第132話 台本の話(1)
突然のカミングアウトですけども、如月その昔、役者やってました。舞台も映像もどちらも経験者です。
22話で音読の必要性、109・110話でロールプレイの必要性を書きましたが、これ、ここにつながって来るのです。
例えばなんですが、自分が女子中学生の役だとしましょう。14歳JCです。同級生の男子に向かって「あんたバカなの?」というシーン。
まあ、これだとフツーに「あんたバカなの?」ですが、前後にいろいろあるわけですね。ト書きもあるし、そこまでの流れもある、その後の流れもある。
自分の役をヨシミとしましょう。相手の男子はタロウです。
①朝、学校の下駄箱でタロウがヨシミに声をかける
タロウ:昨日ラムネの瓶に指突っ込んだら抜けなくなってさ。
ヨシミ:あんたバカなの?
②ハナコがタロウのことが好きだと誰の目にもわかる状況で
ハナコ:タロウって好きな女子とかいるの?
タロウ:ああ、うん。ヨシミ。
ヨシミ:あんたバカなの?
③ヨシミがタロウに徹夜で作った本命チョコを渡す
ヨシミ:言っとくけどそれ義理だからね、義理!
タロウ:俺、本命として受け取るから
ヨシミ:あんたバカなの?
もうこれ、「あんたバカなの?」の言い方がぜーんぜん違うじゃないですか。こういうのをト書きやら流れから読み取って演技していくわけです。
それでまあ、上の例なんかはとっても簡単に書いたんでサクッとわかると思うんですが、難しい台本になるとこんな付け焼刃ではどうにもならなくなります。
例えば拙作『よんよんまる』の響くん。
読んでいない方のために補足しますと、彼は小1で母と一緒に父のDVから逃げています。でもその父も彼が小学校に上がるまではとても優しかったのです。のっぴきならない事情があり、父は変わってしまいました。
現在の父は響の敵であり、自分の仕事を邪魔する悪役なわけです。
だけど響の中には、まだ自分が幼かった頃の優しい父の思い出が残っている。ぐうの音も出ないほどコテンパンにやっつけたい気持ちもあるのに、あの頃の優しい父を未だに愛している気持ちもある。躊躇している間にボコボコにされるわけです。
そして今は自分一人では決められない、相棒がいる、守らなければならない母もいる。
そういう状況の中で苦しみもがきながら一つずつ選択していく役どころです。
こんな複雑な位置づけのキャラが「生きて動く」ためには、「自分で音読して、自分で実際に動く」というプロセスが不可欠になります。
なぜか。
頭で考えた言葉というのは、実際には言えなかったりするからです。
この響の気持ちになってその台詞を一つずつ丁寧に声に出して読む、演技する。そうすると思いがけないところで優しい父の思い出がフッと画像として出てきたりして言葉に詰まったりする。何度読んでも同じところで声が詰まったら、それは「言えない台詞」ということになるんです。
その「言えない台詞」はどうしても台詞にはできないので書きません。読者に想像して貰います。これがいわゆる「行間」というやつなんだろうなと思います。
実際、役者は自分がセリフをしゃべっていない時の方が雄弁に語っていたりします。表情だったり体の小さな動きだったり、そんなものが僅かに変化するだけで、心情を大いに語ることがあります。
だから説明台詞が無くても行けちゃったりするのです。
逆にこれを小説に生かせることもあります。説明台詞を書かずに、地の文で体の動きや表情を表現してしまう。
それをするためには、そのキャラを生きて、そのキャラとして動いてみる。
まぁ、それやってて……ボッチの部屋で「いや、アカンて」とか「よう行ったんや」とかブツブツ言いながら頭抱えたり首振ったり急に顔上げたりと、怪しげな動きをすることになるので、ご家族がいらっしゃる方は時間帯を考えた方がいいかもしれませんが。
というわけで、次回は実際のエピソードをご紹介したいと思います。
つづく。
……またシロートが「つづく」って言ってみたかったんだな。
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