バカとお出かけ三人娘



 トリオ結成から数日が経ち、ある程度業務に慣れてきて迎えた休日で駅前の待ち合わせによく使われる時計台周辺で佇んでいる。

 休日ということもあり元々多かった人が更に溢れ返る中、溜息と共に時刻を確認する。


 大凡十一時。


 そろそろ待ち合わせもどきの時間を指そうとしていた。

 そこへ軽やかな足音と共に一人の少女が長い髪を靡かせながら駆け寄ってくるのが目に映る。



「お待たせしました。待ちましたか?」



「待たせといて何を言っているんだ」



 何時ものゴスロリ服ではなく、白を貴重としたブラウスに黒いリボン。

 控えめなロングスカートと、どこぞのお嬢様のような格好をした縁が風に流される髪を片手で抑えながらのたまった。

 それでも抑えきれずに流されている銀色の髪は、陽の光を受け幻想的な輝きを放ち穏やかな笑みを浮かべていることもあり、一枚の絵のような印象を受けた。



 正直に言って、これ以上無いくらいに良く似合っている。

 元がいいこともあり、先程言った通りどこぞのお嬢様の様にしか見えないが、おにーさんの誇りに賭けてその事実を口にするような事はしない。




「そこは今来た所、がお約束ではないのですか? だから彼女ができないんですよ?」



「おう、今すぐフルドライブでスパンキングしてもいいんだぞ」



 穏やかな笑みの割に出てきた言葉は、容赦がなく人の心に刺さる内容だった。



「公衆の面前でスパンキングする勇気があるなら、私は一向に構いませんよ?」



「ぐぬぬ……」



 此方ができない状況を解ってて言っていることを確信する。

 何故なら先程受けた印象とは違い、その笑顔はどこか挑発するような色を含んでいた。

 家に帰ったら覚えておれ。



「で、なんで一人なんだよ。二人はどうした?」



「あそこでハンカチでも噛んでるんじゃないんですか?」



 そう言って指差した少し離れた電柱の影には、唇を尖らせた燈火と言葉通りハンカチを噛んでいる雫が仲良く顔を覗かせていた。



「説明プリーズ」



「一番手を賭けたじゃんけんで勝ちました」




 予想以上にどうでもいい理由に隠すこと無く溜息を吐いて、二人を呼び寄せるために手招きする。

 此方を確認して勢い良く二人が電柱の影から飛び出し此方へと駆け寄ってきた。



「後で気づいたけど、あのじゃんけんは最初から勝ち目なんてなかったじゃない」


「チート反対。【時遊び】禁止。よってやり直しを要求する」


「最初に確認しなかった方が悪いんです」



 どうやらこの待ち合わせで最初に合流する順番を賭けてじゃんけんをしたらしいが、その結果に不満を露わにする二人。

 事前の確認ミスか縁が誘導したのかは分からないが、二人の反応を見るにおそらく後者と予想できる。


 未だ言い争いをしている三人の少女達を遠目で眺めながら、燈火と雫の格好を確認すると縁と同じく他所行き用の衣服に身を包んでいた。



 燈火は普段のカジュアルな格好をより強調させ、赤いチェックのミニスカートに少しだけ肩を露出させたシャツと腰に巻いたパーカーが活動的な印象を与えている。

 普段ポニーテールを纏めているゴムも、今日は赤いリボンとなっているためか女の子らしさもちゃんと出ていた。



 雫も最近良く見るジャージ姿ではなく、最初の頃の様にワンピースを着ていた。

 少し暗めの青いワンピースに肩から大きくかかる軽いレースのつけ襟を正面で結んでいる為か、物静かな印象と清楚な雰囲気を纏っている。

 靴もサンダルなどではなく、すこしだけ高さの付いたヒールを履いおり夜更かししてゲームをやり切った朝のようなボサボサの髪ではなく、触り心地がいいことが見ただけでもわ綺麗に整えられていることがわかる。



