会談護衛と金髪強者《ダブルナンバー》


 世界で幾つかの同盟や組織があるのは大分前に話したが、日本が所属しているのは三大同盟と呼ばれている物だ。


 アメリカ、オセアニア諸国、そして日本という太平洋を跨いだ大掛かりな同盟。

 背景としては隣接している大連邦や中亜共同体といった未だに力を蓄え続けている組織へ向けての牽制といった所のなのだろう。

 正直当時の人間では無いので詳しくは知らないし、伝達はともかくとして救援に時間のかかるのが解りきっている離れた国がどうして同盟を結んだのかはわからない。


 それにいくら厭戦気運が高まり日本軍が解体され、自衛隊になったとは言っても対立していたアメリカと和解した上で同盟を結んだのか謎である。

 どちらかと言えば欧州連合と手を結ぶ可能性の方が高かったはずだ。


 もしかしたら後見人辺りなら知っている可能性があるかもしれないが、自分としてはあまり興味がある内容ではないので聞こうとも思わない。



 しかし、現在同盟が結ばれているのもまた事実である。

 そして自分は対策庁という国家所属の戦力だ。

 例え内心はどうであれ求められている行動はただ従う事で、それに見合った給料も一応は払われている。

 当然お上に逆らうことなどできず、同盟間で行われる会談の護衛を言い渡されたら従うしかない。




「で、なんで最高でAランクの人間しかいないウチから会談の護衛なんて大層な役回りがくるんだよ?」



 俺と藤堂がB、杉山がA。

 意外な事に俺達トリオの中で一番ランクが高いのは杉山である。

 まぁ藤堂も本来はAらしいのだが、色々問題を起こした手前昇格試験の受験資格がなくなってしまったらしい。



「一応AAランク以上の戦力も護衛に回ってはいるぞ。ただ純粋に頭数が足りないんだよ。それにあまり戦力を割き過ぎると国内の防備が薄くなるだろ」



 確かに。

 現在国に存在している戦力は要所で防備の為、各地に散らばっている。

 それに数が多いわけでもない。AAAランクなんて全体戦力の0.一%未満だ。

 いくら一人で軍を相手にできる戦力であろうと身体は一つしか無い。

 その場に居なければ戦力として数えることはできないだろう。


 なまじ異能により高ランクが多く、それに頼り切っている日本の欠点と言ってもいいだろう。



「それに大将も警戒に付くらしいからそこまで気負う必要もないだろうよ」


「マジで俺らいらねーんじゃねーの?」



 護衛ではなく警戒とはいえ、あの後見人三位が出てくるのだ。

 正直手を出す方が愚かとしか言いようがない。

 航空戦力だろうとリストランクに名を連ねる者だろうと笑いながら蹴散らす姿しか思い浮かばない。

 今こうして会談場所へ向かう自分達が、映画に出てくるエキストラの様な役割しか無い事に思い至り溜息が出てくる。




「まぁそう言うなって、これもいい経験になる。特別手当も出るんだ。ちょうどいい小遣いになるだろうから頑張れよ」



 出るもの出るならやるしか無い。

 確かに家計が楽になったと言っても小遣いはまた別だ。

 あるに越したことはない。


 それに国としても個人や少数に頼り切りというのをアピールするわけには行かないのだろう。

 特急戦力以外にも充実していることを見せなければならない事情もあると考える。

 まぁ楽して手当が出るなら嬉しい限りだ。



「とりあえず、後十分もしない内に到着するからそろそろ後ろのバカ共を起こしておいてくれ」



 内密に俺達を送り届ける為に貸し出されている車ではなく、自家用車の運転席で勤務中にも関わらず躊躇いなく煙草を吹かしている鉄さんに促され、後部座席にいる二人へと視線を向けた。



「――っ! ――、――。――っ!!」



「スカー……」



 そこにはだらしなく寝ている藤堂と、薄く張られた光の中デバイスに向かって緩んだ顔で何かを語りかけている杉山がいた。

 

 おそらく薄い光は藤堂が張った遮音結界なのだろう。

 身体をくねらせてデバイスに向かってキスしている姿から音が聞こえてこない。

 勤務中にも関わらず好き勝手やっている仲間に溜息が吐いて鉄さんに視線を戻した。



「杉山は旦那にラブコール。藤堂は腕組んでぐーすか寝てたので諦めた」


「いいから起こせ」



 ヤダよ。

 杉山のラブコール邪魔すると後がこえーんだから。

 藤堂を起こした拍子に遮音結界が解けたらどうすんだ。

 あの甘ったるい桃色空間が車内を埋め尽くすんだぞ?


