暴食

どうも、ワシミミズクの助手です。

初めて、手記というものを書くのです。

なぜこういう物を書くに至ったか、説明しましょう。


それは、ここ最近の博士の様子を記録するためです。


あれは、かばん達がごこくエリアから戻ったときから、

異変は始まりました。



帰ってきた当日、私たちはかばんの料理が食べたいと思いねだりました。

かばんは快諾し、あっちのエリアで作った料理を出してくれました。


それも、たくさん。


私たちは、食べきれない程の美味しい料理を食べれてとても満足しました。


かばんはしばらくの間はこのエリアにいると言ってくれました。

私たちは住み場所を提供する代わりに、料理を出してくれという約束をしたのです。


それから、毎食かばんの作る料理を食べ続けました。


時には、おやつという物で、甘いクッキーなんかを作ってくれました。


非常に満足した食生活を送る事が出来ていたのです。


ある日、博士がもっと量を増やしてほしいと言い始めました。

かばんは困惑した様子でしたが、笑って私たちの分を少し多めに出すようにしました。


異変はここから始まったのです。


私は、そもそも料理は好きでしたが、胃には余り入らなかったので

少し多めになった料理を食べるのにやっとでした。


ふと、横を見るとペロリと料理を平らげている博士を見て、私は驚きました。

体格は私と殆ど変わりないのに、なぜあんなに食べれるのか不思議でした。


手を付けないでその様子を、驚いた目で見ていると博士が、


「助手、食べないのですか?」


と言ってきました。


私が戸惑っていると、


「もったいないですね。私が食べます」と言って私の皿を自分の方へと


引き寄せました。


かばんも、不思議そうな顔をしてその光景を見ていました。


私は博士に尋ねました。何故そんなに食べれるのかと。


すると博士は、“美味しい物を沢山食べて何が悪いのです”


とキレ気味に言われてしまいました。


日が経つにつれ、次第に博士は食べる量を増やし続けました。


かばんも、これ以上は多く作れないと苦言を呈していました。


私はその様子を見て、二つ疑問に思ったことがあったのです。


一つは、何故私と体格の変わらない博士があんな量を食べれるのか。

もう一つは、何故太らないのか。


本で調べてみると、

食べ過ぎは体に悪く、脂肪という物が付き太ってしまう。

それが病気の原因になるとも書いてあったのです。


私は博士が心配になりました。


日中はほとんど図書館にいるし、体も動かしていない。


そこで、博士を観察することに決めたのです。


朝、起きると博士はかばんの料理を食べました。


私の物より多めに出されました。


その後、博士は本を読んだりして日中を過ごしました。


お昼になり、また博士は食べました。


朝と同じ量です。


今日は間食にケーキを食べていました。

白いクリームがたっぷりと塗られ、赤いイチゴがひと際目立つ。


かばんの自信作だったのです。


丸い円形のケーキの半分を食べていました。


夕飯の時間になるまで、博士は棚に隠してあったクッキーを

食べながら、本を読んだりしていました。


そして夕飯を食べ終わり、ベッドで博士は寝ました。


私も、これで終わりだと思って眠ろうとしました。


突然、深夜にガサゴソという物音が聞こえたので目を覚ましました。

すると、今までベッドで寝ていたはずの博士が居なくなっていたのです。


思わず、飛び起き寝室を出て博士を探しました。


下で物音がしたので、その方向に行き、こっそりと棚からちらりと覗きました。


博士は月明りの下で、椅子に座っていたのです。


ビンの中に白色に光る固形物を見つめていました。


何をするのかと不思議に見ていると、博士はビンの蓋を開けて

固形物をガリガリと食べ始めたのです。


私はじっとしていることが出来ず、博士の前に飛び出しました。


私に見つかった博士は、口をもごもごとさせながら私の顔を見ていました。


ゴクンと飲み終わると、“何ですか”と。


こんな時間に何をしているのですか、と尋ねると、


「サンドスターを食べているのです」と驚きの返答をしました。


続けて、「サンドスターを食べれば、消化が良くなるのです。

だから、沢山食べれるのですよ」


と勝ち誇らしげに、私に言いました。


私は、いつも博士を尊敬していましたが、今回ばかりは違いました。


“博士が身体を壊したら嫌なんです!”と強い口調で迫りました。


すると博士は、こう言い返してきました。


「サンドスターの効果は私が身をもって証明しました。

身体を壊す可能性はゼロなのです。そんなに疑うのなら、あなたも食べるのです」


そう言って、暗い夜でも白い輝きを放ち続けるサンドスターを差し出しました。

ですが私は、それを拒否しました。


“博士は食に支配されているのです。元の冷静な博士に戻ってください”


