第9話


 荒野を巨大な砲弾が走る。

 「タガメ」たちチームの巨人が三角形の陣形を組んで敵陣を突撃していた。

 先頭に巨大な盾を二つ構えた巨人が、邪魔するものを全て弾き飛ばす。

 その後ろに2騎の巨人が左右それぞれに盾と銃を構え進行方向の敵に向かい撃ちまくる。

 その後ろには3騎、左右にいる2騎が横から来る敵に対して威嚇をする。その間に挟まれているのが「タガメ」の巨人。彼はこの巨人砲弾の中に収められた爆薬だ。仲間たちは彼を最後の地点に運ぶための弾丸のシェルの役を買ってでたのだ。

 最後部に4騎。この巨人砲弾を加速させる推進機の役割を果たしている。この4騎のブースターによって巨人砲弾は荒野を疾走する。


 次々と敵の陣営をすり抜ける。あまりに巨大な物体が、あまりにも無防備に突進しているため数秒では理解できなかった。その一瞬の後には砲弾はすでに通り過ぎていた。敵陣に軍勢ではなく単騎で入り込むなど、このゲームでは自殺行為そのものなので、念頭になかったのだ。

 最後尾の機体に乗るプレイヤーからの報告。

 「さっきの奴らが信号弾を上げた!」

 敵機侵入の信号弾。ここから先の敵は彼らを待ち構えてる。


 再び激戦の戦場に突入した。

 しかも今度は周りの敵全てが彼らを狙って撃ってくる。彼らの反撃は微々たる物、比べ物にならない。しかし彼らの最大の攻撃は前に進むこと。圧倒的加速で次々と敵陣を通り過ぎていく。

 いかに彼らが速かろうと、今や味方の司令塔そのものに手をかけている敵兵の早さに勝てるのだろうか?いくら加速しようと間に合わないのではないか?そのような迷いも眼前の爆発が消し飛ばしてくれる。

 最前衛の巨人の盾が正面からくる砲弾を弾き、受け、耐える。そして前方に陣取る敵防衛陣を真っ二つに引き裂く。

 二段目の巨人は前方にいる敵に撃ちまくり、進行の妨げになりそうなものを全て排除する。

 中心にいる「タガメ」は何もしない。ただひたすらに最後の攻撃に備えて待つ。彼がこの軍隊の最後の爆弾なのだ。

 その巨人の塊を最後尾の4騎が押し続ける。ブースターを限界にし、1メートルでも深く、1秒でも早く最後の砲弾を飛ばし続ける。

 最後尾4騎のブースター燃料が同時に尽きる。砲弾の加速が極端に落ちる。

 「どうやらここが限界みたいだ、あとは任せた」

 後ろの4騎の巨人は巨大な腕で前方の砲弾部分を力強く押し、最後の一加速を与える。その反動で彼ら4騎は戦場の、敵陣の只中へと吸い込まれていく。

 「俺達の仕事は終わり。後は好きに遊ばせてもらうぜ」

 仕事を終えた仲間たちは最後の別れのあと、加速疲れした機体の武装を展開し、味方の追跡をしようとしていた敵兵達の前に立ちふさがる。

 打ち出されて短くなった砲弾はその最後部となった3騎のうち2騎がブースターを全開にし加速部分を担当する。

 再加速された砲弾が戦場を離れ、さらなる敵地深部へと目指す。

 「タガメ」は後ろを振り返る。今までゲームを長くやってきたが、こんなシュチュエーションは初めてだった。こんな戦い方、こんな気持ち。背後に遠くに消えていく味方たち。彼らの最後の戦いの光が、遠くに見えた次の瞬間には、消えていた。



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