 独り身には辛いとかそんなんじゃない。

 見ているこっちが鳥肌立つほどに恥ずかしくなるのだ。

 そしたら走行中だろうと躊躇うこと無くドアから脱出するわ。



「とりあえず着くまでに杉山の電話が終わることを期待するか」


「そうだと信じたい」



 一応彼女も対策庁の職員だ。

 それぐらいの分別はあると信じたい。
















「愛してるわよダーリンっ!!」



「よく寝たわ」



「なんというかいつも通りカオスな二人だな」



「葵、それブーメランだからな」



 護衛場所へ到着と同時に藤堂が目を覚まし、同時に遮音結界が解かれて杉山の旦那へ向けたラブコールが聞こえてくる。

 杉山のラブコールもちょうど終わったようで、いつの間にか車内から降りようとしていた藤堂に続く形でドアを開けていた。

 それを確認してシートベルトを外して同じくドアを開ける。



「とりあえずお前ら頼むから相手方に粗相だけはするなよ」



 車内から降りて並ぶ俺達へ向け、紫煙を燻らせながら鉄さんが色んな意味で複雑な顔で口にする。




「あん? 鉄も別箇所だが警戒だろ? そっちの方が心配だわ」


「大丈夫。ダーリン成分補給したから暫くは大人しくしてるよ」


「この犬っころ二人は俺が見ておく」



 鉄さんの心配も最もと言える二人なのだから最後の砦である自分が頑張るしか無い。

 固い決意を持って鉄さんの視線に応えるが、向けられた視線は自分が望んでいたものではなかった。




「お前もだぞ葵」




 何故か二人に向けられていた視線よりも呆れが混ざっている気がする。

 別に何かをしようとしているわけではない。

 自分は色物達の中でも大分まともな部類だと自負がある。

 間違っても心配されるような事は無いはずだ。




「まぁ、とりあえずさっさと到着した旨と護衛に関する詳細を聞いてこい。俺もすぐに警戒場所へ向かわないと行けないんだ」



 問い詰めたい衝動を抑えながら鉄さんを見送り、護衛対象の居る三大同盟大使館へと歩を進めることにする。

 正門前には武装した大使館職員の男数名が見張っており、対策庁の制服を着ているとはいえ向かってくる俺達に警戒を示していた。



「対策庁、対策二課、遠野葵だ。入館申請は来ているはずなので確認後速やかに通して欲しい」


「デバイスを」



 大使館職員ということもあり流暢な日本語で出勤時と同じようにデバイスによる確認を促してくる。

 素直に従い、左腕に着けている時計型デバイスを掲げて照合を済ませる。

 後ろの二人も静かにそれに続き、順番に照合を済ませていく。



「確認取れましたのでどうぞ」



「手間を掛けました」



 確認が終わると来た時と同じように正門の前に直立不動で佇む職員に軽く会釈をして、建物へと進んでロビーへと入り受付の女性へと声を掛けて、自分達が向かう場所を尋ねた。



 会話に齟齬などなく、スムーズに目的地が三階の会議室であることを確認してエレベーターへと向かう。




「とりあえず軽く装備の点検だけでもしとくか」


「そうね、実際はただのお飾りだとしても何があるかわからないし」


「そういう真面目な所をどうしてもっとださないかぁ」



 割りかしというか結構デカイ仕事の為か、普段の軽い調子ではなく真面目な声で会話を行う二人に、誰だこいつらと思ってしまう。


 二人が普段の対策庁の実働員制服であるのは変わらないのだが、支給されている拳銃や閃光手榴弾と言った装備まで持ち出してきていた。

 ヘルメットなどは着けてはいないが服の下には耐弾シャツを着込んでいたりと、二課に許されている完全装備状態である。

 自分も似たような装備であるのだが、二人とは違い腰には短刀を差している。




「ま、大丈夫そうだな」



 二人に倣い、自分の装備を確認し終わると目的の階に到着したので、案内図に従って目的の会議室へと到着した。

 入室すると既に相手側の護衛だろうか、黒服の男二名と金髪の女性が室内でデスクに腰掛けていたり、壁に寄りかかったりして休んでいるのを確認できた。