博士は、バンッと机を思いっきり叩きました。


「助手はバカなのですか?食は素晴らしいのです。

食べる事で感じる事の出来る幸せ、最高じゃないですか

サンドスターを摂取することで、永遠にその幸せを感じる事が出来るのです。

わからないなんてかわいそうですね、その幸せが」


その口ぶりに、私は怒りを覚えました。

必死にその感情を抑えようとしている私に、なおも博士は反論をつづけました。


「失望しましたよ。あなたと私は一心同体だと思っていたのに。

幸せを共有することを拒むとは・・・」


一旦間を置いてから、


「あなたを食べてやるですよ。

大人しく、“私も博士と同じ幸せを感じたいです”と言えば良かったのに」


堪忍袋の緒が切れました。


「ハァ?博士が私を食べる?寝言は寝てから言って下さいよ。

賢いあなたなら知っているでしょう。私が、元々どんな動物か」


「それくらい知っているのです。ワシミミズク、強い力を持っていて、

最も強力な猛禽類と言われている、ですよね?」


博士は、目を瞑って記憶を辿る様に暗唱しました。


私は黙って、肯きました。


「最も強力な猛禽類と言っても、フレンズ化したあなたは野生解放しても

その力は半減、ましてや、一番尊敬している私に牙をむけることは不可能でしょう?」


挑発に耐えられなくなっていた私は、逆に博士を挑発しました。


“博士...、もし、私があなたを食べれると言ったら?”


「私の命を賭けてもいいでしょう。あなたは食べれない。幸せを感じられないのです」


その言葉を忘れるなと、忠告して私は博士を置いて地下室に行きました。


走る私の姿を見て、クスクスと笑い声が聞こえました。


地下室に来た私は、棚から試験管に入った細かい黒い固体を手の平に

広げました。


サンドスターロウです。私たちはサンドスターの研究もやっていました。

ロウには一時的に、野生解放よりももっと強力な、元の動物の能力を100パーセント引き出せる、

野生回帰現象を引き起こすという研究結果を出しました。


私はゆっくりと唾をのみ込みながら、その固体を口に含み飲み込みました。


最初は、物凄い吐き気が襲ってきました。息遣いが荒くなり、気も失いそうになりました。

ですが、それを耐えきったのです。


私の身体は、ゾクゾクと疼いていました。


無言で、博士の前に再びやってきました。


「何ですか、また来たのですか?」


私はその問いを無視し、言葉を発しました。


「さっき、博士は、“あなたは私を食べれない。命を賭けてもいい”と仰いましたよね?」


「ええ、そう言いましたね」


博士は否定も、嘘もつきませんでした。


「後悔しないでください。私はあくまで、勝負に乗っただけですから」


博士は理解できないようでした。まだ、自信があるのでしょう。


私は一応忠告しました。ここで、引き返すことも出来たはずなのに、

博士はそのまま、道を突き進みました。


「やれるもんならやってみるのです」


余裕の表情で、こちらを見ました。


私は、野生解放・・・、いや、野生回帰をしました。


ここからは記憶が曖昧です。覚えている事を書くのです。


博士に近づくと、その白銀はくぎんの衣を鋭いツメで引き裂きました。

その時の顔は、恐ろしい物を見たように怯えた顔でした。


「ウアッ!悪かったのですッ!やめるのですッ!」

博士は悲痛な叫びを、あげていました。


私の口の中に、今までに食べたことのない味が広がりました。

博士の言っていた幸せは、その時の私にはわかりませんでした。


博士の身体は物凄く輝いていました。

宝石の山がそこに埋まっているかのように。




私が意識を取り戻したのは明け方でした。

かばんが、起きなかったのが唯一の幸いでした。


目を開けると、そこには悲惨な物体が床に落ちていました。


白い羽も散らばっています。


口の中にも違和感を感じました。


とにかく、マズい状況だと察せました。私は大急ぎで、それを寄せ集め

図書館を飛び出し、近くの川の方へ飛びました。


私は、そっとその残り物を、川に流したのです。


戻ってくるとかばんが起きてました。


外から戻ってきた私に、どこに行っていたのだと尋ねました。


私は、“朝の散歩に”と言い訳をしてその場を乗り切りました。


朝食を作っている途中、「博士さんが起きてきませんね」と言ったので、


“ぐっすり眠ってますよ。下手に起こさないようにしてくださいね”


と、下手な嘘を付きました。


「そうですね」と純粋なかばんは、納得してくれました。


これが、事件の概要です。


いつまで隠し通せるかわからないですが、これだけは言っておきます。

私は、あくまで勝負に乗っただけ。

罪があるとしたら、それは博士の方でしょう。











博士達の寝室のドアが開いていたので、中に入り偶然見つけた

ノートをそっと閉じ、僕は体を震わせた。


博士が居ない理由がわかったから。


「かばん、早く朝食を作るですよ」


声が聞こえたので、慌てて階段を下りた。


そこには助手が一人、座っていた。


僕が調理を始めるために外へ出ようとすると、


「食べる事は、幸せですね」


ボソッと、助手が呟いたのであった。

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