第5話 経験者はかく語りき

ずたぼろメンタルのまま、アルバイトから帰宅すると、お母さんが迎えてくれた。

お母さんにはすべて伝えていた。

だからこそ、

「おかえり」

という何気ない一言と、笑顔が、暖かかった。


夕飯は大好きなハンバーグ。

いつもなら、あっという間に食べてしまうけれど、3口ほどで手が止まった。

どうしても、喉を通らなかった。


申し訳ない気持ちでお母さんの顔を伺った。

「残していいよ。あとでデザート食べようね。」

そんなお母さんの気遣いが心にしみた。


私の残したハンバーグを

「それ食べていい?」

と言って遠慮なしに食べてくれたお父さんも、きっと全部お母さんから聞いていたんだろうな。


その後はベッドに倒れ込んで、好きな動画を見ていた。

声が好きな人の動画を流していたけれど、内容は頭に入ってこない。


ずっと声だけを聞き続けた。


彼の声を思い出す。名前をもう一度呼んで欲しかった、なんてすごいポエムチックで、恥ずかしい。

でも本当にそう思ってしまう。また戻れたらどんなにいいだろう。

何も整理がつかないまま終わってしまったものを、諦めるのがこんなにも辛いなんて、思ってもいなかった。

つい最近まで、「大好きだよ」って言ってくれていたのに。きっとその時もちょっと無理をしていたのかな。



悶々と考えて、どんどん沈み込む私の元にお母さんが来た。

「甘いもの食べる?」

正直そんな気分じゃなかった。

「あとでにする?」

私は声も出せず、涙目でお母さんを見た。


隣に来て、頭を撫でながら、

「大丈夫だよ。絶対大丈夫だから。私とお父さんの子どもなんだから。絶対幸せになれるから。私が保証するよ。

今は胸が痛いよね。でもそれでいいんだよ。その痛みを忘れないで。そしたらまた同じように苦しんでる人に優しく出来るからね。」


どんどん涙が出てきた。声も出して泣いた。

まるで小さい頃に戻ったみたいに、泣きじゃくった。


背中を優しくさする手は、大きくて、力強かった。


「お母さんもね、失恋したよ。2回。しかも同じ人に。すごく辛かったよ。これで明もお母さんと一緒だね。一年半ぐらいしたら癒えてくるから。

それまでは『ずっと好きでい続けてやる!』って思っててごらん?神様に立ち向かうぐらいの気持ちで。そのうちに気持ちは薄らいでいくから。人間の気持ちは変わっていくもんだよ。

明はそのままでいいんだよ。だから辛くても毎日を一生懸命に生きなさい。」


お母さんは泣きながら伝えてくれた。

たくさんのエールを送ってくれた。


きっとこれからも、お母さんに、家族に頼ってしまうんだろう。

でもいつか、私もちゃんと大人になって、大人な女性になって、子どもを励ませるように、生きていこう。


お母さんみたいに力強く、子どもを応援するための、経験値だったんだって。そう思うと、失恋はダメなことなんかじゃない。成長のための、一歩なんだ。

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