橘 聖夜
チャイムが鳴ると同時に教科書を仕舞えばするりと通学鞄を肩に掛け教室を後にする。
放課後というのは皆、部活動やら恋愛やらで充実した学生生活を送っているようでそこらから生徒の声が聞こえる。そんな音を塞ぐようにイヤホンを着用し、明るい声色で話すラジオを流した。
橘聖夜。マスクを常に付けており、片目を隠すように伸ばしている高校2年の男子生徒。所謂彼の通う高校は進学校と呼ばれるもので皆が期待を込められた金の卵という扱い方をされる様な感覚を覚える程、超難関大学への進学率も高い学校だ。生徒は自主的に行動の出来る有能な人材だと学校説明会で校長が嬉嬉として話していた覚えがある。
そんな中でも一際浮いたのが橘聖夜だった。学力には問題は無い。しかし、明るい雰囲気の学校・生徒に相反し、橘はろくに喋らず暗い雰囲気を発しているのであった。虐め等という下らない行為こそ無いが、皆がそれこそ自主的話し掛けに行くという事は無い。
部活動にも入らない橘は授業が終わればさっさと校舎から立ち去る。
あ-。疲れた。
コンビニで買ったコロッケにかぶりつきながら自宅へと足を進める。揚げたてといっていいのか分からないのだが、この食感の良いコロッケは最近のお気に入りでもあった。顎に引っ掛けていたマスクを付け直しコンビニの袋にゴミを入れていた。その時。ふと視界の端で黒い影が素早く通った様に感じた。
黒猫…?
影を追うように視線を移してもいつもと変わらない通学路。
気の所為か。
溜息吐き重い足取りで帰路を進めようとした。再度。視界の端で通る黒い物。さっと条件反射でそれに向かって手を出せばひやっとした空気と黒い布切れを捕まえた。
黒煙と死神 @kaimiyakailu
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