ドンドンドン
新吉
第1話
ドンドン…!開けくれよ!カギ忘れたんだ!俺だよ!ピンポンピンポン!階段やっと登ったんだ、疲れてるんだ!!わかるだろ!?おーい!
とあるアパートの一室。男が必死な様子で扉を力強く叩いている。扉には、男の腰あたりの高さにパカパカと開く(まるで郵便受けの差入口のような)箇所がある。それはおよそ、横ニ十五センチ、縦五センチ程の大きさをしている。中からすっと紙が出てきて、男は絶望する。
ドンドンドン!
ドンドン、ドン!!
ドンドンドン
ドン、ドドーン!ドン!!
男が扉を叩くのを止めるのを見計らい、穴から様子を伺おうとしている女の子がいる。つけっぱなしのテレビから大音量で
「残り三十分しかありません!」
と聞こえてくる。女の子はニヤッと笑って言った。
「あと三十分やろう!」
男はショックを受けるが何も言わずに、さっきの紙の裏にペンで何かを書いて郵便受けに入れる。それを見た女の子はふふふと笑って、もうちょっと頑張って、という。男は仕方なくまたドンドンと叩き出す。人が通りかかるたびやめてはまた始める。始め出すと必死で、声にならない叫びが響く。
「ねえ?もしかして、泣いてるの?」
「っう」
「泣かないで?」
ガチャ
「うう、やっと開いた」
「泣かないでよ、ごめんねやりすぎたね」
そうして中に入っていく。
それから少しして、
「ただいまー」
「あ、お母さん、おかえりー!」
「あら?お父さんご飯も食べずに寝ちゃったの、夜勤疲れたのね」
茶の間のソファにぐったりとしたお父さんが寝ている。女の子はその横で学校で習った太鼓の稽古をしている。といっても太鼓があるわけではなく、教科書に鉛筆で口でドンドン言っている。
「ドンドンドン、ドドーン、ドン、ドンドンドン、ドンドドーン!ドン!!」
「お父さん寝てるんだから静かにしなさいね?」
「はーい!」
「あとでお父さんんにも聞かせようね」
「うん!」
「あれこれ何?」
お母さんが拾った紙には「長いよ、もうつかれた」と書いてあった。お父さんの殴り書きだ。裏には「うるさいよ。だまってタイコの練習、いっしょにやろう」と女の子の字が踊る。お母さんはふふふと笑って、口を開けて眠るお父さんを見る。
「本当にお疲れ様です」
〇〇〇〇〇〇
ピーンポーン
「回覧板ですー」
「はーい」
「ねえ?こないだ旦那さん、朝にドアをドンドン叩いてたけど、もしかして朝帰りだったの?締め出したの?」
「え?何の話?」
「浮気?もう何かあったら相談乗るからね、親友でしょ!!」
「…は?え?」
ドンドンドン 新吉 @bottiti
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