第6話
ザ・ウォー開始時間。
サイレンもなく静かに戦争は開始された。
地下壕にこもる巨大な人形戦闘兵器達。彼らはまだ動けない。
開始数十秒後、地下壕が突然震えた。
百本の雷がまとめて落ちてきたかのような轟音。ここに、そこに、遥かに離れた場所に。幾度も幾度も大破裂音と衝撃波が地面を通じて彼らに伝わる。
開始直後、敵味方が持つあらゆる大砲が火を吹く。互いに敵の最前線にありったけの弾をぶち込み敵の兵力を削るのがこの戦いの手順となっている。
「タガメ」たちが潜む地下壕はその最初手で壊滅しないための簡易要塞なのだ。
その要塞が揺れ続けている。世界の終わりもかくやとばかりにイカヅチのような破壊音鳴り続ける。ヘッドフォンがら聞こえるサラウンドの地獄音。しかし音量を下げる気にはならない。
「フヒっ」
思わず声が出る。それが仲間の耳に届き伝播する。
「フヒヒ」「フハ」「フクク」
その声はつながり笑い声になる。地獄の底に閉じ込められた鬼たちの笑い声が止まらない。
やがて破壊音は散発的になり、ついに聞こえなくなった。
笑い声は止まり、全員が上を向いている。自分たちを閉じ込めている地下壕の天盤を見つめる。それがゆっくりと開き出した。
地上に昇る。雲が多いがにぶい青空も見えた。空に幾筋もの煙が立ち上っている。地面は破壊され尽くされ、運の悪かった者たちの残骸がポツポツと見えた。そこから怨念のような煙が昇る。
地面からモコモコと自軍兵士達が出てくる。春を待っていた植物のように。それは敵軍も同じだ。敵陣の前線地域で塹壕から這い出た戦闘車両たちが布陣しているのを、巨人たちのカメラは捉えていた。
「オー」「オー」「オー」
敵兵士たちが声を発する。その声は徐々にまとまり、やがてひとつの叫び声に集約される。
戦場に響く人間の声。敵兵を憎み威圧し、破壊するぞという宣言の雄叫びが上がる。その言葉が外国語であり、意味はわからないがおそらく差別的な言葉であろう。器械による言語翻訳は可能だが、必要ないので切ってある。
「うー」「あー」「おおぉー」
自軍の兵士も徐々に声を上げ、それはすぐに雄叫びに変わった。ぶっ飛ばす、破壊する、俺達の勝ちだ。全員が叫ぶ。
破壊つくされた荒野、戦闘兵器のみが存在する荒野に、機械たちの雄叫びが飛び交う。叫びと叫びが激突する。マイクに叫んだ言葉が戦場に伝わり響く。
マイクに向かって叫ぶということは、部屋中に、部屋外にその言葉が響くということだ。
かまうもんか。
いつだってゲームしながら奇声を上げてるんだ。
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