平和

戸賀瀬羊

第1話

ある国のある城に清廉潔白な王子がいました。清く正しくまっすぐな王子の周りはしかし、真っ黒でした。


嘘にまみれ、不正は当たり前、騙し騙される環境で、王子の味方は一人もいませんでした。


いつもにこにこと正直な王子は騙され続けていましたが、それでもその国を諦めず、内側から変えようと思っていました。そしてまずは、と王様の決めた許嫁ではなく自分で選ぼうと、花嫁を探しに出かけました。


他の国の王族を全部見てまわって、王子は気が付きました。王族は自分たちのことしか考えていないと。だから王族以外と結婚するべきだ、と。


そして今度は国中の一般市民の所をまわり、運命の人を探します。


ところがこれも失敗でした。

身分を言わずに近づくと相手にされなかった人も、王子と知るや掌を返したように優しい笑顔を自分に向けます。


王子は思いました。身分が駄目なんだと。


そして王子は民衆に訴えました。誰だって平等にあるべきだと。身分は、なくさなければならないと。


その言葉に民衆は、一致団結したかに見えました。王子と民衆は一緒になって、王族と戦いました。


しかし、王様を城から引きずり下ろし、城を壊す段階になって、王子は裏切られました。


「素直すぎる王子はいつだって殺せる。ここで王ともども殺してしまえば、この国は自分の物だ」民衆はそう思っていたのです。


王子は命からがら逃げて、国には新しい王が……とはなりませんでした。

民衆だけでなく王族も、みんながみんなを殺し合い、最後には誰も残らなかったからです。


いえ、そういえば、ただ1人残っている者がいました。


かつて王子だった彼は落ち着いた頃国に戻り、やっと訪れた血まみれの平和を見て、それでも変わらずにこにこと過ごし、一生を終えましたとさ。


めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平和 戸賀瀬羊 @togase

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