07:英雄再臨
眼前で美味しそうに食事を頬張るジルを眼前に、フランは言い知れぬ歓びを感じていた。――うっとりするほど長い睫毛に、彫像のように整った顔立ち。それらは度重なる
なにせたった今ジルが口に運んだモノは、昨日狩ってきたばかりの少女の肉。ジャンヌに似たイモ臭いガキを、
そうして幾分か胸のすいたフランは、午後の日程に合わせ行動を開始する。ジルが一定の力を付けた時の為、彼と自身の食事を用立てる為、それからこれからの進軍に向け、フランは黒魔術、錬金術、死霊魔術の全てを傾け、手足となるべく配下の創生に微力を尽くしていた。
廊下をすれ違う召使たちは、誰もが畏れの視線をフランに投げかけ、フランもまたそれを善しとして堂々と闊歩する。そんな光差す庭を過ぎたのなら後は漆黒の地下。慣れた据えたカビの臭いと、続く腐臭に思わず頬が緩むのを、フランは感じる。
「こんにちは、ブロセリアンド・オーグル。そしてボクとマーシャのお城へようこそ」
かくて階段から
「はっ、ベルトラン・デュ・ゲクラン――、ここに」
黒のプレートメイルに身を包む巨漢は、くぐもったような低い声でそう告げる。鉄仮面の奥からは鈍い眼光が射殺す様に覗いていて、並の騎士の数倍はあろう体躯に、軽々と掲げられた
「昨夜は良い働きでした。男女問わず屠る冷血と、生者を一瞬で肉塊に変える膂力、素晴らしい限りです」
昨晩、この化物の最終調整も兼ねての出撃は、フランに望外の戦果を齎した。サンプルとして消えたのはシャントセの領域に足を踏み入れた野盗の斥候だが、五人をフレイルの一振りで磨り潰す圧倒的な腕力は、今後十全に期待の持て得るものだった。こいつを前衛に据えてさえおけば、騎士団の一つや二つならば容易に殲滅せしめるだろう。なにせご丁寧にも、不死の上に分厚い鎧まで纏うと来ているのだから。
「お褒めに預かり光栄です。我が
――ベルトラン・デュ・ゲクラン。百年戦争の初期を駆け抜けたフランスの英雄は、イングランドはエドワード
「期待しています。ブロセリアンド・オーグル。貴方にボクのマーシャの加護のあらん事を」
そう微笑むフランは、ベルトランの
「はっ。有り難きお言葉。では我が
相も変わらず愚直な返事のベルトランを眼下に、満悦の笑みを零すフランは、かくて声高に告げるのだった。
「ではオーグル。主として最初の主命を発します。ボクのマーシャと剣を交えなさい。一切の手加減なく、命懸けで愛を込めて」
そう、この化物こそがジルの、フランの育て上げたジルの、最初の訓練相手だ。自らの産んだ二つの怪物を天秤にかけ、結末を想うフランの胸は、驚くほど熱く脈打っていた。
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