髪をした者は、涙を流し、

クリーム色の髪をした、黒髪の少女を撃った彼女は

真顔で、どんな顔をしていいのか迷っている様子であった。


“ゲームハ、オワリダヨ。オロカナ、ニンゲンヲハイジョデキテヨカッタ。

コレカラハ、ボクノジダイダ”


そう言って、ボスは姿を消した。


サーバルは黙ってツメで縄を裂いた。


フェネックはやり切ったように、目を閉じ、腕をだらしなくぶら下げて、

椅子にもたれ掛かる。

これから自分に、どんな運命が待ち構えているか、予想していたかのように。


「うっ...、うっ...、ううっ...!」


涙声が聞こえた。


「アライさんを撃てばよかったのに...っ!」


「・・・・」


右手のツメが、自身の腹に深く刺さった。


「このッ!このッ!」


どんどん自身の服が裂かれ、皮膚も裂かれ、内臓が裂かれる。


じわじわと。



「フェネック!フェネック!」


声が聞こえた。でも意識はどんどん遠のいて行く。


アライさ・・・ん・・・・









―――ック!、フェネック!、起きるのだ!



「ん・・・・」


目をそっと開けると図書館だった。


「私・・・」


身体を軽く触る。異常はない。


(変な夢・・・)


なんであんな奇怪な夢を見たのだろう。


「私、何してたっけ」


アライさんに尋ねた。


「今度のパーティーで、“ろしあんるーれっと”っていうゲームの

奴をじゃぱりまんでしようって、かばんさんが提案していたのだ。

そのルールを調べた後、レシピを探していたのだ」


「パーティってなんの?」


「フェネック・・・、パーティは新しいボスのボディが見つかったお祝いなのだ!」


「ボス・・・?、なんでボスのパーティをやるの?」


「ボスが賢くなったのだ!かばんさんも知らない事をペラペラしゃべったり、

難しいことを言う様になって・・・、“僕にはじんこーちのーが”どーのこーのって...


フェネック?どうしたのだ? 顔色が悪いのだ」


機械が人間を見下す。

機械が人間をバカにし、弄ぶ。

機械が人間を支配する。

そんな時代が来るのだろうか・・・


“キカイハ、チカイウチニ、ニンゲンヲモ、チョウエツスル”


ボスの無機質な声が、ずっとフェネックの脳裏に響き続けた。

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