欠食児童とMOTTAINAIおバカ





 何がったのかは置いておき、すぐさま3人に駆け寄りデバイスの生体診断モードを起動する。

 簡易的なものだが無いよりマシだ。

 周辺を確認しながら息は有ることを確認し、とりあえず一安心する。

 もしかしたらポッドから出したことにより、何か身体に異常が発生したのかもしれない。






「大丈夫か!?今診てやるか……ら……」





 三人を診察しようとした辺りでふと声が聞こえてきた。






「お腹痛い。けど美味しい……」



「食べたい。だけどつらい……」



「甘い……痛い……甘い……痛い……」




 そっと診断モードを閉じた。



 よく見てみれば、笑っているのか、痛いのかわからない複雑な表情で手にした食べ物を見ている。

 雫に関しては未だにシュークリームを食べ続けている。



 考えて見れば三人はポッドから出て、

 いや、生まれてから初めての食事である。

 知識としてはどういうものかは知っていても、

 いざ食べてみるのとでは訳が違う。


 初めて美味しいものを食べたらもっと食べたいと思うのは人のさがだ。



 縁はパイ。


 燈火はピザ。


 雫は冷えたシュークリーム。



 どういうことかというと、生まれてから始めて食べる物として重かった。

 ということだ。


 胃が受け付けないで、大方胃が痙攣したか収縮して痛みが出ているのだろう。

 初めて食べた味に感動し、空腹も合わさり痛くても無茶して食べたか……。



 まだ痛みと戦いながら必死に食べ物を食べようとしている三人の首根っこを掴んで布団に放り投げる。



 もちろん食べ物は取り上げる。

 その際、物凄く悲しそうな声を上げながら手を伸ばす姿に、罪悪感を覚えるが本人たちの為だ、やむを得ない。



 溜息を吐きつつ、ぬるめのお茶を用意して、三人の前に並べゆっくりと飲むように促す。




「俺の配慮が足りなかったのは認めるが、お前ら無茶しすぎだろ」




「大丈夫です、私は異能を使えばまだ食べれます」



「落ち着いてから食べようなぁ!?」



 縁が頓珍漢とんちんかんな事を言いだしたので流石に止める。

 どうやら懲りてないらしい。

まあ食べるなって言う方が酷なのだろうが、落ち着くまでは諦めてもらうしかない。



「縁、私にも異能使って……」


「私も……シュークリーム分ける……だから……」


「三人で一緒に分け合いましょう」



「お前ら、死因。胃痙攣いけいれんとかホントやめろよなっ!?」



 辛そうな顔してる癖にまだ食べようとする欠食児童達を止めて大人しくさせる。


 そんな悲壮ひそうれた目で見るな。

 別に食べ物は逃げたりしないから。

 なんとか三人をしずめた辺りで部屋のチャイムが鳴る。



 なんとなしに扉を開けると、

 そこには困惑気味のボーイ達と無数の食べ物を乗せた大量のワゴンがあった。



 その量たるや十食じゃ足りない。

 軽く見積もっても三十食分はある。


 一瞬固まるが、すぐに振り返りサイドテーブルの上に置かれている注文用のタッチパネルを見る。

 そこには凄まじい数の注文履歴があった。



 おい、いくら好きなの注文していいとは言っても限度があるだろ!

 どうすんだよこれ!?

 明らかに一人で食べる量じゃないだろっ!


 三人を見えないように隠しながら、

 今更いらないとも言えずに大量のワゴンを部屋に入れてもらいボーイ達が退出する。


 部屋に並べられた色とりどりの料理やデザート達を眺める。まさに圧巻の一言に尽きる。





 これ、どうすんだよ…………







 その後、あまりの量にすぐに食べきるのは不可能と判断して、

 早めに食べないといけない物から選択して冷蔵庫にしまい込み、

 後々の食事に回していくことにした。


 それにより、しばらくの間献立こんだてに困ることが無くなったのだが、それを喜ぶべきなのか、食べたい時に好きなものを注文できない事を悲しむべきなのか、自分には判断できない。


