やはりバカが育てるとバカになる






 あれから四日が経った。


 周囲の店の開店、閉店時間を調べたり、ホテルの従業員には申し訳ないが色々部屋をいじくり回して幾つかの備えをした。

 ここら一帯が観光地の宿泊施設と言うこともあり、調べるのにそれほど苦労はしなかった。

 周辺の店は夜になると従業員達は自宅に帰り、昼間の光景とは打って変わり閑散とするのだ。


 まあ観光地なんてそんなものだろう。

 東京だって都心部に近けば近づく程、そういった光景広がるのだから。




 身構えていた分、何も無いことに拍子抜けをするが、これで幾つかの推論が立った。




 一つ、発信機の信号をキャッチされていなかった。


 発信機の出力の関係で範囲にいないのか、それとも受取手がいないのか、どちらかは分からないが、これが一番俺たちにとって平和なのは間違いない。

 俺たちが狙わることはなくなるが、間違いなく近いうちに世界は荒れるだろう。




二つ、キャッチはしたが、動かない、または動けない状態か。


 これが一番有力だ。研究所があれだけの被害を受けたのだ。

 簡単に立て直せるとは思えない。

 それに主犯と思われる女研究員は這這ほうほうていで逃げ出したと言っても良い。


 しかも単独でだ。


 後ろ盾が、どういう組織かは今のところ分からないが、研究所を潰され連絡が取れない。

 取れたとしても俺の予想が正しければ、少なくとも三大同盟の関連国内を自由に動ける訳がない。


 研究所の件、それに恭平が連れてきた難破船で、警備レベルが跳ね上がっているからだ。




 三つ、キャッチはしたが、成果に興味がない、または必要ない。


 生きた証人であり、頭の中に研究データがある白衣の女性が居るため、データの復元を優先している。


 もしくは同じ事ができるので必要としていない。

 これは俺達にとっては良いことだが、世界としてはたまったものじゃない。




 四つ、恭平の壮大な嘘により、たばかれていた場合。


 これが絶対に有り得ない、と思う。


 今までの行動的にそろそろこういう空気を作った上でネタに走りそうで怖いんだが、少なくともあの空気でこれだけのネタを挟むことはしないと信じたい。




 ちなみに昨夜に恭平からメールが届いた。

 どうやら研究所の壊滅は成功したらしい。


 三人の様に明確な成功例はおらず、生み出された実験体達は静かに眠らせてあげたらしい。

 今は残党狩りという名のペンギンバーベキューに勤しんでいるようだ。




――――北極をアロハシャツで……。



 写真が添付されていたから間違いない。


 そこには研究者達が山の様に積み上げられ、その上で焼き鳥を頬張っているグラサンアロハの恭平が写っていた。

 相変わらずの行動に正気を疑うが、


――ああ、いつものことか…………で終わってしまう辺り、自分も大分毒されていると気がついてしまった。


 というか写真撮ったの誰だよ。

 ああ、特対室か……ならしょうがない。あそこも十分濃いからな。





 思考を戻そう。


 一つ目と三つ目に関しては、このまま対策を施そうと今すぐ俺たちが襲われるわけではない上に、規模が世界レベルになってしまう。

 そうなるともう、手に負えないことなので対処は施政者しせいしゃ達に丸投げする。


 問題は二つ目だ。


 俺達が直接的に対処の必要が出てくるであろう問題。

 二つ目に絞った時も幾つかの推論に派生する。



 まず、動けない場合。


 組織と連絡が取れず、単独であることもあいまって動けない。

 行動を起こすにもマンパワーも下準備も足りていない。

 そして連絡が取れたとしても、組織からのバックアップが未だ届いていない為動けない。

 最後に恭平が北極の研究所を潰した事で、その対処に追われて動けない。等、何らかの事情で動けない場合。



 次に動かない場合。




 連絡が取れたが予想以上に警備が固く、動き出すことは出来るが、それを良しとしない。

 公になれば、国対国の殴り合いになるため慎重を期していると考えられる。

 もしくは成果は欲しいが、そこまで積極的に必要としておらず好機が来るのを待っている。






 どちらでもなく、動けない場合。




 こう派手に行動を起こしていないという事は報告が行っていない。

 が、女研究者単独で動いている。もしくは単独で動かざる得ない状況。


 これが一番、説として弱い。





 一番有力なのは間違いなく二つ目の動けない場合。








 こうなってくると時間との戦いになる。

 此方の準備が整うか、向こうの襲撃が先かの競争になる。

 現在、この国にいる戦力だけで襲撃を掛けてくる可能性もあるが、これだけ時間が経っているのに襲ってこないという事は、俺達のタイムリミットまで襲撃が無い可能性が高い。


 だが、逆にここで襲われるのが一番高いのも事実。

 援軍が来ないのに焦れて、逃亡の恐れもあるのだから尚更だ。


