第2話


 戦死を確認した瞬間、戦果を確認することもせずにすぐさまVRバイザーを外す。

 慌てていたため、手にはめたままのコントローラーをガシガシとバイザーにぶつけるが、構わず引き剥がす。2時間ぶりに外気に触れる顔面。集中のツケが頭痛と眼痛となって襲ってくる。涙をこらえながら両手首に装備したコントローラーを取り外す。肘まで使って固定しているコントローラーを外すのはボクサーがグローブを外すくらい難しい。

 すべてを外し、机においてあったペットボトルのミネラルウォーターを飲む。ようやく落ちつき椅子にもたれかかる、大きく息を吐く。吐いた息はさっきまでいた戦場の空気だ。

 タブレットを取り出し戦果を確認する。VRバイザーを付けて立体空間で確認しようとは思わない。

 プレイヤー「タガメ」 

 戦果135(戦車92・砲台12・歩兵20・戦闘機8・爆撃機2・飛行船1)

 戦死回数8回

 激戦であった。そして自分の戦死回数の少なさに驚く。胸の奥から満足感が湧き上がってくる。自分の事がすげーと思えた。

 戦果報告に並ぶ幾つものメダル。今回の戦場での活躍が特別なものである証拠だ。

 メッセージ欄に新規のメッセージがあった。自軍の最高司令官「ポルノくん」からだ。(このハンドルネームには多くの苦情が寄せられている。その多くは戦意が上がらない、というものだ)

 「キミの活躍のおかげでC4地区を奪取できた。ありがとうエース!」

 認められた。「エース」という称号。今までの人生で最上級のランクを与えられたのは初めてのことだった。椅子が軋むくらいにのけぞりタブレットを天にかかげる。

 メッセージには短い続きがある。

 「明日も頼むぜ」

 明日…明日の夜10時から始まる「ザ・ウォー」はこのゲームの巨大なイベントである。

 そしてそれはこのゲームのタイトルでもある。


 「世界規模のマップで世界規模のプレイヤーによる戦争空間」という夢と、

 「古今東西過去未来、全ての兵器が一堂に会して戦う」という夢、

 この2つが結びついて生まれたのがオープンフィールド戦争オンラインゲーム「ザ・ウォー」だ。

 この古今東西過去未来の兵器、というのが多くのファンを生むことになった。第一次大戦の戦車、航空機はもちろん、小火器や毒ガスまで、第二次大戦の兵器は言うに及ばず、現代兵器の数々、はては禁断の最終兵器核やドローン、無人兵器。そしてさらには巨大ロボット軍団まで。あらゆる兵器が同じフィールドで戦争をするのである。

 これに食いついた世界中の男子は、それぞれが(兵器の)趣味の合う者同士で結びつき軍団を作り、領土争いの「戦争」を繰りかえすこととなる。

 当然日本を含むアジア圏は、いくつものロボット軍団が生まれたのだが、ロボット兵器の火力は特別であっても扱いづらさも特別であったため、どんどんとプレイヤーは脱落して多くは現用兵器、主に米軍機による軍団へと再編吸収されていった。

 その結果、残ったロボット軍団の中で最大手となったのが大将ポルノくんが率いる「ポルノちから研究所」である(この軍団名に対する文句もまた数多く寄せられている)

 「明日・・・」

 今日の戦果を胸に抱いたまま、本日のエースパイロットはベッドに横になった瞬間に眠りに落ちてしまった。

 精神疲労の極に達していたのだ。


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