合コンのノリで品評されるバカ




 恭平が去るなり三人が飛びついてきた。



「女の子は放って置かれる事が嫌いですよ?」


 と、正面の縁が少し唇を尖らせながら不満を述べる。

 確かに自分でもらしくないことをして、周りの事を考える余裕がなかったと感じる。


 そして必然的に上目遣いになる三人の視線が集中する。

 あの空気で三人の入る余地なんてなかったと思うが、話の当事者であるのもまた事実だ。

 なんて答えればいいか困っていると燈火が助けをくれた。



「まあ仕方ないよ。あの空気って男同士にしか伝わらないみたいだから」



 どうやら空気を読んでくれていたみたいだ。

 見た目子供とは言え、その精神性は感情の制御以外は大人と相違ない故、助かった。

 あの空気で少女まみれになるとか恥ずかしくて悶絶するわ。


 というか、何吹き込まれたんだよ。

 今朝と比べて変わりすぎじゃね?目線で訴えると言葉が返ってきた。



「甘えろ……って言われた」


「子供は甘えてナンボだって、現状甘えられるのが葵しか居ないというのと、その方がストレスないから成長にいいとか言ってましたね」



 雫の言葉に縁が補足をする。


 あー。うん。そこに至るまでの過程が気になるんですよ。

 けど、それを聞くと先程とは別の意味で悶絶しそうだからやめておこう。


 そんなことを考えていると、燈火がするりと離れ、荷物のある部屋へと向かっていった。

 目で追うが、途中で縁の言葉が入る。



「それに、甘えるなら私は葵がいいですからね」



「何言ってんだ、そういうのは未来の旦那様に言って上げなさい」



「じゃ、シュークリーム」




 自分からやってて恥ずかしいのか、少し頬が赤くなっている気がするが見なかったことにする。


 恥ずかしいならするんじゃないよ。

 釣られて此方も顔が熱くなるのを感じる。

 甘えるのにまだ慣れていないのも有るんだろう。

 先程の燈火も部屋へ向かう際に横目で確認したが、同じく赤くなってた気がするしな。



 慣れられても此方が困るが、できれば頻度を抑えてくれるとお兄さん嬉しいな。

 最終的には巣立っていくんだから。


 というか雫にブレがないことに安心する。

 積極性が変わった二人に比べて終始食べ物を要求する彼女に癒やしを感じる。

 どうやら俺の安息はここにあったらしい。きっとそうだ。



 雫に癒やしを見出していると燈火が部屋から帰ってくる。

 その手には見覚えのある棒状の何かが握られていた。



「葵ー、あったよ。確か恭平から貰った短刀があるから渡してくれって。これでコスプレ?がまた出来るねって言ってたよ」




「あのやろうっ!!」





 地味に人の黒歴史を言い振らすんじゃねーよ。

 だが、コスプレの意味を燈火自体が知らないのでセーフ。

 近い未来に悶絶することになるだろうが、今はしないので問題はない。


 そう、問題はない。


 縁の視線に愉悦ゆえつが混じっている気がするが気にしない。



 燈火から短刀を受取る。

――天野少尉――と鞘には彫られていた。

 所々剥げている装飾が積み重ねた年月を感じさせる。

 大戦時に打たれた軍刀の一種。装飾は控えめ、だが切れ味は保証されている。

 なんて言ったって造られた目的が目的だ。切れない訳がない。状態を確認していると雫から声が上がる。



「葵、ラノベ買っていい?」



「おいまて、なにがあった」



 ラノベ、ライトノベルの略称なのは俺でも知ってる。

 文学を嗜むなら一回は聞いたことが有るジャンルだし、知名度もある。

 だが、そういう俗世の知識がないのは世に出たのが昨日、初めての雫が口にするのはおかしい。


「一巻試し読みしたから次が読みたい。恭平が、おもしろいぞ。って」



「おい、ウチの癒やしになんてものを教えるんだ、あいつはっ!」



 ダメだ、癒やし枠もなんか別の意味で汚されてる。


――やめろ、そんな目で俺を見るな。見てもお兄さんは買ってあげませんからね!


