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 二人の女剣士は、店の出入口を塞ぐ格好で睨みあっている。視線は険しく、二人の間には、ぱちぱちと火花が散っているようだった。

 いや、本当に散っていた。二人の眼球からは、空中を繋ぐように火花が飛び散り、背後の背景は、怒りの炎を象徴したイメージとなっている。アニメでは、よく見られるテクニックだ。

 市川は呆気に取られ「本当にアニメの世界に入っちまってる!」と驚愕していた。

 一人は市川が悪戯に設定した、宮元洋子の女剣士姿である。極端に布地を節約した──つまり水着とほぼ同じような衣装を身に着けていて、胸の谷間がありありと見えている。

 市川は洋子の胸を、実物よりは二倍ほど強調して描いていたから、ほとんど顔と同じくらいの巨大な丸みが突き出している。そんなに大きいのに、重力に抗して、ぐいっと盛り上がっている眺めは、驚くべきものだ。

 もう一人の女剣士もまた、洋子に負けず劣らず……と言うべきなのか? ともかく最小限の布地で身体を覆っている。細い紐に、小さな三角布がついただけの衣装で、布地の足りない分をごちゃごちゃとイヤリングや、腕輪、脚輪などで補っている印象だ。

「その肉は、あたしのもんだからね!」

 洋子がテーブルの上で美味そうな湯気を立てている肉の固まりを指さして叫んだ。

 なんだ、食いものの争いか……。市川は思わず、心中ズッコケてしまった。

 山田を見ると、呆れた内心を表すためか、大きな汗が色トレスで描きこまれ、顔の上半分がブルーのグラディーションになっている。

 アニメのギャグ表現で、「ちょっとセンスが古いな」と市川は思った。多分、自分も同じような表情を浮かべていると思うと、うんざりする。

「何を言ってんのよっ!」

 相手の女剣士は叫ぶと、素早い動きでテーブルの肉をひっ攫い、口に咥える。

 洋子は「あっ!」と叫ぶと、相手に掴み掛かった。たちまち二人の間で、取っ組み合いが起きる。

 わあ! と店内が騒然となり、客たちが一斉に立ち上がって歓声を上げた。全員、興味津々といった表情を浮かべ、拍手をしている男も見受けられる。

「おい、止めなきゃ!」

 山田が立ち上がって、市川も釣られたように椅子を蹴って神輿を上げた。あたふたと山田は取っ組み合いを続けている二人の女に割り込んだ。

「止めろ! おい、乱暴はよせ!」

 しかし山田の言葉はてんで二人には届かない。むしろ火に油を注ぐ結果になって、洋子は山田の頬を「ぱしーん!」と音高くひっぱたく。

 山田は踵を中心に独楽のように回ると、ずでーんと音高く引っくり返ってしまった。

「山田さん!」

 市川が慌てて近寄ると、山田は床に大の字になって伸び、頭の上にはキラキラ星と、ピーチクパーチク騒がしく小鳥が囀って、くるくると円を描いている。

 やりすぎだ! 多分、木戸監督のセンスだろうが、悪ノリしすぎだよ……。

 市川は情けなくなった。

 顔を上げた瞬間、女の回し蹴りが腹に入ってきた。猛烈な痛撃が突き上げ、市川は一瞬空中に浮かんで、そのまま背後に倒れこむ。

「ぐぎゃっ!」

 悲鳴に目をやると、背中側に客の一人が押し潰され、じたばた藻がいている。振り回した拳が、偶然、隣で呑んでいた男の顎に命中した。

「何しやがるっ!」

 大声を上げるや、殴られた男は顔を真っ赤に染めて立ち上がり、仕返しに殴りかかってきた。

 市川は、ぶーん、と振り回した拳を、ひょいと頭を下げてよけた。男の拳は明後日を向いて、別の客に命中する。

 後はもう、大混乱である。

 次々と連鎖反応のように店内は殴り合いの饗宴で、椅子が飛ぶわ、テーブルが引っくり返るわ、瓶や食器が割れるわの大騒ぎ。

 市川は這いつくばった姿勢で、伸びている山田に近づいた。

「山田さん、おい、しっかりしろ!」

 ぺたぺたと頬を叩く。山田は「ぷう!」と息を吹き返し、両目をパッチリと開いて、キョトキョトと辺りを見回した。

「なんてこった……」

 呆然と呟き、上体を起こした。

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