 二人共それぞれがおしゃれをしてきたことは伝わってくるし、非常によく似合っている。

 縁にも感じた通り、元がいいのだから尚更だ。




 どうしてこんなことになっているかと言うと、こないだの埋め合わせの件である。

 最初は一人一人個別に連れ出す案が出たのだが、流石に今後の予定や仕事の兼ね合いもあり断念してもらった結果、当初の潰れた休日の予定通り三人一緒に出かけることになった。


 しかし普通に出かけるのではなく、デートの様に待ち合わせをしたいと言った三人に逆らうことができずにこうして駅前で茶番に付き合うことになった。


 自分としては結局合流するのなら最初から纏まって出たほうが何かと楽だと思うのだが、そのことを口に出せば手痛いしっぺ返しを食らうと直感が告げている為、何も言わないでいる。

 多分それが正解だと思う。




「とりあえずはあれだ。何時迄もバカやってるなら俺は先に行くぞ」



「女の子を置いて行こうとしないでください」


「いや、キャットファイトに巻き込まれたら面倒だと思った」


「うーん、正直なのはいいと思うけど流石にドン引きだよ」



「解せぬ」



 こいつないわぁ、と言った意思を込めて二人が視線を投げてくる。

 正直に言えば、家で繰り広げられている騒ぎと対して変わらないのだ。

 なら面倒だとわかっているのにそこに飛び込むような事はしないのは当たり前だろう。


 しかし、どうやら二人はそれがお気に召さないらしい。

 何故だ、何時もなら特に文句も出さないだろう。



「葵、二人はまだOHANASHIがあるみたいだから先に私と楽園に行こう」



「家電量販店は今回のツアーコースから外れています。これは遠野家で事前に話し合った総意です」


「た、謀ったなっ! 我々の絆はどこへ消えたのだっ!?」


「三角コーナーに捨てました」


「そのままゴミ箱に捨てたから、今頃焼却処理されてるんじゃないかな?」


「これが……絆――っ!」



 いつの間にか裏で行われていたやり取りに、ショックを受ける雫が二人に避難の目を向けると鮮やかな連携で追い打ちをかける二人。

 静かに天を仰ぎ、被せた腕の隙間から一筋の涙が伝っていた。

 要は男泣きである。





 なんというか、どうしてこんなにウチのメンツって濃いんだろうな。

 よくよく考えれば色物二課にも負けないんじゃないだろうか。




 そして雫。

 男泣きするのは構わないが、ここが公衆の面前だということを忘れるなよ。

 そして泣くほどエロゲが大事なわけがないと信じたい。



 ほら、とりあえず泣き止め。

 後でケーキバイキング連れてってやるから。



「っ、ひぐっ――うんわかった。後新しいパーツも欲しいから真面目に電気街に行きたい」



「内心焦ったから異能を使ってまで嘘泣きするのは止めなさい」



 くぐもった声が突然ケロッとした声に変わったことでなんとも言えない気持ちになる。

 腕を退けた雫を見ると泣いたことによる充血した瞳などなく、言質を取ったことで逆に清々しさを感じる表情がそこにはあった。



「はぁ……拉致が開かなくなるからとりあえず移動しながら行く場所決めるぞ」


「やっぱり甘いよねぇ」


「一番チョロいのは葵かもしれないですからね」


「葵はチョロイン」


「お前ら本気で置いてくぞ」




 とりあえずは埋め合わせということもあり、三人が喜びそうな所は予めリストアップしてある。

 これからも結構迷惑をかけることになるだろうから、今の内にサービスしておくに越した事はないだろう。


 それに最近表に連れ出していなかったこともあり、久しぶりに思う存分楽しんで欲しいといった想いもある。



「とりあえず服でも買いに行きましょうか」


「その後ホームセンター行こうよ」


「楽園は大型ビル地下一階の隔離スペースにある」



「一応頑張るけど、頼むから予算以上の物はなるべく買わないでくれよ」




 とりあえずはきゃっきゃ騒ぎながら後ろをついてくる三人に釘を刺すところから始めよう。


 ま、多少なら予算オーバーしてもいいさ。

 これも悪くない。




 そうして久しぶりの四人で楽しむ買い物は、気づかぬ内に訪れた夕日に気づくまで騒がしく続いた。


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