 内容もわからない。恭平のおすすめ言うこともあり、断固として拒否しようとするが、次に口から出てくる言葉を予想できたのか、徐々に雫の瞳が潤んでくる。


 け、検閲しないと教育上よろしくないかもしれないからダメなんだよ。

 自分でも押されているのがわかる。あのシュークリーム大好きな癒やしはどこへ消えたんだ。



「に、日本に……か、帰ってからな……」



「やたっ…………」



 泣く子には勝てない、はっきりわかんだね。

 喜びからか、両手を握りしめる雫により望まぬ敗北を受け入れた。

 一旦二人に離れてもらい、確認を終えた短刀を腰に差した。



「で、実際、どんな話をしたんだ?」



 この三人は恭平の大戦時代の戦友たちの記憶を持っている。

 多かれ少なかれ積もる話もあるだろう。

 特に初期から共に戦場を駆け抜けたオリジナルの記憶を持つ縁なら。



「自己紹介をして、いくつか記憶を確認されて、聞きたいことを聞けて満足したのか、特に目立った話はしませんでした。後は私達を唯の子供としか認識してない感じでしたよ」



 縁の答えを聞き、ある程度の推論が立つ。

――自分として確立してたらそれでいい――確かに昨日の会話で恭平はそう語った。

 つまり確認が取れたから満足したのか。宣言通りだったというわけだ。



「後は葵の話を聞いたり、帰ってきた時みたいに遊んでもらった。楽しかった」



――――あぁ、天野式腕立て伏せね。


 そう言えばあのお手玉は初見だったな。

 どうせ天野式お手玉とか抜かすの目に見えているので、あの時閉じられなかった扉を頭の中で閉じて、思考から追い出す。


 確かに子供の時に体験する天野式は基本的に楽しい。

 俺が実体験したからだ。だが、大人になるに連れて常識の外を縦横無尽に駆け回る光景に引くようになる。


 俺がそうだ。間違いない。


 だから間違ってもあれが一般基準スタンダードだと思うなよ。頼むから。あれは天野基準イレギュラーだ。



「それと私は異能の使い方を色々教えてもらいましたね。二人はまだ教えるには早いと言ってました。雫に関しては面識が無いから詳しくはわからないと」




「縁も十分早いだろ……」



 何してくれちゃってるんだよ。

 いやまぁ、間違いなくCランクの俺よりは強いから頼もしいんだけど、戦場に引っ張り出すつもりはないから意味ないぞ。

 それでも自衛が出来るのは大分大きいか。


 聞いてみると、オリジナルに比べて現状ニ割程度の力しか使えないと説明を受けたらしい。

 それに、今は三人共異能を使用すること自体、禁止と伝えられたようだ。

 昨日、縁が異能を使用した後の表情を思い出して納得する。

 ほんの少し使っただけで辛そうだったのだ。使わないのに越したことはないだろう。

 無理を押して、後遺症が残ったという話も珍しくはない。



 もう少し成長すれば使えるという。やはり今の未成熟な身体で使えば、間違いなく何かしらの後遺症が残るから止めておく様、釘も刺されたらしい。

 二人も使えて一割、同様に使用禁止を言い渡されたようだ。


 魔力も【原初】持ちのご多分に漏れずに大量にあるらしいが、異能と同じくうまく制御出来ないようなので、使用しても問題はないが使い道があまりないらしい。


 にしても雫のオリジナルと面識がなかったのか。

 三人の前では言えないが水戸川は確か断絶したから、それが関係してるのかもしれない。

 恭平と合う前に後遺症で死んでしまったのかもしれないし。


 過去を考えても仕方がないので思考を打ち切る。




「けど、通風口から出てくるのは怖かったよ。ほら、あれ」



 燈火の指差す方向を見てみると、ベニヤ板でバッテンに封鎖されている通風口が見えた。


 今更気づいた新事実。



「あいつホントなにしてんだよっ!」



 これ確実に弁償だろ! おい! なんでまともに扉から入ってこないんだよ。

 通風口に駆け寄り、確認する。見事にネジ止めの受け口が割れていた。

 これでは修理は無理だ。間違いなく清掃に入った従業員にバレるだろう。



 更に聞いてみると、ホラー演出までして三人が決死の覚悟を決めたこともあったそうな。

 それが文字通り蓋を開けてみると、バカンス中の格好をしたふざけた男が着地のポーズを決めて降りてきたものだから固まってどうすればいいかわからなかったらしい。


 いや、わかるぞ。あのテンションはなかなか付いていけない。


――え、いけるの? ダメだ! あちら側に行ってはいけない。帰れなくなるぞ。





 ある程度話が落ち着き、今後の方針を決める。



 まず、拠点を移すのは間違いないが幸いにも発信機を無力化してもらったお陰で、相手はこれからの足取りを掴む事は難しい。そこを利用しない手はない。


 ちなみにどこに発信機があったかというとお腹だったらしい。恭平が首をかしげた後に高い高いしたらしいので、その時に対処したようだ。

 話もされ、その時に魔力も感じたようなので間違いないだろう。


 居場所がバレたことに関して不安は無いかと聞いてみると。


「不安は不安だけど葵が守るって言った言葉を最期まで信じますよ」


と、縁が。


「私達には葵しかいないよ。けどそれで良いと思うんだ。それに最期まで信じる人がいれば頑張れるでしょ?」


と、燈火が。


「危ない時は皆で守れる。大丈夫。」


と、雫が。


 多少不安の色は見えるがそれ以上に強い、力の入った言葉を貰った。

 どうやらホントに色々吹き込まれたらしい。


