Bランク昇級試験



「しゃ、ら、く、せぇぇぇっ!!!」



 高速で駆け抜けて相手との距離を詰める。

 正面から襲い来る魔力弾や障壁を殴って突き進んでいく。

 この程度の強度なら今の自分にとって唯の紙と対して変わらない。



「しっ!」



 走る中、直撃する光弾を見極めて右手で払う。



「はっ!」



 霧散する光を突き抜け、払った勢いを利用して左で障壁を突き破る。



「せいやぁぁぁぁっ!!」




 宙を舞う破片が身体を触れたことで痛みを覚えるが、構うこと無く相手に向かって飛び蹴りを繰り出す。




「くそっ!」




 俺の突撃を止めらないと悟ったのか、相手が悪態を付きながら魔導式を起動。

 魔力の波動を感じると共に後方へと滑るように移動していった為、蹴りは虚しく空を切った。



(移動式の発動がやたらとはえーなおいっ!)




 叩きのめすことが条件だとすると、この試験、合格者を出す気が無いように思える。



「うぜぇ!!」



 相手の起き土産である魔力弾を払いながら再び前進する。

 今のやり取りで再び距離の詰め直しから始めなければならなくなった。


 複数の魔導式を展開しながらも的確な状況判断。

 有効な魔導を取捨選択して扱い切る上に発動も早い。


 定められた範囲内に敵を感知すると襲いかかる魔力弾。

 此方に進路を予想させない為の滑走移動。

 魔力を衝撃のように使い飛ぶように移動した方が早いが、吹き飛ぶように移動する関係上、進路の変更が利かず、尚且つ他の行動が取りづらい。

 今の俺のように攻撃が余り有効打にならず、距離を詰めようとしている行動する相手には相性がいい。




(少なくともAランク相当かっ!)



 

 結果として後方に移動はしたが、それでも此方の進撃を止めるために感知型の魔力弾を設置するなど相当手慣れている。

 少なくともBランクに上がろうとする様な者が相手にするには荷が重い。

 というか確実に負ける。




「燃えてきたぁぁぁぁっ!!」




 だからどうした。

 今の自分に出来ることなんて近づいて殴ることぐらいだ。

 下手に考えて時間を無駄にするぐらいなら、相手の対処を超えて突き進めばいい。


 打って殴って押し通る。


 そちらの方がわかりやすい。

 無駄な思考もいらない。

 その分突き進むことにつぎ込める。




 相手との間に幾つもの魔力弾が設置されているのを確認する。

 さっきと同じ感知型と見ていいだろう。



「――――押し通るっ!!」




 魔導式を起動させながら止まること無く相手へと加速する。

 本人からの魔力弾も含め相当数の光弾が襲い掛かるが、両腕を壁の様に前に出して突き進んだ。



「ぉぉぉおぉっ!!」



 幾つもの衝撃を受けたことで腕に鈍い痛みが走るが、自分の防御を抜く程の威力はない。

 ほんとフルドライブ様々だ。

 四ヶ月前の自分ならここで詰んでいたのは想像に難くない。



(おいおいマジかよっ!)



 幾多の魔力弾を受けながらも確実に距離を縮める中、腕の隙間から強い光を確認して胸に焦りが生まれる。

 そこにはデバイスを正面に構えて魔力を一点に収束させている男が映ったからだ。



 魔力砲撃。


 魔力弾とは比べ物にならない威力を誇る一般魔導士達にとっては切り札と言っても良い代物。

 魔力を一点に集める都合上、どうしてもチャージに時間がかかってしまい相手に対処されやすいが、切り札にされている実績は伊達ではない。


 如何に超強化されている自分とは言えど、まともに浴びれば一発アウトだろう。



「落ちろっ!」


「舐めるなっ!」




 極太の光線が視界を埋め尽くすのと自分が右腕を突き出すのは同時だった。



「ぉっ、らぁぁぁぁぁっ!!」



 視界に広がる魔力光に目をやられながら右腕に展開した障壁を斜めにして砲撃を逸していく。

 逸しきれず浴びた光により、至る所に鈍い痛みを覚えた。

 それでも構わず進もうとするが、砲撃の圧力が予想以上に強い為地面に線を引きながら押し下げられていく。



「こん、のぉ!!」


「っっ!」




 呻き声に似た気合と共に力を振り絞りなんとか踏みとどまる。



――――あの時に比べたらマシだろっ!