 もし、情報が出向班までたどり着いているのであれば、2週間で切り上げる予定を必ず耳にするはずだ。

 向こうが此方の退却時期を勘違いしてくれる可能性があるのは嬉しい。


 実際は後ニ日で退却の目処が立つのだから。



 恭平からの不定期連絡により、部下が此方に訪れるということも把握している。

 俺も会ったことのある人物で安心した。


 まさかあの人が特対室のメンバーだったとは思いもしなかったが、会うのを楽しみにしつつ思考を止め、部屋を見回す。







 俺が居るのは四日前と変わらない部屋。



 そう、あえて俺は拠点を変えることをしなかった。

 発信機の信号が途絶えてから拠点を変えたんじゃ遅すぎたからだ。


 間違いなく、記録に、記憶に残る。


 履歴を追われれば必然的に俺にたどり着くことになる。

 ならばいっそ、拠点を変えずにいることに決めた。


 三人には危険を承知で、時間をずらし別名義で隣の部屋に移ってもらった。

 緊急時に即座に駆けつけることも考慮にいれ、



 左右の部屋の壁をぶち抜いた。




 小洒落こじゃれた衣裳箪笥タンスごと、後ろの壁に穴を空け、箪笥を空けて飛び込めば此方に入ってこれるようにした。


 元の配置が隣り合って置かれていたこともあり、違和感は無いはずだ。

 もちろん中にはバスローブ等が入っており、その後ろには恭平が残していったベニヤ板で塞げるようにした。


 そこに迷彩魔導を使えばまずわからない。


 魔力検知に関しては、俺が対策庁の職員ということを利用して、常時魔力を使っていると言えばいい。


 実際使っている場合が多いからな。


 間近で検知されない限り見つかる事はないだろう。

 それにそこまで部屋に侵入させるようなことはしない。



 もし万が一、見つかった場合は戦闘をそこそこに切り上げ撤退の二文字在るのみだ。

 少なくとも後遺症等のデメリットを無視すれば、三人の戦闘力は俺より上だ。


 その三人を処分、又は捕獲の為に送られた人員。

 間違いなく俺じゃ歯が立たない可能性が高い。

 故に撤退路としての機能も持たせた左右ぶち抜き。


 ダメなら窓からフライアウェイする所存だ。

――――なぁに、七階から飛び出すなんて五歳の時に経験済みだ、恐れることじゃない。






 今一度部屋を確認していると箪笥から何かが、おそらくベニヤ板のずれる音がした。


 どうやら三人が此方に来たようだ。




「ご飯を食べましょう。葵、少し寝ててもいいですよ」


「何かあったら、すぐに起こすからゆっくりね」


「カメラは見てる。おやすみ」



 三人が俺に休むように伝えて来る。


 確かに最近はあまり寝ていない。

 交代制も考えたが、まだ幼い三人に任せるわけにはいかなかった。

 カメラにクラッキングを掛け、各部屋に設置されているモニターで、常に見れるようにはしているが、それでも感覚強化した周囲把握の方が正確だ。


 こういう緊張した状態なら今までの経験や天野式で鍛えられた勘の方が頼りになる。

 カメラを誤魔化すすべが無いわけじゃないしな。現に俺が使えるし。



「とりあえず、飯は皆で食うか」



 できれば食卓は皆で囲みたい、と思うのは俺の我儘だろうか。

 用意したテーブルにルームサービスで予め頼んでおいた軽食をテーブルに並べる。

 三人が揃えて返事をし、準備に取り掛かる。


 縁が食器を並べ、燈火が飲み物を取りに、雫はモニターを切り替え、ロビーのカメラを移してテーブルから見えるように向きを変える。


 四日も経てば元々順応力の高い子供たちだ。大分手慣れた手つきで準備を進めていた。


 これで少なくともモニターが誰かしらの目には入るはずだ。




――――少し眠いな。






 食事を終え、仮眠に入ることを伝えてソファに寄りかかる。


 すると縁が俺の膝に乗ってくる。

 女の子だからなのか、子供だからなのか、あまり重さを感じることが無く、少し戸惑った。


「少し寝るから、向こうでテレビでも見てればいい」


「ここからでも見えますよ。それに真っ先に起こす為にも近いほうがいいでしょう?」



 だからと言って膝の上に乗る必要はあるのだろうか?と、普段なら思ったはずだが、今の俺には縁の言葉が正論に聞こえてきてしまう。


 どうやら当たり前の考えも浮かばないぐらい俺は眠いらしい。

 それを見た、燈火、雫の二人も俺の左右にひっついてくる。


 四日間で大分遠慮がなくなったらしい。


 まあ俺の反応が鈍いからなのだろうが、もう少ししたら自由に主張を通せるような感じになるだろう。


――――縁が順応するのが早すぎるだけだからなぁ…………。



「じゃ、頼むわ。おやすみ」



「「「おやすみ」」」





――――ああ、眠い。そんな取り留めもない事を考えながら俺は意識を落とした。








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