第4話 矢雨
次の瞬間、頭上から連続して、というよりほとんど合わさって同時に響きわたる、硬いもの同士が激しくぶつかり、連続して弾かれ地面に散らばる音。
だがしばらくたっても僕の体に矢が突き刺さることはない。
――どうなっている?
そう恐る々る目を開け、顔を上げる。
と、その視界に映し出されるのは、無数の矢が飛び来る中、矢の雨が放たれる前と全く変わらない様子で龍の背に乗り、周りを取り囲む大軍勢を、むしろ威圧するように
放たれた矢は龍と彼女の元に飛来すると、見えない何かに
その様子に、指揮官は続けて何事か指示を飛ばし、それに応じるように、今度は
だが矢より大きく威圧的なそれも、結局は矢と同じように
「放て! 放て! 闇の帝王を逃してはならん!」
指揮官が、
その指揮官の様子が
だがどれだけ攻撃しても、目標とする彼女は
そうこうするうち、矢と投槍が
巻き起こるざわめき。ある者は矢か投槍を求めて辺りを見回し、ある者は蒼い表情で隣の兵と顔を見合わせ、ある者は指揮官に指示を求める。
指揮官は明らかに
そんな敵の様子を見、ティアは
そして
するとその動作に合わせるように龍もまた、
直後、
そして四つん
周りの兵らはその様子をただ
そんな彼らに、ティアは視線をゆっくり左右に振り向け、指揮官に向けたものと同じ冷たい視線と表情を
そしてそれに応じるように、龍もまたその視線と
その一瞬、時間が止まったかのような
それはティアと龍が生み出した、恐怖という名の魔法であった。
そして
そうしてそれまでティアを取り囲んでいた城壁上の人の壁が、瞬く間に崩壊していく様を見、彼女は冷たい視線と表情を崩さないまま、しかしほんの一瞬だけ表情を
そしてもう一度ため息を吐くと、再び表情を引き
ぶつかる視線、彼女の向ける瞳を
「緑、あなたとはまた直ぐに再会することになる。それまでに頭を冷やして、自分の
ティアはそう、氷のように冷たく、刃のように鋭い声で言い放つ。
その
――目を
そう彼女の瞳を見つめ続ける。
流れる沈黙、時が止まったかのような一瞬。
数度の呼吸、
やがて彼女は先に目を
だがその瞬間、にわかに走る違和感。
――おかしい。だがなにがおかしい?
違和感の正体が何か、感覚では理解しながら言葉で表現できないでいるうち、彼女は龍に何事か
巻き起こる猛烈な風、とっさに腕で目を
そして直後、足元から伝わる衝撃に目を
龍はさらに空中で何度か翼をはばたかせ高度を上げると、あとは風を捕えて
そうして瞬く間に小さくなっていく影を見送るうち、先ほどの違和感の正体に気づき、はっとする。
それは先ほど目線を合わせた時の彼女と、7年前に
「目を
ありえない。
少なくとも7年前なら考えられない。
あの時の彼女なら、例え相手が自軍の十倍近い大軍だろうと、世界を救う神や、滅ぼす悪魔だろうと、自分にとって最も大切な人を目の前にしてさえ、決して目を
だが一方で、彼女の瞳に映った蒼い炎は、間違いなく7年前に負けないほど熱いものだった。
――どういうことだ?
違和感の正体には気づけても、その意味するところまでは理解できない。
そうしているうち、龍と彼女の影は厚い雲の内へと消え、代わりに別の方向、先ほどティアが何か思案するように視線を向けていた方向から何かが急速に迫るのを感じ、視線をそちらへと向ける。
すると程なく、視界の先に現れる3つの影。
一つは三頭立て二輪の空飛ぶ戦車(戦闘用の馬車)を
彼らは僕のいる塔にまっすぐ飛んでくると、高度を下げつつ着地体勢に入る。
猛烈な風に舞い上がる
続けて響く人が着地する音に、目を
馬車から降りた戦士は黒い鱗をいくつもつなぎ合わせた頑強な鎧を身にまとい、柄から刃に至るまで
そして
3人とも年はせいぜい高校生くらいのようだ。
「……間に合わなかった」
聖女が辺りを見回しつつ、暗く深刻な表情と声で
と、戦士はその言葉を聞き、
「……くそっ!」
吐き捨てつつ
そして僕に目を向けると、今にも殴りかかってきそうな怒りの
速度的には反応できないことはないと理解しながら、様子を見るため軽く両手を上げると、彼はそのまま僕の胸ぐらをつかみ、その
「お前……自分が何をしたのか分っているのか!?」
と、すかさず後方から、
「よせっ、彼は知らなかっただけだ」
勇者が、
「しかしっ……」
そう
「いや……これはむしろ神の与えたチャンスだ。完全に滅ぼすことができなかった闇の帝王を、今度こそ完全に滅ぼすことができる。そして彼はそれに必要な鍵だ。召喚された者は術者と深く結びつき、必ず再びめぐり合う。このまま追っても闇の帝王を
そう
その言葉に、戦士はもう一度僕を
と、今度は勇者が入れ替わるように僕の前へ出て、にこやかに話し始める。
「すまない、僕の仲間が
そう一度間をおいて、青年はにこやかだった表情を引き
「それまで分裂していた数々の闇の生物や魔物の勢力をまとめ、その大軍勢を
瞬間、空を覆う暗雲より放たれた青白い
本来なら、
だがその一瞬僕の
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