 光の奔流に飲まれぬよう、譲れぬ決意を乗せて相手を睨む。



――――後ろに三人が居ると思えっ!



「引、け、る、か、ぁぁぁぁぁっ!!」



 叫びを上げ、姿勢を低くして押し進んでいく。

 光に埋め尽くされ覚束ない視界の中、驚愕を隠せない表情の男が映る。

 無茶な特攻により右腕の痛みが増すが、左手を支えに押し当て気合と共に前進する。



「――――くっ!」



「しゃおらぁぁぁ――――」



 動揺か、不意に砲撃がブレたのを好機と捉えて圧力の弱まった側面から滑るように突撃する。

 砲撃という大火力を誇る魔導の隙により、回避行動へと移ることが出来ない相手へと辿り着いた。



「せりゃぁ!」


「おぉっ!」



 裂帛の気合を乗せた拳を繰り出すと、回避が間に合わないと障壁を展開する相手。


 それは悪手だ。

 何故なら俺の攻撃は統一魔導式の防御なんて意味を成さないからだ。

 所属する組織、使い手自身の改変により多少の違いはあれど、根幹に存在する式は変わらない。

 それは自分にとってはカモに他ならない。




「――コード、ブレイカァァァァ!!」




 拳を叩きつけた障壁は抵抗を感じると同時に砕けていく。

 過去の痛々しい時代の自分が編み出した魔導式を解析して分解する魔導。

 構成も雑、負担も尋常じゃなかった欠陥魔導を今の自分が使えるように改良を加えた物。


 仕様上触れなければ意味を成さないが、只の魔導士には最大級の脅威となるだろう。



「なっ――がっ!!!」



 ありえないと言った色を顔に浮かべた相手の腹部に拳が突き刺さった。

 勢いのままに振り切った為、相手は数メートル先へと吹き飛ばされていく。




「ふぅ……」



 残心を取り、相手の動きに注視しながら一息吐く。

 左腕のデバイスにかなりの負担が掛かったのか、未だ冷却の為に唸るように駆動音を発していた。


 暫くして相手が起き上がってこないことを確認して違和感に気付く。




「あれ? ブザーは?」



 

 試験官である相手を叩きのめしたにも関わらず試験終了の合図が聞こえてこなかった。



(あれ? もしかして試験内容って叩きのめすことじゃなかったのか?)



 一息吐いた事で冷静になった思考が一つの答えを出した。

 もしかして自分がとんでもない間違いを犯してしまったのでは無いかと。


 確かによく考えれば、Bランクに上がろうとする受験者が倒せるような相手ではなかった。

 推定Aランクの試験官を倒す事が、Bランク昇級試験の内容な訳がない。

 それはAランクの試験だ。




 内心冷や汗をかいていると、試験会場の出入り口から焦った表情の職員が数名飛び出してくる。

 固まっている自分を他所に試験官を担架に乗せて運んでいった。

 その内の一人が自分に駆け足で近寄って来るが、今更気づいてしまった誤解をどうやって説明すればいいのか判らず固まってしまう。



「とりあえず、ぶっ飛ばしましたがこれで合ってます?」



「試験内容をしっかり見て下さい!!」




 どうにか口に出せた言葉には予想通りの返答が返ってきた。



――――此方の力を測る為の模擬戦。



 うん。そうだよね。

 測る。あくまで力量を知るための模擬戦だったよね。



――――やっべ、やり過ぎた。



 本来なら制限された時間の中で自分の力量を示す為の模擬戦だったのだ。

 時間そこそこに切り上げて評価を貰って終了。

 そういう試験だったのだろう。


 しかし俺はどこをどう間違ったかは覚えていないが、多分面倒になったのかぶっ飛ばすという結論に至ってしまった。


 そして向こうも想定外だったのだろう。

 CランクがAランクをぶっ飛ばしてしまうなんて。


 担架に乗せられて運ばれる試験官を目にしながら引きつった苦笑いが浮かんでくる。



(どうしようこれ……)



 受験資格取り消しとかにならないで欲しい。マジで。



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