第63話 それ、伝わらない
色々読んでいて偶に「何言ってんのかさっぱりわからん」作品に遭遇します。
理由はいろいろです。作者が自分だけわかってて、読者にきちんと説明していない『説明不足』のもの。元々がマニアックな領域で、メタ要素の多いもの。必死に伝えようとしているんだけど、文章力に難アリでなかなか伝わってこないもの。
メタ要素の多いものは最初から仲間内で盛り上がりたいだけで万人受けは望んでいないだろうと思われるので割愛するとして、それ以外はなぜそうなっちゃうのか。
簡単なんですね。読者目線に立って無いんだなと。
***
とある人にこんなことを言われました。
「すごくいい曲を見つけたんだよ」
終わり。
そこから話は続きません。大した話じゃないのかな。でもなんだか話したそうにしています。私にその話を聞かせたいなら、私が興味を持つような話し方をすればいいのに。
まあ、仕方ないんで、全くこれっぽっちも興味がないまま質問します。
「どんなの?」
「なんかね、カッコいいんだよ」
終わり。
お前、話す気あんのかよ。でもすっごく話したそう。こっちをキラキラした目で見ながら口をパクパクさせている。じゃあ話せよ。でも話さない。なんなんだ。
「だからどんな感じの曲?」
「うーん、教会音楽みたいな」
教会音楽ってなんだよ、おい。いろいろあるだろ。
「グレゴリオ聖歌みたいなやつ? それともバッハのオルガンみたいなやつ? モーツァルトやフォーレのレクイエムみたいなやつ? 教会でみんなで歌うミサ曲みたいなやつ? オラトリオとか?」
我々はお互い違う用途の曲を探すために、向かい合ったPCに座ってヘッドフォンをして、それぞれがサーチしているのです。彼の探しているものと私の探しているものは用途が違うので、全く重なる部分はないのです。
つまり、私はそのお喋りに全く興味はないのです。
そうじゃなくて、私は今ピアノ曲を調べているんだ、その話がしたいならサクッと話をまとめてから持って来い、なわけです。
でも、彼はどうしてもその曲を私に紹介したいわけだ。「こんなにカッコいい曲を見つけたんだぜ、ほら、カッコいいよな? 好みだろ?」と言いたいんだ。
じゃあ、とっとと言えよ。
だがいつまでも要領を得ない。こちらが一つずつ聞いてあげないと、こちらにわかるように話してくれない。
これをモノカキの世界に置き換えると冒頭の例のようになるのです。
でも読者は「それで?」「どうなるの?」「これは何?」と作者に訊くことはできない。だから作者だけが勝手に書いて満足し、読者は「???」となってしまうわけです。
上記の彼の話に戻すと、その後ゲーム(RPG)の教会でセーブする時に使われるような奴なのかと思ったわけですが……どうも話を聞いているとカルミナ・ブラーナに近いようなことを言い出して。いやいやいや、それ、如月大好物だし! 早よ言えや!
私が大好物な感じだったから紹介したかったんだな、と思った私は「聴きたい」と言ったわけで、やっとここで彼の第一段階は達成したわけです。
これはモノカキの世界に置き換えると、読者に「読みたい」と思わせた、つまり最初の関門クリアです。そこですぐに読者が「おおっ」と期待するような展開を持って来ることができればしめたものです。
そこで彼のとった行動は驚くべきものでした。席を立って私の方に回って来てこう言ったのです。
「○○というキーワードで検索かけて」
…………。
アホかお前は。
URL持って来い。
そうでなければお前のPCでそこにアクセスして準備してから呼べ。
読者がやっと読む気になったところで、訳の分からんことを言って「察してくれる? わかんなかったら検索かけてね」って言ってんのと同じです。誰も読まねーよ。
「カルミナ・ブラーナを彷彿とさせる、如月の如何にも好きそうなカッコいい曲見つけたんだけど、聴かね? ここに出てるからすぐ聴けるよ」
って言われたら瞬殺で食いついていたでしょう。
読者の事を考えた文章って、そういう事なんじゃないかな~と思う如月なのでした。
……またシロートらしい発言をしてしまったようだな。
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