世界オークションはどうしても欲しい!!

ちびまるフォイ

世界オークションが開催されました

「さぁ次出品されたワールドはエアワールド!

 この世界では地上という概念がありません!

 常に空を飛びながら生活できる爽快感が味わえますよ!」


オークション主催者は後ろのスクリーンにエアワールドの内容を映した。

モモンガみたいな服を着た人達が空を楽しそうに待っている。


「では、100万から!」


「110万!」

「120万!」

「200万!」

「200万1円!」

「210万!!」


世界を落札するためにどんどん値段が釣り上がっていく。

みんな現実世界とは別のサブ世界を持ちたいと思っている。


「300万!!」


俺の声とともに会場からは「おお」と歓声があがった。


「いませんか!? ほかにいませんか!?」


そして今日。俺は新しい世界を手に入れる。

現実世界と購入したサブ世界を行き来する素敵な二重生活を――。


「400万」


「んなっ……!」


別の誰かがさらに値段を釣り上げた。

自分の貯金残高を確認し、もうこれ以上太刀打ちできないと知る。


「いませんね! いませんね、では落札です!!」


落札者のおじさんは嬉しそうに世界水晶を手に入れた。

主催者はバラバラと指人形みたいなものを世界水晶に流し込む。


「いやぁ、落札できてよかった。こんな年になっても

 新しい世界に触れたいと思うなんて、人間は欲深いねぇ」


おじさんは世界水晶の中に体を滑り込ませて別世界へと向かった。

いいなぁ……。


「本日の競売は以上です、またのご利用をお待ちしています」


オークション終了後も頭の中は会場で見た映像でいっぱいだった。

未練がましく自分の中でフラッシュバックする。


「はぁ……もっと俺にお金があれば……」


こんな退屈な現実世界だけでなく刺激的な別世界を楽しめるのに。


「って、ここで引き下がれるかーー! 絶対に手に入れてやる! 別世界!!」


その日から俺は仕事を3つかけもちして働きまくった。

目はお金のマークになって、限界を訴える体を奮い立たせる。


そして、ついに600万まで貯めることができた。


「っしゃあああ!! これで負けないぞ! 絶対手に入れるんだ!!」


300万でドヨつくらいだからこれだけあれば心配ない。

世界オークション会場に入ると競売される世界が紹介される。


「今回の世界は、マジックワールド!

 この世界では機械文化ではなく魔法でなんでも動かされています!

 そう! ゲームやアニメでの体験ができますよ!!」


「うおお! きたきたきたーー!!」


なんという最高のタイミングで、最高の世界が来たのだろう。


「では100万からスタート!」


「110万!」

「150万!」

「150万1円!」

「200万!」


「さ、300万!」


俺じゃない人間が値段を提示して会場をざわつかせた。

まるで過去の自分を再現しているようだ。俺はとどめをさす。


「4 0 0 万」


300万で落札した人はがっくりと肩を落とした。これで終わりだ。


「420万」


「なっ……!」


別の人間がなおも値段を釣り上げた。おもしろい、俺に勝つつもりか。


「500万!」

「520万」


「530万!!」

「535万」


「540万!」

「541万」


「このっ……しつこい!! 600万!!!」


俺はついに虎の子を出した。


「700万」


「はあああああ!?」


万策尽きた。なおも値段を上げる落札者に俺は完全敗北した。


「よろしいですか!? よろしいですか!?」


主催者の終了宣言が耳に入ってくる。

あれだけ苦労してお金を貯めたのにまた残念でした、と帰るのか。

それだけはいやだ。


「1000万!!!」


会場からは拍手が巻き起こった。

金なんかない。あてもない。でも、落札してすぐに世界に逃げ込めばいい。


世界水晶は自分が許可した人間しか入れないから警察も追ってこれない。

お金がなくっても捕まることはない。

どうせ現実世界になんの未練もないのだから。


「ほかに落札はいませんか!? はい! おめでとうございます!!」


「っしゃあああああ!!」


他の落札者を蹴散らし、俺は新しい世界を手に入れた。


「おめでとうございます。世界水晶はあなた用に設定しました。ではお支払いを」


「はいわかりました。でもその前に……」


オークションスタッフから世界水晶を手に入れるなり、すぐに使った。

俺の体は誰も追ってこれない別世界へと転送された。



※ ※ ※



支払いの前に世界水晶を使った客はその場からこつぜんと姿を消した。

手渡したスタッフは慌てる。


「どどど、どうしましょう! お金まだもらってません!」


「まあ落ち着いてください」


「落ち着けませんよ!? だってこのままじゃ逃げられちゃいますよ!」


「大丈夫、必ず戻ってきますから」


オークションの司会者は水晶の周りに警察を配置して静かに待った。

そして、読み通り世界水晶に逃げ込んだ客は内部から叫んだ。


「お、おい! この世界、まだ人がいないじゃないか!!

 人がいないゴースト世界じゃ、食べ物の調達もままならない!!

 お願いだから人を入れてくれーー!!」


「かしこまりました」


司会者は世界水晶の中に警察をたくさん送ってあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界オークションはどうしても欲しい!! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