第124話 訳すな!
つい最近なんですが、「おすすめの絵本を紹介して欲しい」と言われていくつか紹介したんですよ。絵本ヲタクなのでね。私の家には日本語は当然の事、英語、フランス語、イタリア語の絵本もあります。
その中に『どんなにきみがすきだかあててごらん』(英題:Guess How Much I Love You)がありました。ひたすらに「I Love You」を二匹のうさぎが競うのです。
これに関しては「絶対に英語で読むべし」と念を押しました。そりゃあもう、しつこいくらいに。
日本語じゃダメなんです。伝わらないんです。
だって、書いたの日本人じゃないんだもん。
その方、日本語で読んじゃいました。いいんですいいんです。日本語で読んでもいいんですよ、ぜんぜんおっけー!
でも、必ずその後で英語版読んでね?(念押し)
日本語版で満足されちゃったら、如月がその本を勧めた意味が無いんです。
私が勧めたのは英語版なんだから!
もはや別の本ですから!
そしてその方、「意訳じゃなくて直訳ということか」とさらに別の視点で切り込んで来たのです。
大きなうさぎも小さなうさぎも、相手の事を「you」と言う、英語だから当然そうなりますが、それを日本語訳では「きみ」と訳していたんですね。そこが引っ掛かっていて、「意訳だ直訳だ」とやっていたようなのです。
そういう問題じゃねえ、意訳でも直訳でもなく、「訳すな、英語のまま読め、『you』は『you』であって『きみ』じゃない」と言ってるんだ、頼む、理解してくれ!
***
如月がうるさく言うのはリズム感です。それはミステリーでもラブコメでも絵本でも同じです。リズム壊されたら台無しなんです。
特に、絵本と詩はリズムが命取りになります。
だから元の言語で読まなきゃダメなの。
だから如月の家には訳してない絵本がたくさんあるの。
***
谷川俊太郎さんっているでしょ。『ののはな』ってあるじゃないですか。
はなののののはな
はなのななあに
なずななのはな
なもないのばな
すっごくいいですよね。とてもいい。とてもいいから誰かに教えたい。
そうだ、アメリカから来た留学生に教えよう。
英語に訳したらどうなりますか? ぜーんぜんよくない。スペイン語でもフランス語でもドイツ語でも、まるっきり面白くない。
これは『日本語だから』面白いんです。
詩や絵本って、一行が短いんですよね。そこにギュッと詰まってる。テンポやリズムをとても大切にして作られてる。
もちろん、最初のとっかかりとして日本語で読むのはいいんです。意味がわかんないと仕方ないからね。
その後で必ず元の言語で読んで欲しい。リズムを感じながら読んで欲しい。
***
『Guess How Much I Love You』ですが、二匹がひたすら「いかに自分が相手の事を好きなのか」を競うように伝え合うんです。競っているから、リズムが楽しい。
日本語に訳した時点で「ストーリーを楽しむ絵本」になっちゃってる。本来はストーリーと、リズムと、衝撃の展開を楽しむ絵本だったんです。それは日本語と順番の違う英文法だからこそ実現できることだったのです。
彼らが親子だろうが兄弟だろうが友達だろうが、そんなもんはどうだっていいんです。デカうさぎとチビうさぎがお互いに「大好き」を競うように伝え合う、それをテンポよく歌うように楽しめれば、最後はチビうさぎのように気持ちよく眠れるのです。
だから、「元の言語で読んでくれ」と如月は言い続けるのです!
……またシロートが絵本マニアならではの偏愛発言をしてしまったようだな!
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