第十一話 混乱の撮影出し

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 三村が妙だ……。

 市川は圧倒的な気懸かりを感じていた。

 何が妙、といって、三村が依然として王子様然としている状態が続いている。物腰は優雅で、口調には気品が溢れ、絶対に喋る前に躊躇ったり、口篭らない。普段の三村を知る市川にとっては、別人としか、思えない。

 飛行船は、進軍する王立空軍の部隊との会合地点へと向かっている。引き続き無線連絡で、アラン王子をこの進撃部隊の軍団長に任命する旨、王宮よりの命令が伝えられた。

 王立空軍には、ドーデン皇帝よりの玉璽が押された任命書が携えられているはずだ。任命書を受け取った瞬間、アラン王子は──つまり三村は──空軍と陸軍を合わせての軍団を指揮する権限を付与される。もっとも……実際の運営は、将軍たちに任されるのだが。

「どう思う?」

 市川は山田と洋子、新庄たちと飛行船の空き部屋に集まり、切り出した。

 洋子は頷き、口を開く。

「そうよね。あたしも妙だと思ってた。あれから三村君、名前を呼んでも反応しないのよ。アラン王子、って呼びかけた時だけ、返事するのよね」

 新庄は忌々しげに腕を組んだ。三村は制作進行である。つまり、新庄の直接の部下である。その部下が、自分より身分が高い王子様とは、癪に障るのだろう。

「あの野郎、元の世界へ戻ったら、螺子をぎゅうぎゅう締め付けてやる! 制作進行って立場を、完全に忘れてやがる!」

「そうかもな」

 ポツリと、山田が同意する。三人は「えっ」と山田に顔を向けた。山田は、何事か一心に考え込んでいる表情であった。

 山田は顔を上げた。

「完全に忘れているのかもしれない。もう、自分が制作進行の三村健介じゃなく、ドーデン帝国の第五王子、アランだと思っているのかも」

 市川は、かっかと、頭に血が昇るのを感じていた。

「何でそうなるんだ! あの〝声〟が言ったろう? 五人が揃って、冒険を終わらせろって……。あいつが脱けたら、おれたち、元の世界へ帰れなくなるぞ!」

 山田が首を振った。

「五人揃って、とは言ったが、三村君があの状態では駄目だ、とは言っていないぞ。それに、おれは、ある考えが浮かんでいる。なぜ、三村君が王子様のままでいるのか……」

 市川は山田に身を乗り出して話しかける。

「本当かい? 本当に、訳が判ったのか?」

「推測だがね。今までの体験で、三村君はおれたち以外の、つまり『蒸汽帝国』のキャラクターが同席している場合、王子様となる。今は、エリカ姫が一緒だ」

 全員「あっ」と小さく叫び声を上げた。

「そうだよ……。エリカ姫と、三村は、いつも一緒にいる……。すると、エリカ姫……つまり田中絵里香は『蒸汽帝国』のキャラクターって結論になる……」

 市川は一気に捲し立てた。新庄は大きく頷いた。

「そうなんだ。おれ、絵里香と少し話したんだが、木戸さんの漫画は覚えているが、アニメについては完全に知らないらしい。つまり、最後に木戸さんが憶えている絵里香の状態なんだ。実際の田中絵里香ではない……」

 洋子が首をちょっと傾げた。

「それじゃ、エリカ姫がいない時は、元の三村君に戻るのかしら?」

 市川は勢いづいた。

「そうかもしれない! 試してみる価値はありそうだ!」

 洋子は目を光らせた。

「でも、難しいかもよ。あの二人、いつもべったりくっついているんだもん!」

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