第133話 台本の話(2)
132話から続きます。
テレビドラマなどの映像はワンカットが然程長くありません。しかもそのカットが時系列で並んでるんじゃなくて、そのスタジオ・そのセットで撮れるシーンをまとめて撮っちゃいます。
だからねー、ホントねー、演じてる方は順番メチャクチャですね、はい。大体の流れを頭に入れておいて「今はこことここのシーンね」みたいな撮り方します。
この場合は『自分の役』をきっちり生きていないと整合性が取れなくなります。ヤバいです(笑)←笑い事じゃねーよ。
ただし、映像だとカメラワークなどに頼ることもできますね。小さな表情の変化で視聴者に伝えることができます。これが舞台だと少々大きく動かないと伝わらなかったりします。
舞台の場合はカメラワークとか特殊効果が一切使えないので、体だけの勝負になります。
とはいえ、100%台本通りの順番ですからわかりやすいですね。
***
これは以前私が舞台やってた頃の話です。
高校生たちのお話で、私は優等生役でした。成績優秀、常にトップで医学部志望、しかもみんなの人気者です。
このクラスには一匹狼系ギャルがいます。金髪で、ピアスもして、制服もガッツリとカスタマイズして、いつも一人で机の上に足を投げ出してファッション誌を読んでます。
さてそんな折、友人の一人に癌が見つかります。その子はみんなに心配をかけないように明るく報告するわけですが、私は優秀なのですぐにヤバい状況だと察してしまいます。
ところが癌と聞いたアホの子がわぁわぁ泣き出してしまいます。
その時、ギャルがいきなり「うるせえんだよ!」ってキレます。
問題はこの「うるせえんだよ!」なんです。
このギャル役の人、普段は全く怒りません。怒ってるのを見たことがないです。穏やかを絵に描いたような人です。
この人が机の上に投げ出していた足を下ろして、ファッション誌を机に叩きつけて「うるせえんだよ!」ってブチギレる。
でも、全然ブチギレてないんです。
可哀想に彼女はこのセリフに悪戦苦闘しました。普段怒らないんだもん。どうやってキレていいのかわからない。
ダウンタウンの浜ちゃんの口調を真似してみても「口開けて喋れ」と演出家に叱られる。デカい声出しても、ただ声がデカいだけでキレてない。
困り果てた彼女は「どうやって怒ったらいいのかわからない」と私のところに泣きついて来ました。
私は訊きました。
「てかさ、この人なんで怒ってんの?」
彼女はアホの子がぴーぴー泣いててうるさいから「やかましい黙れ、あたしは今ジャニーズの特集読んでんのよ!」って事で怒ってたんですね。でも彼女自身はそんなしょーもないことでいちいち怒らないんです。だからわかるわけがない。
だけど掘り下げてみると別の流れが浮かんで来るんです。
ギャルは本当はみんなと仲良くしたかった。みんなの輪に入れて欲しかった。だけど照れくさくてなかなか声がかけられなかった。そのままクラスで浮いてしまって孤立しちゃった。
だから『仕方なく』一人でファッション誌を読んでいた。
でも、実はみんなのことが気になって気になって仕方ない。直前にみんなでどっか遊びに行こうなんて言ってた。羨ましい。
そこに一人が癌の手術をすると言い出した。
マジか! 大丈夫なの? それ死なないの? 手術で治るの?
あたしめちゃめちゃ心配! 心配過ぎて死にそう!
てかちょっと待てや! 本人が気丈に振舞ってんのにそこのアホの子、ぴーぴー泣いてんじゃねえよ、一番泣きたいのは本人じゃねえかバカ野郎!
うるせえんだよ!💢
「……って事なんじゃないの?」って彼女に言ってみたわけです。
まあびっくりさ。翌日の稽古から、彼女の「うるせえんだよ!」の迫力がパナイ! 怖い、マジ怖い、近寄れねえ!
彼女は恐らく、その日の晩に何度もロールプレイしたんでしょうね。
いつもは完全シカトでファッション誌を読んでたんですが、翌日の稽古からは雑誌を眺めながらもチラチラとこちらを意識してるんです。「癌が見つかった」という台詞を聞いてパッと雑誌から顔を上げてるんです。思いっきり心配そうな顔して。
その人を掘り下げて、その性格付けとか行動パターンとか周囲の環境を設定するだけで、いきなりキャラが「生きる」んです。
***
小説を書くのも同じようなものではないかなと感じます。
ちゃんとその登場人物の過去なり環境なり、その人を形成するパーツを揃えて整合性を見る。実際に演じてみて、言えない台詞やできない行動がないかチェックする。
これだけでガツンとキャラが生きてくるんじゃないかな~と思います。
……今回は身バレしそうな発言をしてしまったようだな。
※個人情報に関する質問は受け付けませんよ。口割りませんからね!
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