 しかし食材が無駄にならなくてよかった。



 それでも、残念ながら足の早い物は捨てざる負えなかった。

 日本人特有のもったない精神を持ち合わせている身としては非常に辛い。

 恭平キチガイも食べ物を粗末にするタイプじゃなかったからな。



 三人に説教をしたことで予想以上にへこんでしまったが、食べ切れる範囲なら好きに食べて構わない旨を伝えるとすぐに元気なった。



 その後、笑顔できゃいきゃい騒ぐ少女達に囲まれながら夕食を摂っている。





「「「美味しい……」」」




「そうか、そいつはなによりだ」


 やっとお腹の方も落ち着き、

 まともに食事をすることが出来たからなのか、

 三人共満足そうな笑顔で感想を口にする。



「正直、この食事だけで助かってよかったって思えるよ」


「そうね……」


「うん……」



 しみじみと語る燈火に縁と雫が続く。



「まあ、飯ぐらい好きなだけ食えばいい。食べきれる量なら何もいわんし。ただまあ、今日みたいなのはやめとけよ。色々困るから」




「あの時は興奮してて……今考えると後先考えてなかったです。すみません」




 年長役に回っていたはずが、率先して加担した縁のセリフに苦笑が漏れる。

 確かに異能まで使って食べようとしてたからな。

 直前まで話していた相手の行動とは思えないぐらいの変わりっぷりだった。


 身体に引っ張られてなのか、情報を持っているだけで

 本質的には何も経験してない故の行動なのか、

 満足そうに次から次へと食事を口に運ぶ三人の姿を見ると、

 やっぱり後者で大人びた行動をしていようと見た目相応の子供なのだと改めて感じる。




ぎたことは気にすんな。お前らの心情を考えなかった俺も悪いからな」



「葵……シュークリーム……」



「お前、さっき全部食べただろ。全ての料理を片付けない限り追加注文はお兄さん認めません」




 余程気に入ったのかシュークリームを要求するが、残念ながらまだ大量の食べ物が残っているため、雫の要求を却下する。


 呼び方に関しては同じ遠野姓になる為だ。

 仕事の早い後見人キチガイから届いたメールにより、

 三人が遠野の養子として入るむねが伝えられた。

 その為、名前か兄として呼称する様にお願いしたのだ。


 間違ってもお父さんパパとは呼ばせない。俺はまだ十九だ。



 にしても、真面目な時は非常に頼りになる。

 どうやったかは知らないが、この短時間で三人の戸籍を用意した手腕に感心する。



 ホント、なんで普段からちゃんとしないのか…………。

 まあ本人にしかわからないことだ。

 理解してしまったら、自分まであちら側の住人になりそうな恐怖を覚えたので、思考を中断して食事に戻る。





 ある程度食が進み、一段落着いた所で話を切り出す。





「で、明日からどうする?日本に行くにしても最低でも一週間は待たなきゃならない。しばらくの間は表に出るのは危険だから控えてもらうにしても、何もしないのは辛いだろ」



 例えるなら、この三人は歩く核爆弾と言っても良い。

 研究所はあの惨状である以上、調査は困難。

 証拠も残していない。

 現状、身バレする危険はそれほどないが、

 何かの間違いで発覚しようものなら、即戦争の引き金になるだろう。



 故に戸籍や環境が安定するまでは、表に出ることを控えて貰うしかない。

 せっかく手に入れた自由を噛みしめさせてやることは出来ないのが心苦しいがやむを得ない。





「そうですね……。正直に言うと今の世界を、外を見てみたいのですが、状況的に仕方ないですね。本とか電子媒体で調べてみたいと思うのですが、いいですか?」



「ま、それが一番堅実か……。一般デバイスになると思うが、都合はしてみるから明日の昼ぐらいまで待っててくれ」



 現状を正しく認識している故に、好奇心はあるがそれを抑えた縁の提案に乗っかる。

 デバイスを調達するために近隣の店を思い出していく。


――あぁ、一応近場にあるな……。

 明日修理依頼と報告の帰りに寄って帰るか。

 後、服も必要か……それは通販でいいか。

 それは本人たちに選んでもらうのが一番だろう。


 幸いにもボーイが用意した服の中には、

 着替え一式も用意されており、しばらくは心配しなくても大丈夫だ。



 しかし女の子ということもあり、

 いつまでも同じ服って言うのも思うところが有るはずだ。

 男に比べて、色々身の回りの道具は必要になると思う。

 正直、俺としては着回せるのならなんでもいいのだがそういう訳にもいかないだろう。



――女は男と別の生き物だと思え。そこを理解し、気遣っておかないと後でひどい目に遭うぞ――



 ふと、いつか見た遠い目をした後見人の姿と、どこか実感の篭った声が脳内に浮かんで来る。

 ありがたく忠告だけ頂き、そっと振り払う。


 これから長い間一緒に暮らしていくことになるのだから、

 出来る限り嫌われる事がないように気を付けなければ。

 流石に家計を圧迫するようなら止めるしか無いが……。




 日本に帰ったらきちんと買い揃えるとして、今はそれで我慢して貰うとしよう。



「それまでは備え付けのパソコンでも使って暇を潰してくれ」



「はい、ありがとうございます」



そうして夕食を終えた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る