城壁の門
街をぐるりと囲む壁の出入り口となる門には、人や荷物の出入りが
門を通過するために、多くの人が長い列を作っていた。旅の疲れがあっても、どこか浮ついたようすでいる。思案顔で話をはじめても、自然と頬がゆるむ。世間話をしたり、議論になったり、じっと沈黙していたり、となり近所を相手に物売りを始めたり。暇をもてあました曲芸師たちは、地面を蹴り
「バカやろう、どんどん割り込まれているじゃないか!」
近くで怒鳴り声が響いた。周辺の人々は一瞬、そちらに目をやったが、たいしたことないと判断したのか、すぐにもっと面白そうな見世物に意識を向ける。小柄のいかつい男が、小さい老婆と、ずっと背の高さがあるがやせ細った男を、顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
「
哀れな老婆は一瞬腰が引けたが、すぐさま猛然とまくしたてて反撃した。声はしゃがれ
入場の順番がきても、要領がよくない彼らは、またいくつもの集団に抜かされた。
「ない、ないぞ! どこにいったんだ!」
荷物をどんどん広げる小男が、いよいよ悲鳴を上げ始めた。
「お前が、隠したんだろう!」
「お前が、隠したのか!」
背の高い男と、調子の悪い言い合いをはじめる。ミズヲはさすがに飽きてきて、彼らの荷物のはしに挟まっているものをさして、声をはった。
「お前の荷物のそこに挟んである、それは違うのか」
「それは違うのか?」
「それが違うのかって?」
小男は荷物をふりあげ、むしりとった。
「あった、あったぞ!」
そこから役人に通行証をみせる。通り過ぎても、また用心深くしまいこみはじめる。一行が過ぎるまでひとしきりの騒ぎで、役人はうんざりしている。ミズヲの手元を少しみただけで、
「いってよし」
と、先へ進めと手をはらう。ミズヲは通行証を静かにしまうと、大きく太い門の影をくぐった。ひんやりした日陰の空気を通り抜けると、自然に街を仰ぎ見た。
先の一行が立ち尽くしていた。
熱気にのまれながらも、貧しく餓えた顔は、みるみる生気を得ていく。ここを訪れる多くの人間と同じように、胸は高鳴り、瞳を輝かせ、頬を紅潮させる。朗らかに声を上げる。眼を閉じたままの女も気配をかんじて、はにかんだ笑みを浮かべている。人の声、足音、がたかたと鳴り騒ぐ台車、荷馬車。甲高い怒鳴り声や、罵倒する声、桶から流れ落ちる水の音、はぜる音。けたたましい声、しゃがれた怒鳴り声、からからと回る車輪、ぶつかりあう木箱、ざあっとなだれ落ちたり、かんかんと続く音。小男が盲目の女に声をかけ、縄の先端を投げた。彼女はこたえながら、片手首に縄を結わえつけ、荷物を肩にかける。ミズヲは一団が群集の中にまぎれていくのを見届けると、自分の道を探した。
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