12:壮士和解
「ほう……マレシャル・ドゥ・フランス。では貴君 は、フランスそのものを滅するつもりは無いと?」
ジルの眼前で頷くベルトラン・デュ・ゲクランは、大の大人数人分の
「如何にも。先ずオーグル公にご承知おき頂きたいのは、我が覇道にとって、ジャンヌの復讐は
かくて主君たる体面を保とうと、懸命に振る舞うジル。フランによって
「つまり貴君、マレシャル・ドゥ・フランスの最たる指標は、先に死したるジャンヌ・ダルクの復活。引いては慎ましやかに幕を下ろす、かかる淑女の幸福なる未来という事で宜しいかな?」
いかに不死と言えど、剣撃で穿たれた眼球はそう治らない。鉄仮面を脱いで破顔するゲクランの外貌は、なるほど生前の噂に違わず、
「その通りだオーグル公。仮にフランス全土が焦土と化せば、蘇ったとてジャンヌの生きる
自らの方針を理路整然と述べるジル。その蒼眼には一切の迷い無く、ゆえに無二の騎士ゲクランも、これに呼応せざるを得ないと頷く。
「なるほど。ジャンヌ・ラ・ピュセルの
ニヤリと笑みを零すゲクランは、ジルの二倍はあろう右手を差し出し、握手の姿勢を取る。これに戸惑いつつも応えるジルとの間に、さしあたっての両者の禍根は、一切が取り払われたかのようにも見えた。――最も、
「――あら、お二人とも仲がよろしいのですね? マーシャ」
すると丁度そのタイミングで現れたフランが、固い握手を交わす二人を交互に見やり、呆れたとばかりに肩をすくめる。
「フランか。先刻はありがとう。助かった」
言うや握手を解き歩を進め、フランを
「な、何をいきなり……ま、まあボクが助けてあげなかったら、今頃ジルはミンチの細切れでぐじゃぐじゃになってましたからね! 感謝されるには
* *
「ゴクゴク……うまい。傷ついた身体に染み入るようだ。鼻孔をくぐり抜ける鉄の香りが、こんなにも芳しいものだったとは」
しかして。フランが遠い世界に意識を追いやっている間に、ジルは彼女の持ってきたボトルを一瞬で飲み干していた。ここでやっと現実に引き戻されたフランは、
「ちょっとマーシャ! 幾ら何でも一気に飲み過ぎです! ――ていうかボクが持ってきたんですから、断りぐらい入れて下さい!」
平素の冷徹さは何処へやら、わーきゃーと騒ぐフランを、ゲクランは顎をさすりながら微笑ましく見守り、そして腹を決めたように口を開く。
「いやあ、我が
かくて恭しく
「と、当然です! ベルトラン・デュ・ゲクラン! 貴方を呼んだのはボクなのですから!
これ以上無いくらいにプリプリしたフランは、
「いいですか! ボクは精を吸う事にかけては右に出る者は居ないクイーンオブサキュバス……もといプリンセスです!
えへんと締めるフランを上目に、笑いを堪えきれないゲクラン。納得が行かないのか同意者を求めるべく振り返ったフランを、今度はジルの両腕が抱きしめた。
「ああそうだフラン。お前は誰よりも大切なビジネスパートナーだ。今日も頼む。そして愛している。ありがとう」
毛布を掛けてもらっただけでも嬉しかったのに、一体今日のジルはどうしてしまったんだろうとフランは思いを巡らせ、まあたまにはこんなのもいいかと考えるのを止め、暫し温かいジルの双腕に全てを預けた。
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