嫉妬

かばんちゃん...


いつの間にか、その存在は私を追い抜かしていた。


私が、かばんちゃんに教わること多くなったね。


最初の頃はずっと、私が先を歩いていたのに、抜かされちゃった。

そして、最終的には私がかばんちゃんについてくるようになったね。


私、そのことを色々考えたら変な気持ちになっちゃった。


やきもきする気持ち。かばんちゃんに対して。

何時もは優しく接するけど、それとは別の感情が。


私だって優れていることはある。運動能力はかばんちゃんよりも上だし、

高い所にだって手が届く。



だけど、かばんちゃんは料理も作れて、紙ひこーきも作れて、

問題を解決して、私を助けてくれた。



私もかばんちゃんになりたい。


でも、それは雲を手に取るみたいに難しい話。


私はかばんちゃんになれない。


そう思う度、どうして、どうしてと思い悩んだ。


料理や紙ひこーきが私に作れた所で、それはかばんちゃんの真似をしただけ。


私は、かばんちゃんの才能が欲しい。才能にあこがれている。


それは、確かな気持ちであったが、同時に嫌いでもあった。


私たちはさばんなちほーで星空を眺めながら寝転がっていた。


「サーバルちゃん」


彼女の声に反応し、横を向いた。


「なに?」


「綺麗だね」


「・・・・・・・」


その、言葉に素直に答えるかどうかに戸惑った。

星に見惚れていたのか、眠かったのか、それとも・・・


「どうしたの?眠い?」


彼女に再度言葉を掛けられ、意識を戻した。


「なに?」


「大丈夫?」


「平気だよ」


私は平気でいられるのだろうか。


かばんちゃんの優しい声にノイズが掛かった様に聞こえる日が来てしまうかもしれない・・・


もしかしたら、かばんちゃんを傷つけてしまうかもしれない。



そんなの、ヤダよ....



「サーバルちゃん、どうしたの?」


「えっ?」


「なんか、悩みごと?」


この人はやっぱりすごい。

心の中がまるで丸見えみたいに的確に当ててきた。

どうしようか・・・・


「僕でよかったら、相談に乗るよ?」


彼女の声が、夜の草原を駆け抜ける。

ここで、今の気持ちを話せば多少は楽になるかもしれない。

ただ、その気持ちが彼女に関係することだ。

傷つけてしまうかもしれない。


その不安の一方で希望の光もあった。


かばんちゃんと私の間には硬い絆がある。

そう簡単に壊れはしない。


私が、前者を取るか後者を取るかの判断だった。


ネガティブな考えをするのは、私らしくない。



大きな息を、空中に向かって吐いた。


「あのね、かばんちゃん」


「なに?」


「わたしっ...」


言葉が詰まる。何て言えばいいんだろう。

間違えた言葉を選ぶと、繊細なガラスの球がはじけそうで怖い。


「喋ってみなよ。怒らないし、悲しまないからさ」


その言葉に私は背中を押された。


「わたしね、かばんちゃんに対して、変な気持ちを感じるんだ。

なんかよく分からないんだけど、うらやましいの。

かばんちゃんが...。


なんで、私より優れてるんだろうって。その才能が、きらい」


しばらく、黙っていた。かばんちゃんは。


「サーバルちゃん...、僕の事、羨ましい?」


難しい説明を省き、そう質問した。

私は静かに肯く。


「なりたいくらいに。かばんちゃんそのものに」


「ありがとう」


かばんちゃんは、優しくそう言った。

さっきの言葉の通り、怒らず、悲しまなかった。


「そういう気持ちが、苦しいんだよね...」


私に同情してくれる。

その対応の裏で、必死に私を救おうと考えていたのだろう。


「実はね、僕も、サーバルちゃんが羨ましいんだ。

僕より運動能力高いし、セルリアンも倒せて...」


プライドが高かったのか。

意地を張りたかったのか、その言葉を遮る様に気持ちを伝えた。


「羨む気持ちは、私の方が強いよ。

かばんちゃんが私の前に立つのが、悲しかった。

いつか離れちゃうかもしれないかもしれないって思って、

必死について来た。もし、途中で転んだら、置いてかれそうで...」


早起きしたわけでもないのに、涙が出てくる。


「僕は、置いてかないよ。

サーバルちゃんが転んだら、手を取って、助けてあげるし

サーバルちゃんが戻りたいって言ったら、戻ってあげる...」


「本当?」


震えた声で、小さく言う。


「本当だよ」


自分のまねをしているかの如く、小さい声で言った。

私は、かばんちゃんを見た。


忘れないうちに追い抜かされない様に、しないと。


「ありがとう。でも、一つお願いがあるんだ。かばんちゃんは後ろからついて来てね」


「どういうこと?」


「かばんちゃんが転んだら、手を取って助けてあげるし、

かばんちゃんが戻りたいって言ったら、戻ってあげるよ」


自分の言った事を、オウム返しで返されたので可笑しかったのだろう。

クスッと笑った。


「その時は、頼むね」


私の事を信頼して、そう言ってくれた。

きっと、約束は守ってくれるはずだから。かばんちゃんは。


もし、かばんちゃんが約束を破ってまた先に行ったら?




その時は、許さないんだから。

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