第2話 ちょっと趣向を変えた揚げ餃子
世界の指導者と言われている大国、ミズガルーズ。そこには軍隊が存在し、世界のあらゆる国を守護している。そんな軍隊の数ある部隊のうち、一部隊長を任されているのが、彼。名をスグリ・ベンダバルという。若くして部隊長となった彼は、日夜様々な仕事をこなし、部下からの信頼も厚い。
そんな忙しい日々の中の、今日は久々のオフだ。一人暮らしでもある彼は基本的に規則正しい生活を送ってはいるが、時には不摂生もしたい。何せ久々の予定のない休日なのだから。幸い休日前にやるべき仕事は終わらせてきたし、引き継ぎなども部下に指示してある。
……たまには、昼から酒を飲んでもいいだろう。
スグリは人よりも酒には強い。一杯や二杯飲んだとしても酔うことはない。そうと決まれば、何か作るか。何かあっただろうか、と冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中には、これといって目ぼしいものはない。というより、酒以外に残っていたのは餃子の皮やシソの葉、梅干しだけだ。何故そんなものだけしか残っていないのか、正直自分でもわからない。さすがに自分の行動に疑問を抱かざるを得ない。
……賞味期限は幸い無事のようだ。
しかし、餃子の皮にシソの葉に梅干しか。これはあれか、変わり種の餃子でも作ってみろということなのか。
「まぁ……時間はあるしな」
やるだけやってみよう。
とりあえずシソの葉は洗ってから、茎の部分だけ切り落とす。刻もうとも思ったが、なんだか面倒に感じてしまったことだし1枚をそのまま使おう。梅干しはそのまま入れる、訳にもいかない。皮から飛び出す以前に餃子の皮一枚に梅干し一個は、分量が悪すぎないか。梅肉にしよう。種を取って、無心に包丁で梅干しを細かく叩く。
餃子の皮にシソの葉を置く。そこに叩いた梅肉を適量置いてから、餃子を作る。見た目は悪くない。
さて後は焼くだけだ。しかしそのまま焼いても美味いのだろうが、果たして酒のつまみになるだろうか。今日の目的は酒のつまみを作ることだ。しばし考えてから、ある調理法を思いつく。
「揚げ焼きにでもしてみるか」
フライパンに植物油を入れて熱する。温度計なんて便利なものはないが、菜箸を入れて油の温度を確認する。
ぷくぷくぷく、と菜箸から小さな気泡が現れては消える。揚げ物の温度に最適な、180度だ。それを確認して、包んだ餃子を油の中へ入れた。
パチパチッと空気が弾ける音と共に、油の中を楽しく泳ぐ餃子。入れ始めは大きな気泡ばかりであったが、暫くすると細かな気泡に変わっていく。好みの揚げ色よりも少し色が薄い段階で、餃子を油からあげて油きりをする。最初は薄い部分だった箇所が、余熱で火が入り、こんがりと色付く。油がしっかりと切れたところで、試しにと一個口にした。
カリッという揚げ物の揚げたて独特の、耳に心地よい音。パリパリとした餃子の皮の食感と共に、シソの葉の爽やかな香りが口一杯に広がる。噛めば噛むほど、シソの葉の風味が舌を楽しませる。梅肉は揚げられたことで酸味を強く感じるが、それが逆に食欲を掻き立てる。もう一口、と誘われるようだ。元々シソの葉と梅干しは相性がいい。考えてみれば、失敗なんてしない組み合わせだった。
疲れていた体に、程よい梅干しの酸味が染み渡る。カリカリに揚がった揚げ餃子も、その耳に響くサクサクッという音でスグリを楽しませていた。
試しにと冷蔵庫でキンキンに冷やされていた瓶ビールをグラスに注ぎ、飲んでみる。
「ああ〜」
合わないわけがなかった。
揚げたての揚げ餃子で五感を楽しませて、しっかりと冷えているビールで喉を潤し疲れを癒す。一気にこの組み合わせが気に入ったのか、残りの餃子も揚げ焼きにしていた。
なんて最高の自堕落だろうか。確かにスグリは軍の一部隊長だが、それ以前に一人の若者だ。自由な時間が有限であることを誰よりも知る彼。たまにはこうして、息抜きをすることも許されるだろう。
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