色物対戦終結




「あいっかわらず二課はおもしれーな」



「やめてあげなよ。ホントに二課全てを敵に回すことになるよ」



 暗い緑をした長髪の男と短い茶髪の男が面白そうに言葉を交わしている。



「いやでも似たようなモンだろ。二課総出の事件の時なんてヤクザのカチコミにしか見えなかったぞ」



「まぁ普段がマトモなだけで、ネジが外れると似たようなモンか」




 自分はただ話を聞くことしか出来ない。

 会話に混ざることも、二課全てがおかしいと言う話を否定することもできない。




 何故なら自分は地面に倒れているのだから。

 なんとか意識は繋ぎ止めてはいるが、何時手放してもおかしくない程疲弊していた。


 簡単に言えば負けた。

 それも容赦ないほどにフルボッコにだ。

 俺だけではなく、少し後ろに杉山と藤堂も倒れている。



 二人だけじゃない。

 訓練に参加した色物二課全ての人員が訓練場の地面で倒れているのだと思う。

 先程まで嫌でも耳に届いていた怒号や銃声が、全く聞こえてこないことがそれを事実だと教えてくれる。




 やはり特待室は化物だらけだった。

 特対室、それは特別対策室の略称。

 戦闘員はAAAランク最高位AAランク化物しか居ない。

 対策庁の最高戦力にして日本最後の砦。




「そういえば新しく入ったロリコンくんはどうだったよ?」



「なかなかに気合の入ったロリコンだったよ」



 耳に届いた話題はおそらく自分のことだろう。



「ぉぃ……こら、ぃぃかげんに、しろやぁ……」



 力を振り絞ってなんとか声にする。

 そこだけはなんとしても否定したい。

 俺はロリコンでもないし、逆源氏物語をするつもりもない。




「まだ意識があったのかよ」



「う、るせぇ……」



「やっぱロリコンはしぶといねぇ。ロリコンマッチョと同類と見て良いかもね」



 俺をあんな色物マッチョと一緒にするな。



「だ、まれ……ハゲ……」



 しかし声に出せたのは小学生の様な罵倒だけだった。

 正直もう喋りたくない。

 意識を保つのもそろそろ限界だ。




「まぁロリコンの割にはよく頑張ったと思うよ、後はゆっくり休んでまたの機会にリベンジすることだね」



「あばよロリコン」




――――絶対泣かす。




 これ見よがしにロリコンを連呼する二人に復讐を決意する。

 そして徐々に遠ざかっていく足音と合わせて救護班と思われる足音が近づいてくる中、静かに意識を手離した。














 翌日、与えられたデスクで突っ伏しながら隣の藤堂と昨日の愚痴を言い合っていた。





「あー、マジうぜぇ。あのロン毛と茶髪絶対泣かす」


「その時は俺も呼べ藤堂、泣きながら許しを請うまで殴るから」


「今更だけど葵くんも大分こっちよりだよね」



「解せぬ」



 言葉を受け、隠すこと無く不満を杉山へとぶつけると少し悩む仕草をした後に口を開いた。

 悩んでる姿がどう見ても少女にしか見えないがこれでも子持ちなんだよなぁ。



「うーん。じゃあ藤堂も一緒でいいか、情報を吐かない犯罪者に情報を吐かせようとする時はどうする?」




「拷問にかける」


「魔力弾で囲んで再度訪ねる」




「はい、アウト」




 俺と藤堂の返事に両手でバッテン作りながらアウト宣言を下された。

 解せぬ、一番効率的な情報収集は拷問だろう。




「じゃあ杉山ならどうすんだよ」



「念動力で吐きたくなるまで振り回す」



「「アウト」」



 少女のような華やかな笑顔で俺らと変わらない内容を口走り、藤堂と共に声を揃えて判定を下す。




「カオリンと葵もなんで最初から肉体言語なんだよ。まずは尋問からだろ」



 そう言えばそんなものもあったな。

 だが、藤堂。

 お前が言った回答は尋問じゃない脅迫だ





「お前ら―、訓練場の後始末するぞー。今日中に片付けないと職員総出でバッシングするってクレームはいってるぞ」



「あぁ……流石にあれは使い物にならないな」



 割って入ってきた鉄さんの言葉に思い浮かぶのは、訓練という名の戦争によって荒れ果てた訓練場の景色だった。

 そこかしこにできたクレーター、設備は見るも無残に破壊され、焼き後や薬莢なんかもそのままにされている酷い有様。



