第8話


 ザ・ウォー開始から1時間半が経過した。

 「タガメ」たちのグループも防御陣形のまま休憩を取っていた。ザ・ウォー自体、3時間もある。フルタイムで戦闘行為を行えるプレイヤーはいないでの、各グループは敵が引いたら休憩を取るのだ。戦闘音も遠くから散発的に響く程度で、戦場自体が牧歌的な雰囲気ですらある。

 全体のスコアを確認すると、両軍とも順調にコストが削れていて、正常に戦争が進行している事がわかる。どちらかの陣営で雪崩式に崩壊したというような事態も起こっていないようだ。コストの数字を見る限りポルノ軍有利か。プライムタイムの戦場の優位さは戦線の粘り強さに出る。それはこれからの戦いでより大きく現れるだろう。

 偵察用装備を持ったプレイヤーが機体の頭頂部から生えるポールを伸ばして周囲を監視する。通信機は戦争開始直後に双方によってばらまかれた電磁妨害霧によりまったく使えなくなっている。司令部からの命令も届かなくなり、プレイヤーたちは目で見える範囲で戦争をしなければならない。

 「D6地区戦闘中、派手にやってるな」

 望遠カメラで偵察しているプレイヤーが伝える。幾人かのプレイヤーはVRバイザーを外して休憩したりトイレに行っている。この時攻撃されれば完全な無人状態で殺られてしまうだろうが、防御態勢で固まっている巨人にプレイヤーが乗っているかどうかは外部からはわからない。

 「タガメ」もVRバイザーをつけたまま、手探りでドリンクのペットボトルを掴み、一口入れる。長年やってきたことなので手慣れたもので、こぼすようなヘマはしない。

 先ほどの戦闘で殺られていた僚機が、長い待機時間の末に復帰した。この再出撃も膨大なコストの消費だが、殺られないプレイヤーなどいないので恥じることではない。

 復帰したプレイヤーは挨拶もなくいきなりまくし立てた

 「やばいよ、復帰する前に司令室寄ってきたけど、司令塔が包囲攻撃されてた!」

 突然の情報に驚愕するプレイヤーたち。すぐさまコールを入れて席を外している連中を呼び戻す。

 彼の話によると、ザ・ウォー前の陣地取りで奪われた元味方陣地に伏兵が仕込まれていたそうだ。そいつらは健気にも1時間もの間、地下に潜伏し、味方の前線が上がることによって殆ど空になった瞬間を狙って一気に司令塔に押し寄せたそうだ。周囲にいた僅かな守備隊は壊滅し、現在は司令塔の防衛兵器のみで抵抗しているという。

 敵はこの戦争の不利を承知した上で大胆な策を取っていたのだ。地の利、時の利を過信していた我々の失態だ。

 いかに敵のコストを奪おうと、敵兵に塔の上にあるフラッグに触られたら自軍は敗北する。敵陣に深く切り込んでいる状況であるため、司令塔に戻って救援をするのも間に合わない。

 自軍の敗北必死な状況を知り、急速に冷えるプレイヤーたちの熱意。先ほどまで血液をたぎらせる戦闘をしていたため、冷める熱は大きくショックも大きい。

 「そこで司令からタガメへの命令だ」

 突然の言葉に驚く「タガメ」続く言葉は更に驚かせた。

 「司令塔の救援は必要なし、諸君らの戦力を束ねて敵司令塔を撃て。これは唯一の勝算である。エースパイロットとしての本分を果たされよ」

 敗北直前ゆえの突撃命令。窮地を逆転せよとの命令だ。

 この命令はたまたま復帰スタンバイ状態であった味方が司令室に寄ったので受諾できたものだ。他の部隊にはこの状態を知らせる手段はない。

 「僕らだけで、やるのか?」

 疑問形で発した「タガメ」の声を疑問形と捉えず、次々と立ち上がる僚機の巨人たち。

 その姿に心動かされ「タガメ」の巨人も立ち上がる。

 勝利をつかむための戦闘。それこそが彼らの一番望むものである。

 そしてそのための猶予は、ほとんどなかった。



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