色欲
小さい寝息を立てて、私の横であの子が寝ている。
可愛らしい。
その顔を長時間直視することは出来ない。
未知の感情に支配されてしまうからだ・・・。
善悪が分からなくなりそうで。
宝石を壊してしまいそうで。
苦しくなって・・・。
私は寝苦しくなり、一人で外へ出た。
冷たい風が、私の髪を揺らす。
一人でどうしようも出来ない迷宮に迷い込んでしまった。
あの子は悪くはない。
全部、私のせいだ
私の、
私があの子に惚れてしまったから、
バカバカしい、自分がいやだな。
ハァ・・・
溜め息をついても、何の解決にもならない。
ただ虚しく、夜空に自分の息が舞い上がるだけだ。
もう戻ろう・・・。
その日は、少し距離を置いて寝た。
またあの子と、旅を続ける。
無鉄砲で、無邪気で、愉快で楽しい。
私にとってもその時間は幸せ。
唯一無二の時間だ。
だけど、今愚かな自分は、その大切な時間をも壊そうとしている。
自分が、憎い。
愛する人を何時しか沼の底に沈めてしまうかもしれない。
愛する人の代わりに、私が、沼の底に入った方が得策かもしれない。
・・・それが出来ればなあ
あの子は、私の事どう思っているんだろう。
それとなく聞くと、称賛の嵐を浴びる。
尊敬してる。大好き。
この大好きの意味はきっとあの子にとっては友達として、
何だろうなぁ・・・
ちょっぴりそれが悲しかった。
私も大好きだよって言っても、そう解釈されそうで。
日に日に、大きくなってゆくのを感じる、心の中の獣。
いつしか、その大きな獣に飲み込まれそうになる。
何とかしてこの気持ちを必死で抑え込む。
突然、汚らわしいこの手で、あの子を壊してしまうかもしれない。
私は、あの子を守りたい。
見守っていたい。
でも・・・、無理かもしれない。
遂に獣は、心の檻を抜け出し、体にも現れた。
ずっとそわそわが止まらない。
膝を揺すったりするのが多くなった。
呼吸も少し荒くなる。
下唇をそっと噛み、スカートの裾を必死になり掴む。
まるで暴れ牛から振り落とされない様に。
もう、苦しい。やだ、こんな自分が。
見苦しいにも程がある。
一緒に寝る事もままならない。
目を開けたまま、夜を過ごすことも多い。
周りから心配された。
だけど、私は笑って大丈夫と答える。
その度に私の中の何かが壊れ始めていた。
ハァ...ハァ...
苦しい。
あの子が息をするだけで。
我慢が出来ない。
でも、壊したくない。
葛藤が生まれていた。
でも、この勝負に勝ち負けがつくか分からない。
ああああぁぁぁ....
一人で小さく、頭を抱え、嘆く。
それを聞いてくれる人は、誰も居ない。
私の頬は、自然と濡れていた。
もうダメだ。勝負に耐える体力が、もうない。
はぁ・・・、はぁ・・・・
私は濡れた顔を、あの子に近づけて最初で最後の愛情表現。
優しく、唇に触れた。
短い時間が長く感じた。
ありがとう、と短く言葉を言い残し、私はそこを飛び出した。
闇雲に闇の中を走る。
私の行きつく場所は、もうどこにもない。
でも、あの人たちが心配するかもしれない・・・・
だけど・・・、だけど・・・、だけど・・・・
壊したら、もう遅いの。
小高い丘の端っこにたどり着いた。
ここがどこかもわからない。
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
辺りを見回すと、木々、空には輝く月と星たち。幸せそうだった。
ふと、下を見ると深い深い、闇が広がっている。
終わりが見えない。
ずっと、その闇を見つめていると、吸い込まれそうになる。
永遠に、私を安全な所に閉じ込めてくれそうな気がして。
欲望という悪魔から、私を守ってくれる、絶対安全空間。
その暗闇に、私は希望を見出したのか、それとも造ったのか。
今となっては分からない。
私は、その希望を掴もうとした。
終わりの見えない、その闇の中に。
いつの間にか、私の顔を濡らしていた涙は乾いていた。
ゆっくり、ゆっくり前に歩みを進める。
私を救ってくれる希望の光がある。
もう一度、そう言い聞かせた。
目を閉じて、闇の中へと、光を求めて飛び込んだ。
「アライさん、フェネックさん知りませんか?」
「わからないのだ・・・」
「どこ行ったんでしょうかね・・・・」
「ありがとう」
「えっ?」
「何でもないのだ。たぶん、夢なのだ」
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