「流石に俺らだけでは無理だろうから強力な助っ人を頼んできた。おーい、入っていいぞ」




 あの惨状をどうにか出来る人材となれば有り難い事この上ない。

 扉に向けて声を掛ける鉄さんにつられて視線を向けると噂だけは聞いたことのある人物が入ってきた。




 それは巨漢の男たちだった。



 慎重は二メートルを超えているだろう。

 大の大人が悠々と通れる扉を窮屈そうに潜る様子は、遠目からでも圧倒された。



「お前らまたやりすぎたんだってな繰り出されるこっちの身にもなってくれよ」



「まぁ今に始まったことじゃないから俺としては諦めてるけどな」




 声は野太く、しかしだからと言って固くはない。

 フランクに、まるで親方のような雰囲気。


 制服がはちきれんばかりの巨腕。

 片方はスキンヘッド。片方は角刈り。

 感じた通り、まさしく土方の頭領のような顔立ち。



 近づくに連れて更に大きく感じる巨体。 

 そして立ち止まった時並んでいた鉄さんが子供の様に映ってしまう。


 数々の災害復興で功績を上げ続ける二課伝説の一つ。

 かつてキラキラネームが流行った二千年代初期に土生滝から分家として立ち上がり、今でも続く家系の当主達。

 色物と呼ばれている中で、珍しく人望が厚くマスコミにも取り上げられるほどの人気を持つ。

 


 その証拠に彼らを確認した同僚達が急いで立ち上がり各々挨拶をしていた。



「土瀝青先輩! お疲れ様です」


「混凝土先輩! 何時も有難う御座います」




 

 そう、彼らこそ対策二課、復興係不動のエース。





 土瀝青アスファルト 忠造ちゅうぞう


 混凝土コンクリート 健造けんぞう





 ホントに色んな意味で圧倒された。

 やはり二課は色物と呼ばれても仕方がないと思う。













「はぁ、はぁ、ホント親方みたいに人使いが荒いな」


「まぁ仕方ないと思うよ。私達の百倍は仕事してるからね」


「逆らったら二課だけじゃなくて他の課も敵に回しそうだからな」



 漸く訓練場の後片付けが終わり、杉山と藤堂共に休憩スペースでジュースを飲みながらダベっている。


 確かに俺達の百倍は仕事をしていた。

 名前からして能力が丸わかりだろうが、その能力は折り紙付きだった。



 どこからともなくコンクリートやアスファルトを創造して設備を復元していく姿は魔法使いと言われても頷いてしまうものだった。

 見た目は魔法使いと言うより現場で指揮を取っている親方にしか見えないが、此方の後始末に付き合わせてしまっているので口には出さなかった。



 ちなみに地面に空いたクレーターは復興係の係長である土屋係長がテキパキとその異能で埋めていた。

 二人に比べて影が薄い印象を抱いたが、隣の二人が濃すぎるだろう。

 聞いた所あの二人とトリオを組んで活動することが多いということは、それ相応に濃いと予想できる。





 そうして自分達は小さな残骸や設置する設備を運び込んでいる内に訓練場の復興は終わっていた。




「終わると同時に配られたジュースは美味かったな」


「あぁ、あれを飲んでる時って働いたな―感じがするよね」


「先輩達のおごりって所がまたなんとも言えないよな」



 作業中は鬼の様に激を飛ばすが、辛い仕事が終わると豪快に笑いながら肩を叩いて労ってくれる。

 先輩と慕われる要因はそこにあるのだろう。


 なんとなく体育会系のノリに洗脳されている気がするが、確かに達成感を感じたこともあり考えないようにする。





「お前ら何下らない事話してんだ。とりあえず葵には連絡だ」



「連絡? どこかに調査でもいくのかよ」



「おう、調査だ。とりあえず明日はおめかししてこい」



「は?」




 デスクで話していた時の様に割って入ってきた鉄さんの言葉に疑問が浮かんだ。

 私服調査なら解るがお洒落する必要は無いだろう。


「じゃ、疲れてるから俺はけーるぞ」



「ちょ、まて」



 理由を聞こうとするが、大分疲れていたらしく反応が遅れてしまった。

 既に声は届かない位置まで離れてしまい、別に急ぐことでも無いと考え帰宅することにした。




 早く風呂入りたい。



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