02:淫魔冷笑
フラン。――フランソワ・プレラーティ。黒い頭巾を被り、ケープをはためかせる少女の名を、ジルはその名前でしか知る事は無い。
このイタリアから流れ着いた
ジルはと言えば老翁こそがアルケミスト・フランソワだと思い込んでいたが、どうやら事実は逆らしい。あからさまな賢者といった
「お初にお目にかかります。ジル
フランソワ曰く、老翁はただの影武者。――すなわち、いざという時に切り捨てられる、体のいい
* *
「マーシャもご覧になりますか? 本日のボクの成果を」
かくてジルを先導し歩くフランは、今日も変わらず
「いや、結構だ。それよりジャンヌの状況を知りたい」
これもいつも通り、そっけなく返すジルに、フランは口元の精液を舐め取りながら、つまらなそうに口笛を吹く。さしあたってのジルの仕事が吸血なら、フランの仕事は精液の収集だった。
「ハァ……ちょっとはボクにも興味を持って欲しいですね、――マーシャ。まったく、他の男ならこの身体にぞっこん……な筈なのに」
片目を隠したショートカットの銀髪。そしてその奥から覗く灼眼。口調も相まって少女か少年かひと目には分かりかねる中性は、実のところジルの気に入る所でもある。しかしそれを意識する度に、記憶の底で聖女の面影が過るがゆえに、敢えて目を背けている次第だった。
「お前と男のまぐわう姿を見て、いったい何が楽しいのだ。――そら口を拭け。付いたままだぞ」
舐め取ったはいいものの、未だにこびり付いた白濁を拭うべく、ハンカチを差し出すジル。だがそのハンカチを受け取ったフランは、これみよがしに舌でそれを舐めて見せる。
「ごめんなさいマーシャ。付いていましたね……フフ、まだ。毛も残っていました」
指先で陰毛をつまみながら、破顔するフラン。こいつはこうして、一日で何十人という男から精を絞り出す……さながら淫魔だ。だがホムンクルスを産む為にそれが必要だというのだから、さしものジルにも止める手立ては無い。
「いい年の女の子が、そんなんでどうする……周囲に舐められないよう、せめて毅然として振る舞わなければ」
そこまで言ってジルは、それがかつてジャンヌに向けて語った言葉だった事を思い出し、
「どうしましたか……マーシャ?」
而して気がつけば
「いや……なんでもない。――それより何をしているんだ……フラン」
どうやらジルには、かなりの割合で
「何もかにも。マーシャが辛そうだったものですから。――楽になるお手伝いをと思いまして」
いかにも事務的な口調だが、残念そうに舌打ちすると、フランは踵を返し、また歩きだす。感情の昂ぶった今ならば、このまま襲いかかりねじ伏せようと思いもするジルだったが、ジャンヌに会う手前にそれを為すというのは、やはり如何ようにも許しがたい暴挙だと押しとどまった。
やがて暗く長い廊下は、大きな
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