第3話

 目覚めてすぐ時計を確認する。時間はすでに昼近く。先日の戦闘の疲れが睡眠時間の長さとして現れてしまった。

 起きて急ぎの身支度と朝食。

 昨日のエースパイロットは、今日は一介の労働者なのだ。

 バイトへの道を急ぐ。上空をドイツの戦闘機メッサーシュミットが通過する。

 家の生け垣を乗り越えてティーガー戦車が現れる。車道を通るのはドイツのサイドカー。目線でそれを追いながら射撃可能かどうか検討する。

 ゲームに熱中した後はいつもこうだ。現実にゲームの世界がオーバーラップして見える。敵キャラたちは幻と消え、日常の世界が当然顔をして戻ってくる。

 「とにかく、今日一日をローコストで過ごさないと…」


 バイトをしている最中、心は空である。

 とにかく最善最速、最良の仕事こそがローコストへの道である。

 今日の彼にとっては今夜10時からの「ザ・ウォー」のエースパイロットとしての仕事こそが本当の仕事なのだ。

 この昼間の現実のバイト仕事はそれを行うための補給線構築のためのものでしかない。

 つまらない仕事でつまらないミスをして、つまらない仕事を増やさない。

 通常よりも気を張って、同僚の動きにも気を配り真剣に行えばバイト仕事など、戦場の狂乱の中で戦うことに比べれば、なんと楽なことか。

 そう思っていても邪念は出てくる。壁の隅に、ドアの向こうに幻の敵の姿を見てしまう。指が迎撃のコマンド入力を先走る。

 戦場の興奮がまだ体のそこかしこに残り、くすぶっている。戦場帰りの男が普通の暮らしに適応できないように、神経の高ぶりが未だ収まらないバイト青年「タガメ」であった。

 自分の手を握り、

 「落ち着け…ここは戦場じゃない」

と、つぶやいたところを同僚に見られる。一瞬固まった両者であったが、お互いに何も見ていないかのように別れて仕事に戻る。

 バイト仲間同士の冷淡な付き合いもまた、優しさの一種であるのかもしれない。


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