 魂の、想い無い力は脆いと様々な戦場を駆けた男が言った。

 それは自分自身の為に動く場合は妥協が交じるからだ。


 だが、何かの為に動いた場合は明確な基準があり、妥協することができない。

 想いが強ければ強いほど尚更の事。つまり、引けない事を指す。


 彼女たちは最期まで俺を信じて後ろにいてくれるようだ。

 それを明確に想いとして言葉に出してくれた。これで頑張らなかったら男が廃るな。


 どうやら、あの男は本気で最期まで俺を走らせるつもりらしい。

 ま、今更誰かが来た所でこの役目を譲るつもりは無いがな。



 この三人は戸籍上とはいえ、もう遠野の子供たちだ。

 そして形だけとはいえ、当主は俺だ。


 守る義務も、意志もある。諦めるつもりは毛頭ない。



 三人に荷造りをする様伝え、自分は装備の確認を済ませていく。

 自分自身の荷物はそもそも最初にボーイに運ばせた袋の中にある一つしかない。

 すぐに終わった。




 そう言えばデバイスをすっかり忘れてた。



「おーい、お前ら。プレゼントだ。喜べ」




 着替えをえっちらおっちらと袋に詰め込んでいる三人が手を止めて此方に近寄ってくる。


 まて雫、デザートは袋に入れても大惨事になるからやめなさい。


 近寄ってきた三人にデバイスを見せて選んでもらう。

 正直最期のセンスは三人に任せることにした。

 ヘタレた自分に情けなく思うが仕方在るまい。一応日本に帰ったら新しいのを買うことも検討しよう。


 キラキラと目を輝かせながら、きゃーきゃー黄色い声をだす少女達をみることに飽きてきた頃。こちらの感情を察したのかテキパキと各々のデバイスを選んでいった。


 おい、最初からきまっ……女の子とはそういう生き物だったなそう言えば……。やけに実感の篭った言葉を俺に残した恭平の姿を思い出し、口にだすのを止める。


 縁はヘアピン型。


 燈火はイヤリング型。


 雫はネックレス型。


 に決まったようだ。




 それぞれデバイス――まぁぱっと見装飾品――を付けて、嬉しそうな笑顔をして目の前をくるくると一回転する。年相応に見えるその姿に微笑ましい気持ちになる。


 何を欲しがっているのかは流石の俺でも気づく事ができた。


「似合ってるな」




「50点ですね……」


「だね……」


「何もいえない……」




「おいまて、厳し過ぎだろ」



 こちとら察しただけでもよくやったと思うのに、それ以上を求めないで欲しい。

 女の子の相手とかあんましたこと無いんだから勘弁してくれ。



「言葉を欲しいことを察したのは良かったんですけど……」



「三人共一緒くたにされて褒められてもね……」



「何も、言わない…………」



 合コンで見つけた男を品評するみたいな感じはやめて、話術もなんもないから、基本俯瞰してるかノリだけで進むタイプだから俺。

 見た目に度々騙されるが、精神年齢は下手したら俺と相違ないのだ。


 形勢不利と判断した俺は、デバイスの簡単な使い方と自分のデバイスからある程度の魔導式をコピーして、移す作業に取り掛かる。

 その中には対策庁専用の魔導式も入っているが構わず行う。


 本来なら厳罰物だが、今回は致し方ない。

 魔導式というのは一種の特色であり、機密情報でもある。


 制圧用に改変された魔導式や、所持することを制限される式も存在する。

 広範囲殺傷能力のあるものや他人の神経を侵すものなど個人が持つものとしては危険。


 何故なら規定の魔力があれば、ほぼ誰でも扱うことが出来るからだ。

 効果が似たようなものでも国や組織、販売している会社によっては作り方が違うものが多い。

 要はプログラムみたいなものだ。それを複製、譲渡することは機密情報を漏らすような物。

 今回移したのはそんな物騒なものじゃない。


 だが、今回は必要になってくる。


 三人を救出した時にお世話になった魔導式。


 迷彩魔導式。


 自分に後ろの景色を算出して貼り付ける擬態魔導。

 侵入、工作、隠れるには必須と言っていい魔導式。

 欠点もある。動くと処理が追いつかなくなる。


 まだ完成された式ではないのか、デバイスの処理速度が追いつかない故なのか出来の悪いテレビみたいな映像が流れてしまう。


 俺が持つ特注品のデバイスですらオーバーヒートを起こして使えなくなってしまった。

 最初はまだ目的を果たしていたが、後半の方になるともう殆ど隠せてはいなかった。

 白一色で貼り付ける色の処理が楽な白衣に包んでいたにも関わらずだ。



 しかし、デメリットさえ理解していれば、隠れるという一点に置いては十分威力を発揮してくれる。


 魔導式も移し終え、三人に返していく。

 その後、通信のテストをしてきゃっきゃ騒ぐ三人に苦笑しつつ、頃合いを見て再び荷造りをするよう伝える。



「雫、ケーキは入れたらダメだからな……」



「そんなっ…………!」



「……分かった。食っていいぞ」



 ケーキを持っていけないことに絶望する雫だが、食べていいと許可を出した瞬間。大慌てでリスのように口いっぱいにケーキを詰め込み始めた雫。そしてそれに駆け寄っていく二人をみた。


 荷造りが完全におやつパーティーになっていることを察した。




 おい、方針決まらないぞ……。



 大分横道に逸れていつまでも決まらない方針に溜息を吐いたのだった。







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