💢💢💢クリーチャーシッターの怒り💢💢💢

ちびまるフォイ

そっちかーーい!!

「ご利用、ありがとうございましたー!」


「いいえ、こちらこそ。うちのキマイラちゃんを

 預かってくれてありがとうねーー」


クリーチャーシッターを初めてもう3年。

仕事にも慣れてきて最近は毎日が楽しい。

まだまだ店は大人気とは言えないけれどこれが頑張り時だ。


「さて、そろそろ予約していたお客さんが来る頃かな」


店の前に長い車が止まるとカゴだけ残して去っていった。

そのあとで電話がきて、これが今回のシッター相手だと知る。


「やれやれ、ずいぶん雑なお客様なんだなぁ」


カゴの中を覗くと、顔は丸く、手足が小さいクリーチャーがいた。

というか、人間の赤ちゃんだった。


「まぁ~~」


「ええええ!? ちょっ……人間かよ!?」


「うえっ……うえっ……うえぇぇぇぇん!!」


「ちょっと待ってって! 俺はクリーチャー専門なのに!」


人間は管轄外だ。それより何とか泣き止ませないと。

ゴブリンの赤ちゃんだったら棍棒与えればおとなしくなるし

ケサランパサランだったら毛布を……じゃなくて!


「い、いないいないばぁ~~?」


「びえぇぇぇぇん!!」


「効果ねぇぇ!! 誰だよこれ考えたやつは!! 詐欺か!!」


クリーチャーならまだしも人間を泣き止ませる方法はわからない。

グロドログモの赤ちゃんが喜ぶハンモックにのせるとやっと泣き止んだ。


「はぁ……はぁ……さて、どうしよう……」


きっとこの店をただのベビーシッターの店と誤解したんだろう。

このまま突っ返すこともできるが客は大金を用意してくれていた。

ここで断れば信用問題になるだろう。


いつだって金のある客の影響力は計り知れないのだから。


「まぁ大丈夫だろ……。これでも扱ってきたクリーチャーは数千種。

 赤ちゃんの1匹くらい――」


「うぇぇぇえん!! うぇぇぇぇん!!」


「起きるの早っ!?」


今度はハンモックも効果なし。お腹が減っているのかとミルクを用意しても

地面にわざとぶちまけて期限の悪さをアピール。


「あーーもうなんなんだよ!? どうしろっていうんだ!?」


赤ちゃんを放置して解決策をネットに求めるも答えは出ない。

いざというとき、ネットは当てにならないということだけわかった。


パソコンから赤ちゃんへと向き直ると今度はご機嫌だった。


「あれ……ぶちまけたミルクが消えてる……。

 まさか吸ったのか? 赤ちゃんすげぇ……!」


床のミルクを吸ったのかこぼれた形跡が消えていた。

ミルク飲みたいんだったら最初から普通に飲めよ。


「そうだ……こうなったら部屋にある冷凍催眠装置で、

 シッター機関が終わるまで眠らせて……」


と、ご機嫌に乗じて赤ちゃんへと近づく。

でも影を踏んだ距離まで近づくと赤ちゃんは再び大泣き。


「びぇぇぇん! ぷぎゃえぇぇぇえん!!!」


「またかよぉーー!!」


その後も、人間の赤ちゃんに振り回される日々は続いた。

うんちなんていくら頑丈におむつしても床に転がるし、

ちょっとでも近づいたら泣き出したりするしで大変だった。


「はぁ……クリーチャー以上にクリーチャーだよ……」


酒さえあげればおとなしくなるヤマタノオロチや、

放って置いても平気なホムンクルスがいかに楽だったか。


「預け主には絶対に文句言ってや――」


「びゃあああああん!! うまひぃぃぃ!!!」


「あーーはいはい。今いきまちゅよーー!!」


これじゃシッターというより使用人だ。

赤ちゃんに振り回されながらもついにシッター終了日まで勤めあげた。


「ああ……やっと終わった……疲れたぁ……」


赤ちゃんが泣くもんだから最近はずっと眠れていなかった。

シッター終了日になると、あの長い車が店の前にやってきた。

見るからにお金を持ってそうな人がやって来た。


「やぁやぁ、今日までシッターありがとう。助かったよ。

 ちょっとワイハでシースーのパーリィナィ★してたからね」


「人の気も知らないで! こっちは大変だったんですよ!?」


「それじゃ赤ちゃん返してもらいますねーー」


依頼者はマイペースに続けて赤ちゃんのもとにやってきた。


「おおーー。可愛い可愛い。育ってる育ってる。

 やっぱりあなたに預けて正解でした」


「あのですね、次利用するときは間違わないでくださいよ!」


「……なにをですか?」


「当店はクリーチャー専門です!

 今度はちゃんとクリーチャーを預けてくださいっ」


俺の熱弁に依頼者は目を丸くした。


「ええ、知ってますよ?

 だからクリーチャーを預けたんじゃないですか」


依頼者は赤ちゃんではなく、赤ちゃんの影を抱き上げると

満足そうに車に乗せて去っていった。



「ああ、その赤ちゃんの擬態はセミの抜け殻みたいなものです。

 もういらないんで捨てちゃって大丈夫ですよーー」


走り去る車から依頼者の声が聞こえた。

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