 今回護衛する対象はアメリカサイドのお偉いさんである。

 従って室内にいるのは護衛は当然アメリカ人となるのだろう。

 此方を確認した黒服の黒人が壁により掛かるのを止めて、自分達へと向かってくるのを目にする。


 おそらく挨拶なのだろう。

 正直、あんまり英語は得意じゃないので後ろの二人にぶん投げたいのだが、視線を向けるとわざとらしく口笛を吹いたり、衣服を整えたりと気づかないふりを始めたので溜息を吐いて正面に来た男へと言葉を発する。


「Hello. I’m―――― 」


「日本語で大丈夫だ」



 言葉途中で返ってきたのは英語ではなく、恐ろしく流暢な日本語であったため身体から力が抜ける。

 まぁ此方としても助かる。

 手を差し出されたので応えるように握手と共に紹介をしていく。



「遠野 葵だ。短い間がよろしく頼む。後ろの女性が杉山、男が藤堂。同じ対策庁の職員だ」


「ジャックだ。後ろの男がジェイムズ。女性がアイリスだ」



 日本の握手とは違い、力強く振られる腕に困惑しながら後ろから近づいてくる二人を確認した。

 白人の黒服がジェイムズ。

 同じく黒服で金髪の女性がアイリスというらしい。



「はぁーい、杉山 香織といいます。好きなのは旦那さまで未だにラブラブでーす」


「どうも、藤堂 秋夜だ。まぁテロリスト共がでたら仲良くサンドバッグにでもして遊ぼうぜ」



 初対面の人間にする挨拶とは思えない内容に頭が痛くなってくる。

 目の前のジャックなんか何を言ってるのかわからない顔をしているぞ。

 もう少し自重しろ。自重。

 サンドバッグで遊ぶんじゃなくて、顔面に拳一発で伸して終わりだろ。


「大分個性的な三人なようだな」


「とりあえず、こいつらと一緒にはしないで欲しい」


 歩幅の違いか、スタート地点の違いなのか先に此方へ到着した白人の男改め、ジェイムズが俺達を一緒くたにしたので不服の意を示す。



「これはミスター。短い間ですけどよろしく。何事もないことを祈りましょう」



 遅れて到着した女性の言葉に挨拶を返そうと顔を確認した所で一瞬固まった。



「……あぁ、そうだな。よろしく頼む」



 後ろ手に回していた左手で二人へとハンドサインを送る。

 正直女性の顔を確認したのであれば送る必要もないだろうが、念の為だ。

 女性の、いや少女と言った方が正しい彼女の顔には見覚えがある。


 それも重要データの中、リストランクでだ。

 入れ替わりや暗殺などを受け、十三から二十位辺りで再び順位の更新があり最近目を通したので間違いはない。




――二桁。警戒レベル。引き上げろ。



 そもそも一位から百位までは対策庁の定期試験でも出題されるのだ。

 覚えてないほうがおかしい。



「あらあら。これは可愛いお人形さんみたいな女の子ね。持ち帰ってもいいかしら」



「カオリン……それは拉致だ」



 何時もと変わらない行動している様に映る二人だが、ハンドサインを見逃すほど間抜けじゃないはずだ。

 その証拠に前衛である自分より前には出ていない。



「では、改めましてアイリス・リーベルグと申します。短い間ですけどよろしくおねがいしますね」



 そう言っておそらく十代後半であろう少し幼さの残る顔に笑顔を浮かべて挨拶をする。



 とある事件により、提供された雷音寺の因子情報と向こうの異能が複合して生まれたAAAランクの異能者にしてAランク魔導士。




 リストランク、八十七位。

 リーベルグ家の【片鱗】。雷撃のアイリス。




 予想以上の大物の出現に、先程まで考えていた形だけの護衛が嘘の様に危険な香りを放ち始めたのを感じる。

 ダブルナンバー二桁を投入するという、米国むこうさんの力の入れように脳内の警鐘が鳴り響く。




 どうやらこの会談、隠されている何かがあるのかもしれない。




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