行間01「道化師の願い」



 誰だって、人生においては自分が主人公だ。掲げる目標は違えど、それを達成させて輝かしい人生を掴み取りたいはず。スポーツ選手や学者として優秀な成績を収めたり……何であれ成功さえすれば、人生の主人公として誇れる。そう思うのが人間らしいし、それでこそ人間というものだ。


 ――だが真城 創伍だけは違う。


 彼は先の不幸の法則により、自分は人生の主人公であると思ったことがない。掲げた目標なんて達成しようにも、不幸が至る所で待ち受け、阻み、滑稽な姿を衆目に晒され、観衆は指を差して彼を笑う。


 まさに道化師ピエロ――舞台上で戯けさせられ、人々を笑わせ、英雄ヒーローが華やかに登場するまでの繋ぎ、立役者、脇役としての役割でしかない。

 道化が金色こんじきの冠を被るか? 剣を手に、白馬に乗りて果敢に戦場を駆けるか? 似合わぬだろう? だから創伍も、自分が良い顔をするよりも、誰かを笑顔にしたり、人の役に立ってると実感できれば、それで満足しているのだ…………表向きはね。


 そんな真城 創伍は、心の底から主人公になることを望み続けている。ただ彼の法則以外に、によって本人は忘れているのだ。そういう風に出来ているのだ。


 何も持ち合わせていない道化師ピエロでも……自分の輝かしい姿というものを全く想像出来なくてもいい。ただ自分も人生において主人公だと実感したい。自分という主人公を見て欲しい。だが不幸がそれを邪魔してくる。



 ――そんなの嫌だ。



 叶わぬ願いと諦めたからこそ、長い年月の間でその感情を押し殺し続けてきた。しかし心の奥底で、彼は今日までもう一つの願望を抱き続けていた。



 ――俺を主人公と認めてくれない世界なんていらない。そんな世界は消えちまえ。



 他者あってこその承認欲求とは矛盾している。だがそうなればそうなったで、きっとこの法則から解放されるだろう……と、まるで死を待ち続けるかのように、創伍は今日まで無意識に生きてきたのだ。



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