第一章
001*無差別殺人
ここ数か月、ある事件が世間を騒がせている。
無差別な連続殺人事件。
詳細は僕にもわからないが、どんどん奇怪さを増しているらしい。
犯人は切り裂きジャックの生まれ変わりだとか、メディアが話題性を狙ってでっちあげただけの作り話だとか、クラスではわけのわからない憶測が飛び交っている。
「だからさ、殺人事件じゃなくて動物の仕業なんだって! あんなことする人いるはずないもん!」
「いや、やるかもしれないぞ? 人間って案外残酷なモノだからなぁ」
「そもそも、本当に人間がやったなら、さすがに少しは証拠が残るはずよね?」
「心臓って、おいしいものなんでしょうか……」
「ば、バカ! 気持ち悪いコト言うなよ! ただ脅かすために持ち帰っただけだって……!」
来週期末テストがあるっていうのに、みんなは全く気にもせず事件の話を続ける。
誰が言ったわけでもないのに、犯人が死体を食べているというのはなんでか暗黙の了解になってしまっているらしい。
「なあ、
「え?」
突然うしろから声をかけられる。
馴染みのある人だから良かったけれど、こんな話をしているときに突然“カニバリズム”なんて言われたら、犯人に聞かれたんじゃないかと間抜けな心配をして腰をぬかしてしまうかもしれない。
「えっと、
「うん。もし犯人が死体を食べてるなら、そうだと思ったんだ」
育ちの良いお坊ちゃまで、普段はこんな話に興味を示したりしない。一応友人と呼べるくらいには仲良くしてもらっているつもりだけど、殺人事件の話を
「たしかに、そうでもないとおかしいよな。そうだとしてもおかしいけど」
カニバリズムという言葉になじみがないせいで、つい中途半端な返事をしてしまう。
けど、そうか。理由もなく人を食べるはずないんだから、もし本当に犯人が死体を食べているなら、犯人は高確率でカニバリズムなのか。
「……今日、予定ある? なかったら一緒に帰ったほうがいいと思うんだ。犯人、どんどんこっちに移動しているみたいだし」
不安そうに、
そう、それも不気味な点だ。
この事件の犯人は、移動しながら人を殺している。犯行現場が、こっちに近づいている。まるで、ここに向かうついでに腹を満たしているように――。
いや、物騒なことを考えるのはやめよう。昔からずっと運が悪いんだから、こんなことを考えていたら本当に巻き込まれてしまいかねない。
「わかった、一緒に帰ろう。僕もそうするべきだと思う」
「ありがとう」
「この事件ってさあ、本当に生き物の仕業なのかなあ?」
ふと耳に入った女子生徒の言葉が、やけに大きく聞こえた。
何人かが最近言い出した説のひとつで、犯人が生き物ではないというものがある。彼女はきっとそれを伝えたいんだろう。
そうわかっているはずなのに、なんでか、革新的な思い付きのように感じてしまう。
「もしかしたら、ユウレイがやったのかもしれないよ?」
「えぇー、それは無いよ! おばけなんているわけないじゃん!」
「あっ、ユウレイを馬鹿にしたな? 本当にいるんだからね、ユウレイ! 呪われるよお、憑かれるよお?」
「おばけなんていないから大丈夫だもーん」
うん、ありがちな会話だ。最近じゃあ特に。
なのに、やっぱり、とんでもない思い付きなんじゃないかと思ってしまう自分がいる。本当に幽霊の仕業なんじゃないか、と。
いや、そもそも、幽霊なんて本当にいるんだろうか。
たしかに、僕は昔から心霊写真だとかいわくつき物件だとかに妙な縁があるけれど、それだって、本当に幽霊がやっているとは限らない。
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