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 もくもくと煙が三枚の繰り返しで作画され、時々乱闘を続けている客たちの手足や、顔の一部が見えている。

 本当に数十人の乱闘を動画で表現するのは至難の業で、「何か大騒ぎが起きているんだぞ」と、視聴者にメッセージを伝える目的の表現だ。動画枚数も節約できるし、テレビ・シリーズでは、よく見かけられる画面である。

 山田と市川は、その煙に飛び込み、洋子と思しき女剣士を探した。飛び込むと、すぐに洋子が見つかった。これも、アニメの省略だ。

「おい、洋子ちゃん!」

 ぐい、と女剣士の腕を引っ張り、山田が声を掛ける。

 呼びかけられ、女剣士の表情が驚愕に歪んだ。

「あ、あたし?」

 市川は、止めを刺した。

「宮元洋子。君の名前だろ?」

 洋子は「はっ!」と自分の頬を両手で押さえた。目を丸くして市川と山田の顔を凝視する。

「あんた……市川君、それに、山田さんよね?」

「そうだ! 思い出したかっ?」

 山田が大声で叫び返した。

「ど、どうなってんのよ……変な〝声〟が聞こえたかと思ったら、後は何も判らなくなって……。ここ、どこよ?」

 市川は周りの騒音に負けじと大声を張り上げた。

「『蒸汽帝国』の、最初のシーンで出てくる酒場だ! 原作そのままだ!」

 市川の叫びに、山田は、きっとなって睨んだ。

「何だって? 市川君。正気か?」

 市川は声を限りに喚いていた。正気を疑っているのは、自分でも同じだ。こんな馬鹿げた話、自分でも信じられない。

「他に考えられるか? おれ、少ししか原作を読み込んでいないけど、冒頭のシーンそのままの展開だと思わないか?」

 山田は唇を噛みしめ、大きく頷いた。

「そうだ。おれも読んでいる。何しろ自分が美術を担当する漫画の原作だからな」

 洋子が割り込んだ。

「ちょっと、もし原作そのままなら、これから大変な状況になるんじゃない?」

 市川と山田は顔を見合わせる。すぐ「ああっ!」と叫びあった。

「そうだ、原作通りなら、この後……」

 ぴりりりりり……!

 甲高い笛の音が、辺りを支配する。すぐに命令に慣れた、横柄な喚き声が聞こえてきた。

「乱闘が起きているというのは、この店か? よし、踏み込めえ──っ!」

 どかどかと重々しい靴音が聞こえてきて、見るからに警官といった扮装の集団が、店内に雪崩れ込んできた。

 全員、警棒と盾を手にしている。次々と乱闘を続ける客たちの手足を押さえつけ、手錠をガチャリ、ガチャリと嵌めていく。

「おい、逃げ出そう!」

 市川は素早く山田と洋子に囁いた。二人は、すぐさま「うん」と頷いた。

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