05:純然狂気
――フランソワ・プレラーティ。人外の
そもがそも。
しかして如何なる研究にも資金は付き物である。材料の調達から実験の為の人員。さらにはそれらを成す為の広大な施設。これらを一介の研究者が手に入れる事は到底できえず――、ゆえにここで、パトロンなるスポンサーが必要悪として浮かび上がってくる。
かくて標的となるのは、暇と財を持て余し、神々の遊びに興じようとする遍く権力者。不死に
最も市井に連なる錬金術師の殆どは、嘘と妄言をそれらしい理屈で塗り固め、ただただ金の無心の為に権力者に取り入るだけの存在に過ぎない。そして放蕩のすえ自分の首が危うくなると、主君を捨ててさっさと逃げ出す。――フランはかくなる
* *
だが予想に反し、シャントセの居城。眼前に立つ
「――ではどうするおつもりなのです? ジャンヌを蘇らせたとして、閣下は一体?」
この時、フランはまだジルをマーシャとは呼んでいなかったが、かかる疑問は当然とも言えた。
「幸せに生きて貰う。
ジルが淡々と語るジャンヌの物語には、術式の行使者である本人の姿がどこにもない。流石にあり得ないと身を乗り出すフランを、さも理解できないといった風にジルが見下ろす。
「考えても見たまえ。これだけ血に塗れた男の手を、借りたという事実を彼女は望むだろうか? ――いや百歩譲って、彼女に呪われるだけなら善しとしよう。だが、彼女が彼女の命を呪う事だけは、絶対にあってはならない」
喝采に足る狂気だと、この時フランは感じた。そして感激した。このような思考を持ち得る、清らかな狂人が未だ在ったのだと。人を救うという狂気。たった一人の人を愛し、その為に自らも、そして国家すらも投げ打つ狂気。そして救われた命の傍らに、自らを置こうとしない狂気。
余りに素敵な純愛だと
* *
――それが、それが今や。
助手どころか、
隣で寝息を立てるジルを横目に、言い知れぬ情欲に身を
ジャンヌという女が憎い。この男の
――まったく
――ああ、だけれど好き、好き、好き、愛してる、ボクのマーシャ。
そう内心で何度もつぶやき、
――この人を最強の化物にしたい。聖女を蘇らせたあと、ボク以外に寄り添う者の無い身体にしたい。一生涯、ボク以外の女と、まぐわえ無い獣に仕立て上げたい。
ムクムクと湧き上がる欲望が、ジュクジュクと下半身を濡らし、とてもじゃないが堪えきれないと感じたフランは、ゆっくりと立ち上がると、夜の街へ歩を踏み出した。獲物を狩ろう。もっともっと餌を持ってこよう。神にすら抗う魔王を産もう。――そう灼眼に野望だけを湛えながら。
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